【04】 悪夢
目に飛び込んで来たのは、淡い茶色の絨毯に広がった赤い色彩――。
その色彩の中に、倒れ込んでいる見覚えのある人影。
「お……母さ……ん?」
母親が、倒れている。
赤い……血?
「お母さんっ!?」
その色彩が、血だと認識した瞬間、真菜は母親に駆け寄ろうとした。
その腕を、誰かに掴まれた。
加速が付いていた真菜は、バランスを崩して倒れそうになって小さな悲鳴を上げた。
「娘か」
妙に掠れた、低い嫌な声音。
一度聞いたら、決して忘れないだろう、そんな声。
真菜は、ゆっくりと声の主の方に視線を向けた。
背の高い、たぶん、男。
刑事ドラマに出てくる『銀行強盗』のような、ニットの黒い目出し帽をかぶっているので、人相は分からない。
そして、男は、男達は三人いた。
一人は、真菜の右腕を掴んでいる背の高い男。
もう二人は、ソファにうなだれてぐったりと座っている父親を、両側から抑え付けていた。
「な……に?」
「奥さんではダメでも、可愛い娘さんなら答えは違うんじゃないですか? 日下部さん」
多分、リーダー格なのだろう真菜の手を掴んでいる男がぐったりとした父親に、そう言って笑った。
表情は見えないが、声が、楽しそうに笑っていた。
「……知らない」
うなだれたままの父親から、絞り出すような呻き声が漏れた。
「そうですか。じゃあ、可愛いお嬢ちゃんの身体に聞いてみるしかないですね」
その冷たい言葉に、真菜は背筋が凍った。
「少し、遊んでやれ」
ドン!
と、凄い力で床に転がされ、後頭部をしたた打ち付けて気が遠くなる。
「うっ……」
呻き声しか、出ない。
男が一人、ニヤニヤと嫌らしい笑いを張り付かせて近付いて来るのを、真菜は朦朧とした意識の下で感じていた。
身体中が、痛い。
何故、こんなに、そこら中痛いの?
痛い。
痛いよ……。
助けて。
お母さん。
助けて。
お父さん――。
その声は、誰にも届かなかった。