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かいだん

 吾輩は、ネコにゃんだにゃん。


 ネコにゃんは、ある日、決意をしたにゃん。

 そもそも、猫という動物は、不思議な力を持っているといわれているにゃん。

 ご近所のタバコ屋さんの招き猫は、右手を挙げているにゃん。『満腹食堂』の招き猫は、左手を挙げているにゃん。

 右手を挙げている招き猫はお金を呼び寄せ、左手を挙げている招き猫は、お客さんを呼び寄せているんだって、香穂里さんが言っていたにゃん。

 ま、吾輩的には、いつも「しっしっ」って追っ払われるタバコ屋のおばあちゃんより、ネコにゃんにたまにアジの干物――の骨を恵んでくれる『満腹食堂』のおばちゃんの招き猫になりたいにゃーん。

 いや、それよりも。

 香穂里さんに幸せを招いてあげたいにゃーん。そして、ずっとなでなでぎゅーしてもらうにゃん!

 でも、そのためには今のままではダメなんだにゃん。

 猫は長い年月をかけて、「ねこまた」になるにゃん。そうしたら、すごい力が身に付くにゃん。


 ――ねこまたと呼ばれるものに、吾輩はなるんだにゃん!



「で、何が聞きたいの?」

 ねこまたになるために、ネコにゃんはおさるの蘭たんの弟子になることに決めたにゃん。

 だって、蘭たんの怪力は、絶対に普通じゃないにゃん。あれは、妖術に違いないにゃん。

 それに、ネコにゃんよりずっと年上だし、古いことも良く知っているにゃん。きっと、百年ぐらい生きている筈にゃん。

 結論。蘭たんは、ただの猿ではない。

 きっと「ねこまた」ならぬ、「さるまた」なんだにゃん!

 でも、そんなことを正面から聞いたら蘭たんは怒りまくるにゃん。きっと、妖怪である事は、秘密にしたい筈にゃん。

 だから、ネコにゃんは考えた。蘭たんをおだて、なんとか妖術を教えてもらうにゃん。

「蘭たんは、吾輩の憧れにゃん。吾輩も蘭たんみたいに、強くなりたいにゃん」

 蘭たんは嬉しそうに笑って、頷いた。単純な蘭たんをおだてる事なんか、簡単にゃん。

「よっしゃ、よく言った。あたしゃ、どんくさくて弱っちいネコにゃんを鍛えたくて仕方なかったんだ。ネコにゃんがその気なら、話は早い!」

 どんくさい? 弱っちい? 蘭たんの目は腐っているにゃん! 吾輩はどんくさくも弱っちくもないにゃん!

 と、言いたいのは山々だったにゃん。でも、ネコにゃんはぐっと我慢したにゃん。

 なんとしても、蘭たんに妖術を教えてもらうにゃん。


 蘭たんの特訓は、それはそれは厳しいものだったにゃん。

 腹筋100回、腕立て伏せ100回の基礎訓練に、ランニング。

 一番きつかったのは、階段にゃん。

 ネコにゃん、上るのは得意だけど、降りるの苦手にゃーん。

 そんなこんなで、一日が終わり、

「では、ネコにゃん。この岩を割ってみなさい」

 一日の終わりに、蘭たんが言ったにゃん。相手は、小ぶりの岩。必死にネコパンチを食らわしても、岩はびくともしないにゃん……。てゆか、前足が痛いだけにゃん。

 蘭たんは、大きくため息をついたにゃん。

「見込み、無し。一日付き合ったのは、無駄な時間だったようだねぇ」

「ひどいにゃん! 蘭たんだって一日でさるまたにはなれなかった筈にゃん!」

 なんか、いきなり空気が凍りついたにゃん……?

