ep.3♡mad as a hatter
「ママ!眠れないよぉ…。楽しいお話、して?」
「ふふ、仕方ないわね。そうね…
あるところに、アリスという女の子がいました。
元気で明るく好奇心旺盛な彼女は、懐中時計を手に走っていく白ウサギを追って、不思議の国へと続く穴の中へと落ちて行きました。そして……」
♡♤♢♧
「疲れた!」
「おんぶとか嫌だからね!僕の骨が折れたら困るし」
こ、こいつ…!
信じられないほど失礼だな!
「もうあと少しだよ。ほら、この先に家が見えるでしょ?」
言われてみれば、リルが指差した先には一軒の家が建っていた。若緑色の木々ばかりが目に付く中、家があるのは珍しい。
「あそこが、オズウェルの家」
「オズウェルって誰?」
「ああ、いかれ帽子屋だよ」
小さく笑ってそう零す。
…いかれ帽子屋?
いかれてる、帽子屋さんってことかな。
ようやく家の前まで来ると、リルは迷うこと無くドアノブを回した。
こうして見ると、とてつも無く大きな家だ。
「オズウェルー?居るんでしょ、出てきてよ!」
大声でリルが呼んでも、家の中は静まり返ってる。まるで誰も住んでいないかのよう。
「オズウェル!面倒だからって隠れてないで出てきてよ!今日はアリスを…」
ガタガタガシャン!
「アリスだって?なんでそれを先に言わないんだい、このバカウサギ!」
凄まじく食器の割れる音に続いて現れたのは、見覚えのあるシルクハットの男だった。
「あ、あなた、あの時の…」
「ああ!覚えていてくれたんですね!私の愛しいアリス!」
「いや、あの…」
「ちょっとぉー、アリスが困ってるでしょ」
リルの言葉に帽子屋さんは申し訳なさそうに眉を寄せた。
前に公園で見た時は場違いすぎて変態にしか見えなかったけれど、この人もかなりの美形だ。この格好がここまで似合う人も珍しい。
「失礼しました。アリスが美しすぎて取り乱してしまいました。私、オズウェルと申します」
オズウェルさんはあたしの足元に跪くと、手の甲を取ってキスをした。
勘弁してくれよ…
「よ、よろしく…」
愛想笑いを浮かべながら、当然あたしは手の甲をスカートの裾で拭いた。