ep.7♡眠らぬネズミと五月ウサギ
「あんた、誰」
「そちらは、ヤマネのクレミーですよ。いつの間に紛れ込んだのやら。
こら、クレミー!アリスから離れなさい」
オズウェルが目くじらを立てて怒っているけど、あたしに引っ付いたヤマネは離れる気配がない。
クレミーを覗き見ると、拗ねた顔をしてあたしの服にしがみついていた。
歳はリルよりも幼く12、3歳といったところだろう。茶色のさらさらした髪の毛の真ん中に、ヤマネの背のように黒くメッシュのように色が入っている。
肌は真っ白、目は真っ黒でくりくりで、尖らせた唇はピンク色だ。
文句なしに可愛らしい。
リルも美少年だが、彼はもう出来上がってるというか、一目で男の子だと分かる。
クレミーには少年とも少女ともつかぬ特有の魅力があった。
「アリス!こいつに騙されたらダメだからね!こいつ本当はすっごく腹黒で…」
「アリスぅ~」
「ん?」
「僕、クレミー。アリスのこと大好きだよぉ」
きゅうううん!
可愛すぎ!可愛すぎ!
オズウェルさんとリルがじとっとした目で見て来るけど気にしない!
甘ったるい声まで可愛くて鼻血を噴出しそうになった。
「おーい!オズウェルー!人参持ってきたぜ!」
「おやおや。フィルが帰ってきたようですね」
「フィルって?」
「三月ウサギのことだよぉ~。一緒にね、お茶会するのぉ」
あたしの疑問にクレミーが答える。へらん、と笑う姿が可愛い。
「お、今日は人数多いな!リルにクレミーに………」
「あ、えっと、はじめまして。フィル…くん?」
「ア、ア、アリアリアリアリアリス!?」
フィルくんは顔を真っ赤にするとざざっと1mほど後ろに下がった。
失礼だな。人を化け物みたいな目で見ないでくれよ。
「いつの間にアリス連れてきたんだよ!」
「んー?言ってませんっけ?」
「聞いてねーよ!」
相当怒っているらしい。
オズウェルに怒鳴り散らした彼は、あたしに向き直ってそろそろと手を差し出した。
「お、俺、フィル!よ、よ、よろしくな!」
「よろしくー」
膝にクレミーが乗っているので仕方なしに座ったまま手を握ると、フィルくんはかああっと耳まで赤くしてどこかへ走って行ってしまった。
「恥ずかしがり屋なんです、彼」
オズウェルが苦笑する。
リルはウィルくんが取ってきた人参をたらふく食べて幸せそうな顔をしていた。
「そういえば、クレミーとウィルにもおかしな所はあるんですよ。
クレミーは不眠症、フィルは五月に狂う、ってね」
確かにこちらを見つめるクレミーの大きな目の下には、うっすら黒い影が差していた。
「不眠症?…それは確かに大変!」
「いやアリス、私やリルも大変なんですが…」
聞こえない、聞こえない。