「さるまた?」

 顔に凄みのある笑みを張り付けて、蘭たんが振り返ったにゃん。

「猿の妖怪のことにゃん! 猫の妖怪がねこまただから、蘭たんはさるまたにゃん!!」

 言い切った。

「だーれが、妖怪だ! てゆか、その用法は間違ってる!」

 蘭たんが振り回した電柱に弾き飛ばされながら、そういえば「さるまた」ってお父さんが夏に履く下着の事だった事に気が付いたにゃん。

 とんでもない、失言だったにゃん……。


 蘭たんに破門されてから三日間。

 吾輩は、筋肉痛に苦しむ事となったにゃん……。



「私に、相談ですか?」

 次に、吾輩が白羽の矢を立てたのが、野良アライグマのサッキー。

 優れた頭脳もさることながら、彼の爪が本気になると南●白○拳のようだと蘭たんも言っていたにゃん。

 ならば、きっとサッキーこそは、妖怪アライグマに違いない。

「サッキーの賢さの秘密を教えてほしいにゃん。ついでに、その爪の鋭さの秘訣も」

 サッキーはふふふと不敵に笑ったにゃん。

「私の場合は、賢いとは言いません。賢しいと言うのです」

「さ、さかしい?」

「そうです。『賢い』と表現されるものには、色んな意味があります。主に使われる用例では、『頭が良い』という意味でしょう。ですが、『かしこく』『かしこみ』『かしこき』などと、用例によって意味が違ってきます。畏怖の念にも使われますね。『もったいない』とか、『恐れ多い』とか。私の場合は、その言葉には値しません。ですので『さかしい』という表現を使いました。これは、ひとつ間違えれば『小賢しい』などの、負の意味合いになりますが、実に応用の効く言葉ですよ」

 サッキーが丁寧に説明してくれるのだけど、ネコにゃん、ちんぷんかんぷんにゃん。

「と、言うわけで私が自分を『賢しい』と表現したのは、利口であるという意味のほかに、生意気であるとか、健康であるとか、そういう用例があるからなのですが。……ネコにゃん?」

 無理にゃん。サッキーにものを教えてもらうなんて、ネコにゃんには無理にゃん!

 サッキーは、ネコにゃんが理解できない言葉を使うにゃーん……。

 すごすごと、退散する吾輩に、サッキーが後ろから声をかけたにゃん。 

「意義のある会談のひとときをありがとうございました。また、近々お願いしますね」

 振り返るネコにゃんに、ぺこりと頭を下げ、サッキー退場。

 

 そして吾輩は、その晩には知恵熱を出したにゃん……。



「ネコにゃん、なんだか元気ないでちゅー」

 そう言っていつものように吾輩にちょっかいをかけてきたのは、家出中ハムスターのカジュブー。

「カジュブーに、相談しても仕方ないにゃん」

 だって、カジュブーは。

 ハムスターだからネコにゃんより寿命短いし。何より、不思議な力なんか持ってるように見えないにゃん!

「言うだけ言ったら、楽になるかもしれないでちゅー」

 ちょっとムッとしたようにカジュブーがほっぺたを膨らませた。

「ね、ネコにゃん。よだれはやめてほしいでちゅー」

 ダッシュでネコにゃんから離れるそのスピードは、並みのハムスターではないにゃん。

「ネコにゃん、妖怪になって、妖術を使えるようになりたいにゃん」

 カジュブーは目をぱちくりさせている。

 ほら、やっぱりカジュブーには解らないにゃん。

 ネコにゃんはただ、妖怪になって香穂里さんを幸せにしてあげたいだけなんだにゃん。

 香穂里さんは、疲れている時によく「アニマルセラピー」とか言って、ネコにゃんをナデコナデコしてくれるけど、それだけで落ち着くと言ってくれるけど、ネコにゃんはそれだけでは不満にゃん!

 ネコにゃんの力で、香穂里さんを幸せにしてあげたいにゃん!

 その為には、手段は択ばないにゃん!!

「おいら、使えるよ。妖術」

 と、カジュブーがにぃっと笑って言ったにゃん。

「ネコにゃん。こっち来て」

 カジュブーに言われて、何も考えずに近寄るにゃん。

 ぷぅ。

 可愛い音に反して、それはものごっつう臭かったにゃん! カジュブー、昨日、何を食べたにゃん!!!

 しかも、まともに嗅いでしまったにゃん。不覚、であるにゃん。

「か、かじゅ……」

「何、嗅いだん?」

 べたっべたの関西弁で、カジュブーが言って、そのあと笑い転げているのを尻目に、

 吾輩はその後しばらく、そのまま固まってしまったにゃん……。


 恐るべし、カジュブーの妖術。

 でも、せっかく教わったこの妖術を香穂里さんに使っても、絶対に幸せにはなれないと、ネコにゃんは予感していたにゃん……。

……この物語はフィクションであり、実在の人物、団体、事件などにはいっさい関係ありません。

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