番外編 SFなのだ!(後編)
(前回までのあらすじ)
我が輩は、ネコにゃん。スペースシップ「信楽」の船長にゃん。
「信楽」は地球を遙かに離れて、未知の惑星「ポンポコリン」に降り立ったにゃん。
その直後、搭乗員である蘭たんが……。
「さて、どんなものでしょう」
前回のラストシーンのまま、我が輩は「信楽」のてっぺんで二本足立ちになりながら、目を凝らしていた。ちなみにカジュブーは我が輩の頭の上にのっかり、後ろ向いてやはり目を凝らしているにゃん。
さすがに、二本足の体勢ではきついと思った頃、サッキーが告げたにゃん。
「私がネコにゃんを転ばしている間に、ここで何があったにしても、ですよ。蘭子さんが簡単にやられちゃうとは思えないんですよね。さっきの悲鳴も助けを呼ぶと言うよりは、驚いた時の声みたいでしたし」
さすが、サッキー。冷静にゃん……。
ネコにゃん、壁に衝突した痛みと蘭たんの姿が消えたショックで、何も考えられなかったにゃん。
「それに、この砂の色は蘭子さんの毛皮色にとっては、保護色のようなものですし……」
そうか、蘭たんが我が輩たちを驚かそうとして、隠れているのかも知れないにゃん。
「とりあえず、蘭たんを探すでちゅー」
カジュブーが手をわきわきさせながら言ったにゃん。いつもなら「美味そうだ」とか思うんだけど、今はそんな場合ではないにゃん!
ネコにゃんは、船長にゃん。そして蘭たんは大切な仲間にゃん。だから、蘭たんがピンチなら助けるにゃん! そして、規律違反したなら、ちゃんと怒らないといけないんだにゃん!
我が輩たちは蘭たんを探した。
だが、日が暮れるまで探しても見つからない。「これは、ただの悪戯ではない可能性が高くなって来ましたね」と、サッキーが言ったので、取りあえず「信楽」に戻る事にしたにゃん。
でも、その「信楽」がないにゃん!!
あの茶色くてずんぐりとした愛らしいフォルムが、我が「信楽」が……。
広大な砂漠の中で「信楽」はあまりに小さくて。ネコにゃんたちは、すっかり道に迷ってしまったにゃーん。
「サッキー、発信器とか持って来なかったにゃん?」
「コスト低減の為、地球から持ち出したものも限られてるんですよね」
我が輩の問いに、サッキーが遠い目で答えたにゃん。
嘘にゃん。絶対に「うっかり忘れ」の言い訳だと解っていたけど、ネコにゃんはサッキーを責めなかったにゃん。だって、ネコにゃんもうっかり忘れていたんだにゃん。
「大丈夫でちゅー」
と、自信満々に言うのは、カジュブー。何か秘策があるにゃん?
「おいら、道々、これを捲きながら歩いていたでちゅー。だからこれを追えば信楽に戻れるでちゅー」
そう言って得意げにカジュブーが取りだしたのは……ひまわりの種。
……マスコット的存在とか、親友とか、そう言うことをちょっと置いておいて、と、ネコにゃんは妙に冷えた頭で思ったにゃん。
そう、折りからの風に舞い上がる砂といくつかのひまわりの種を見ながら。
「はい、ネコにゃん。とりあえずヨダレは拭きましょうね」
サッキーに言われて我に返る。ちょっと、危なかったにゃーん。
その時にゃん!
舞い上がる、砂の中に何かが見えたにゃん。
人造物であることは、間違いない。だが、信楽ではない。途中で折れて、砂の上に斜めに突き刺さった、それ。
白い編み目と独特の曲線が美しい、タワー?
ネコにゃん、どきどきしてしまったにゃん。
「あれは……まさか」
我が輩の視線の先を辿った、サッキーの顔が強ばる。そのサッキーによじ登ったカジュブーが、ひっくり返った。
間違いない。半分以上砂に埋もれたあれは、スカイツリーにゃん!
「でも、かなり小振りじゃないですか?」
「おいら、登った事あるでちゅー。もっと大きかったでちゅー」
確かにそうだと、近づいてみて解ったにゃん。本物のスカイツリーは634メートルだそうだけど、ここに突き刺さっているものはその50分の1程度の大きさにゃん。
でも、よしんば模型であったとしても。
ネコにゃん、さっきかから震えが止まらないにゃん。それは、ある結論に達したからにゃん。
模型であったとしても、スカイツリーがあるっていうことは、ここが地球である事には間違いがないのだにゃん。
誰かが、滅ぼしたにゃん。
許せないにゃーーん!!!
あれから、どれほどの時が過ぎただろう。何度日が昇り、月が巡ったのだろう。
もう、何のためにこの砂漠を彷徨っているのかも解らないにゃん。
蘭たんも、「信楽」も見つからない。何より、地球はもう滅びてしまった。ネコにゃんたちには、帰る場所も残されていないにゃん。
半分以上、自暴自棄になっていた頃。
気がついた時には、包囲されていたにゃん。
相手は、派手な隈取りを施した――たぬき。
間違いない。二足歩行をしているが、狸にゃん!
