ep.5♡歪みの国
ひどいひどいと散々泣き喚いた後、オズウェルは涙を拭いながら話し出した。
「普通のアリスはね、可愛らしい白ウサギに釣られて自ら普通の国へ迷い込むのですよ」
「うーん、でも、可愛らしい白ウサギなんて見なかったよ?汚い黒ウサギなら何度か見たけど…」
「ちょっと!人のこと汚いってどういうこと!ひどいよアリス!」
「人じゃなくてウサギ、ですがね」
おいおいと泣き始めるリルをオズウェルが一瞥する。
「私たちにとって、アリスは不思議の国の心臓そのものなんです。アリスがいない時には私たちはこの世界の中で動くことができない。ただ例外として、アリスの世界で、アリスだけが見えるように動き回ることはできますけれどね」
「例の幽霊ね」
「………。しかし貴方は私たちに見向きもしなかった。アリスに見捨てられた不思議の国の住人は、歪みが生じてしまうのです。最も分かりやすい例は、リルですね。本来白ウサギであるはずのかれは、黒く変容してしまった」
「僕は外見だけどね、オズウェルは中身かな。いかれ帽子屋は狂ったように誕生日でもない日を祝っていたのに、この頃はめっきりティーパーティーを開かない。祝うといえば誰かの誕生日ぐらいかな」
「それのどこがおかしいのですか?」
「そう言ってる時点で既におかしいんだって」
よく分からないけど、あたしがこいつらのこと無視してたせいでなんか変になっちゃったんだよね…
「まあでも、そのままでもいいんじゃない?」
「…は?」
「リルは黒いの似合ってるしさ、オズウェルさんも…ほら、今の方が正常だって!」
あはは、と笑うと二人は同時にため息をついた。
「オズウェルはともかくさ、僕は困るんだって!白ウサギじゃなきゃアリスは追いかけてくれないし」
「どういうことですか!私だって…!
このドブウサギ!」
「なんだって?僕のどこがドブウサギなんだ!どっからどう見ても美少年でしょ!このナルシスト!」
おいおい…
リルはまだ若いからともかく、オズウェルさんどう見ても20過ぎてるでしょ。
良い歳して何やってんだこの人は…
突然喧嘩をおっ始める彼らに、あたしは帰りたい気持ちでいっぱいになった。