【05】 出会い
AM2:30
結局、明は美里の術中にはまって、ホテルを出るのがこんな時間になってしまった。
満足気に、今度は本当に寝入ってしまった美里に、『お先に、先輩!』とメモを残し、呼んだタクシーで一人ホテルを後にする。
勤労学生の身でタクシーへの散財は痛いが、十二月のこの寒空の中、二駅分とは言え、さすがに歩いて帰る気はしなかった。
美里との関係は、明が新聞社のバイトを初めてすぐに始まった。
何が気に入ったのか、盛んにモーションをかけて来る美里に、『俺のどこが良いんですか?』と尋ねたら、『死んだ弟にそっくりなのよ』と、嘘か本当か分かりかねる表情で答えが返って来た。
まあ。明にしてみれば、別に断る理由も無い。
それ以来、いわゆる『大人の関係』が続いている。
もちろん、美里は嫌いではない。
美人で、スタイルが良くて、仕事が出来て、SEXの相性もいい。
でも、それだけだ。それだけで、いい――と、明は思うのだった。
タクシーの窓から、流れて行く街のネオンの灯りを見るともなしに見詰めながら、そんなこと考えているうちに、うつらうつらしていた。
不意に、甲高い急ブレーキの音が響き渡る。
瞬間、身体が浮き前に振られて、前の座席のヘッドレストにしたたか顔面をぶつけた。
痛みとショックで一気に眠気が吹っ飛び、意識が覚醒する。
「っ痛ぇ……」
呻きながら、右手の平で顔を押さえた。
「す、済みませんっ。大丈夫ですか!?」
「何? どうしたの?」
慌てふためく運転手に問いかける。
「それが、女の子が……」
震える声で運転手が指さした先、五メートルほど先の道の真ん中に、明らかに少女と分かる人影が倒れていた。
何!?
明は慌ててタクシーから飛び降りて、駆け寄った。
思わず、少女のその姿に息を飲む――。
少女が身に付けていたのは、ピンクのチェック柄のパジャマの上衣だけだったのだ。
ぼろぼろに引きちぎられたそれは、もはや、服としての役目は果たしていない。
はだけたまだ幼さの残る胸には、幾筋もの痛々しい赤い傷が斜めに走っていた。
一目で、何があったのかが窺い知れた。
涙の後が残る顔に耳を近付けて、呼吸をしているのを確認する。
「救急車を早くっ!!」
タクシーの脇で、こわごわこっちを見ていた運転手に怒鳴り声を投げ付け、自分のジャンバーを脱ぎ、少女に巻き付け抱き起こした。
「しっかりしろっ!」
頭を揺らさないように、声をかける。
抱き起こしたその身体は、哀しいくらい冷え切っていて、軽かった――。