「お前らか。異なる惑星から訪れた来訪者とやらは」
先頭に立つ、リーダー格とおぼしき狸がそう言ったにゃん。
今こそ、説明しなければならないにゃん。
我が輩をはじめ「信楽」のメンバーが何故、この重要任務を与えられたのか。それは、我々には稀に見る「精神感応」能力が備わっていたからにゃん。メンツを見ても解る筈にゃん。ネコ、猿、アライグマ、ハムスター。こんなバラバラのメンバーで、コミュニケーションが取れるのは、この能力のおかげに他ならないにゃん。
別の言い方をすれば「ごつごー」って言うらしいにゃん。でも、そんなことは今はどうでも良いにゃん。
「いかにも、にゃん」
本当は「来訪者」じゃなくて「帰還者」にゃん。でも、それはもっとどうでも良い事にゃん。
「死にたくなくば、去れ」
そう言って、狸たちはネコにゃんたちを包囲する円を狭めたにゃん。我が輩は、ふんと笑って見せたにゃん。
「信楽を見失ったにゃん。見つかったとしても、信楽の操縦が出来るのは、蘭たんだけにゃん。だから、帰れないにゃーん」
どや顔で答える我が輩。と、
ふふん。
狸が鼻で笑いやがったにゃん。ちょっと、むかっときたにゃん。
その時、後ろで、何かぼそぼそと呟く声が聞こえたにゃん。
こっそり振り返ってみれば、サッキーがしきりに頭をひねっている。
「狸、信楽……スカイツリー……?」
そんなことを呟きながら。
やばいにゃん。サッキーがついに壊れてしまったにゃん。
「愚か者よ、では、この地で死ぬが良いわ」
狸たちが更に、包囲陣を狭める。
「おいら、負けないでちゅー」
カジュブーが、まるで励ましてくれるように、我が輩の右前足にすり寄る。
我が輩は、毛を逆立てて狸を威嚇したにゃん。ネコにゃんは船長にゃん。だから、最後まで仲間を守るにゃん!
「あ、ちょっと良いですか?」
そんな我が輩の横をあっさりと抜け、サッキーが狸の前に立つ。
「ちなみに、これが、うちの蘭子嬢なのですが」
サッキーが取りだした出した蘭たんの写真に、先頭に立つリーダー格の狸が固まったにゃん。
奴らは集まって来て写真をしげしげと眺め、
「へへー、女王様」
――平伏したにゃん。
「ほほほ、くるしゅうない。くるしゅうないぞよ」
ご馳走を前に満足そうに笑っている女王の前に、ネコにゃんたちは連れて来られたにゃん。
女王の背後には、例の壊れたスカイツリー。
そして、王冠をかぶってご満悦なのは、言わずと知れた……。
「あ、ネコにゃん、サッキー、カジュブー。ひさしぶりー」
「って、何をやってるんですか? 蘭子さん」
サッキーの目は、とっても冷たいにゃん。怖いからネコにゃん、カジュブーの後ろで小さくなってみるにゃん。
「ネコにゃん、全然隠れられてないでちゅー」
それは、言わない約束にゃん。
「聞きたい事は、ひとつ!」
サッキーが爪の伸びた右前足の人差し指を上げる。顔は笑っているのに、目が全然笑っていない。怖いにゃーーん。
「その、スカイツリーは?」
「あ、これ? ミスリード、みたいな?」
ミスリード?
「いや、あんたらがどういう反応をするか、楽しみで楽しみで」
けらけらと笑い続ける、蘭たん。
思った通り、一連の出来事は、この星の住人を手なづけた蘭たんの、手の込んだ悪戯だったにゃん。
人騒がせにも、程がある。
カジュブーの背後から、前に出る。
蘭たんの正面にサッキー、右横にカジュブー、その斜め前にネコにゃんという陣形で、蘭たんに詰め寄ったにゃん。そう、うっかり「その軌道上」に並んでいる事に気づかず。
何の軌道かって――「何をこしゃくな」と、蘭たんがスカイツリー(模型)を引っこ抜いて自分を中心に綺麗に弧を描いた、その軌道にゃん……。
「姐さん、行っちまうんですかい?」
二足歩行隈取り狸の姿をした異星人が言う。
我が輩たちは無事、「信楽」に戻っていたにゃん。茶色の特殊セラミックで作られた、独特のずんぐりとした形。この形を見て、この惑星の住人たちは神の降臨だと思ったらしい。
で、こっそりと近づいていたら、そこから降りてきた蘭たんと出会い、とんでもない勘違いをしたらしいにゃん。
「思ったよりも楽しかったけど、あたしらには大切な使命があるんだ」
狸たちと別れ、「信楽」に乗り込む。
船内でカメラを切り替えると、スクリーンには遠巻きに集まっている狸たちが、一様に平伏している姿が映し出されるにゃん。
何だか、偉くなった気分にゃん。
彼らに別れを告げ、轟音を上げてスペースシップ「信楽」は旅立つ。
まだ見ぬ、動物たちの安住の地を目指して。
そして我が輩は、その偉大な計画の要である、ネコにゃんである、にゃーん。
――おしまい、にゃん
ネコにゃんの冒険「SF編」です。
ちょっと舞台を変えてみても、取ってる行動はあんまり代わらないものですね。
読んでいただき、ありがとうございました。