二月二十二日は、ネコにゃんの日
吾輩は、ネコにゃんである。
この物語の、主人公……? 主猫公? よく解らないにゃん。
とりあえず、主役にゃん。
そして。
今日、二月二十二日は「にゃんこの日」。全国的にネコにゃんの日にゃーん。
みなのもの、くるしゅうない。よきにはからうにゃん。
と、いうわけで。
ネコにゃんは、じきじき、しもじもの者から貢物を受け取りに行くことに、したにゃん。
「あ、ネコにゃん。久しぶりでちゅー」
おお、そこもとは我が第一のしもべである、ハムスターのカジュブーではないか。
貢物は、なんじゃ? ネコにゃんとしては、そこもとが非常に美味そうに見えるぞよにゃーん。
はっ! いけないにゃん! カジュブーは大切なしもべであり、親友にゃん。どんなに美味しそうでも、食べちゃいけないにゃん!
「カジュブー、今日は何の日か知ってるにゃん?」
わくわくとしながら、問いかけるにゃん。
「勿論、知ってるでちゅー。だから、後で蘭たんの所に行く約束でちゅー」
お猿の蘭たんは、吾輩の第三のしもべにして、用心棒にゃん。めっぽう腕っぷしが強くて、たまにその辺の木をなぎ倒して振り回すにゃん。
吾輩など、巻き添えを喰らって何度吹っ飛ばされたか……置いとくにゃん。
何と言っても、今日はネコにゃんの日にゃん。苦い思い出は、とりあえず置いておくにゃん!
「蘭たんと、何か約束してるにゃん?」
何気なく、言ってみたにゃん。そうしたら、カジュブーは驚いたように髭をぴんと張ったにゃん。
「え? ネコにゃんは知らされてないでちゅーか? 今日は記念日だからって、蘭たん、張り切っていたでちゅー」
聞いてないにゃん! 呼ばれてないにゃん! ネコにゃん、仲間外れにゃーん!!
いやまて。今日は、ネコにゃんの日。大切な記念日にゃん。
だから、ツンデレな蘭たんは、きっと内緒で準備をしている。そうに、違いないにゃん!
憂い奴にゃん。
「サッキーも、楽しみにしているって言っていたでちゅー。だから、てっきりネコにゃんも誘われていると思っていたでちゅー」
カジュブー、皆まで言うな。にゃん。
吾輩には、お見通しにゃん。これは、サプライズ! にゃん。
だから、ネコにゃんはオトナの行動をするにゃん。つまり、サプライズに気づいているけど、気づいていないふりにゃん。
「そういえば、そうだったにゃん。忘れていたにゃん」
これにゃん。我ながら、スマートにゃん。
「ネコにゃん、もう、健忘症でちゅー」
腹をかかえ、丸まりながら、けたけたと笑う、ハムスターのカジュブー。その、丸々と美味そうな姿。
もう少しで、本気で襲い掛かる所だったにゃん。あぶなかったにゃーん。
カジュブーから詳細を聞けなかったので、我が第二のしもべにして我がブレインであるサッキーの所に行ってみたにゃん。
サッキーは、野生化したアライグマにゃん。可愛い顔をしてるのに、とても冷静で、たまに冷酷な時もあるけど、ネコにゃんの大切な仲間……今日は、しもべにゃん!
「蘭子嬢の招待ですか? 確かに、受けましたよ。楽しみですね。あ、でもネコにゃんは……」
めずらしく、サッキーが口ごもったにゃん。
これは、間違いないにゃん。吾輩への、サプライズである、何か。
それが、今夜蘭たんの所で行われるにゃん。
待ち合わせ時間とか、本当は聞きたかったにゃん。でも、サッキーは勘が良いから、ここは、気をつけないといけないにゃん。
「大丈夫にゃん。吾輩は、全然気にしてないにゃーん」
適当にお茶を濁して。
「サッキーは、何時ごろ家を出るにゃん?」
遠まわしに、聞いてみるにゃん。
「えっと、五時ごろですかねぇ。手伝えって言われてますし」
語るに落ちたにゃん。
つまり、蘭たんは五時ごろから仕込みに取り掛かる予定にゃん。何を仕込むのかは解らないけど、二時間後ぐらいがきっと吾輩の出番に違いないと、推測されるにゃん。
これだけ、解ればもう用はない。
サッキー、利発そうに見えて、まだまだ未熟にゃーん。
そうして。
ネコにゃん……あ、吾輩は余裕を見て午後六時半ぐらいに蘭たんの所に行ったにゃん。
そう、「たまたま通りかかった」ふりをして。
サプライズなら、このあたりで、声がかかる筈。
違っていたなら……違っている筈がない。だって、今日はネコにゃんの日なんだにゃん!
「あ、ネコにゃん。良い所に」
ほら、声がかかった。
おさるの蘭たんは、いつも以上に赤い顔をしながら、吾輩を招いてくれたにゃん。なんだか、どきどきするにゃーん。
「今日は二月二十二日だからさ、がんばったんだけど。負けた」
がっくりと、蘭たんが肩を落としたにゃん!
びっくりにゃーーーーん!
ありえないにゃーーーーーーーーん!
「な、何に負けたにゃん?」
もう、にゃんこの日も何も。
とりあえず、蘭たんが落ち込んでいる姿なんて初めて見たにゃん。だから、慰めるにゃーん!
「ネコにゃんは、蘭たんの味方にゃん」
蘭たんが、吾輩を見る。
吾輩も、蘭たんを見る。ああ、猿ながら、色っぽい。
「今日、何の日だか知ってる?」
知ってるにゃん。ネコにゃんの日にゃん!
「おでんの日だよ」
おでんのひ?
「ふーふーふーで、おでんの日なんだよ。だから、せっかくおでんを作ったのに。ほら、カジュブーははふはふしながら大根を歯車代わりに回っているし」
うん。ハムスターの習性にゃん。実にうまそうにゃん。
「サッキーは、なんか、洗ってるし」
うんうん。サッキーはアライグマだもん。洗うにゃん。
「ネコにゃん、役立たずだし」
何を言うにゃん! ネコにゃんはいつも誰かの為に戦っているにゃん!
だから、吾輩はがんばったにゃん。
「君に涙なんか似合わないよ。笑ってくれ」
「おでんの良さが解らないおまえに、何が解る!」
言うたにゃん。蘭たん。
ネコにゃんは、負けないにゃんよ。
「ネコにゃんを、満足させるにゃん!」
ふっと、蘭たんが笑う。
「では、喰らえ」
飛んで来たのは、材木だったら避けたにゃん。でも、煮抜き卵だったから、食いついてしまったにゃーん。
口のなか、大やけど。
おでんの日、おそるべしだ、にゃーん。
だって、猫は猫舌だし。
読んでいただき、ありがとうございました。