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ネコにゃん、旅にでる(前編)

2月22日はにゃんこの日なので、ネコにゃんの冒険更新!

……前後編になってしまったのはご愛嬌で。

 吾輩は、ネコにゃんだにゃん。

 そんな事より、誰か、ネコにゃんに教えて欲しいにゃん。ここはどこにゃん?

 と、いきなりそんな展開から始まる物語にゃーん。


 

 気が付いたら、知らない場所だったにゃん。

 周りにはすっかり枯れてしまって、穂がまとわりついて来るススキやら、セイタカアワダチソウの名残やら。

 耳を澄ませば、水の流れる音。トイレの水やら台所の水とは違うにゃん。もっと柔らかい、川に水が流れているような、そんな音。

 吾輩が思うに、ここはどこかの河原の土手と見たにゃん。

 秋から冬にかけて、全く手入れをされていないような川の土手。見上げると、堤防沿いを走る自動車がたまに見える。

 そして吾輩は、毛布に包まれて、ここに居る。

 ちょっと、どきんとしたにゃん。

 このシチュエーションは、まずいと思うにゃん。

 そう。薄汚れた、毛布にくるまれて、何処とも知らない土手沿い。これは――待て、待つんだにゃん。

 シチュエーションだけで、そうと決めつけるのは良くない事にゃん。思い出すにゃん。思い出せるだけ、思い出すにゃん。吾輩は、何をしていたのか……あああああ。考えていたら、良くない考えばかりが巡って来るにゃん!

 落ち着くにゃん。

 たしか、吾輩は……。



 かくれんぼをしようと言い出したのは、確かハムスターのカジュブーだったにゃん。

 でも、二匹ではかくれんぼにならないので、いつものように蘭たんとサッキーを誘いに行って。

 そうだにゃん。あみだくじでオニを決めて。

 オニのサッキーを残して、吾輩たちはばらばらに隠れた筈にゃん。その後の事が、まったく解らない。

 これはもしかして、記憶そーしつというやつにゃん?

 本当に、全然解らないにゃーん!


 吾輩が頭を抱えていると、

「仕方ない。教えてやるでちゅ」

 どこからか、そんな声が聞こえて来たにゃん。

「実は、ネコにゃんは本当は人間の高校生なんでちゅ」

「むむ。にゃんと」

 それは初耳にゃん。

「幼なじみの蘭たんと、フェアリーランドに遊びに行った時に、黒服の男たちが密会しているのを見たでちゅ」

「蘭たんも、人間にゃん?」

 それも、初耳にゃん。

「そうなんでちゅ。ネコにゃんは、その男たちの密会現場を押さえて、警察に通報しようとした時に、うっかり見つかってしまったでちゅ。ネコにゃんは、かくれんぼが下手なんでちゅー」

「にゃるほど」

 余計なお世話にゃん。

「それでもって、後ろから殴られて、怪しい薬を飲まされたでちゅ。そうしたら、身体が猫になってしまって、今までの事も忘れてしまったんでちゅ」

 なんという、ドラマティックな展開にゃん。

 ネコにゃんが本当は人間の高校生だったなんて。しかも、蘭たんも人間で、幼なじみだったなんて……あるわけが、ないにゃん!

 それぐらいの事なら、ネコにゃんにも解るにゃん!

 てゆか、ついつい付き合ってしまったけど、遊んでいる場合じゃないにゃん。ここはどこで、吾輩が何故ここにいるのか。それを知るのが先決だにゃん。

「そこに居るのは、カジュブーにゃん」

「どうして解ったでちゅ?」

 ……その口調で、どうして、解らないと思うにゃん?

 てへへと笑いながら、物陰から出て来たのは、相変わらず丸々と太って美味しそうなハムスターにゃん。

 ああ、よだれがでそうにゃん。

 でも、その前に。

「何があったか教えて欲しいにゃん。ネコにゃんは、いつものメンバーでかくれんぼをしていたにゃん」

「そうでちゅ。ネコにゃんとおいらは、隠れる場所を探していたでちゅ」

 そのあたりは、さっき思い出したにゃん。野良アライグマのサッキーがオニだったにゃん。

「そうしたら、ネコにゃんが停まっている車の荷台が開いているのに気付いたでちゅ」

 そうだにゃん。だから、その中に隠れたにゃん。

 荷台には毛布みたいなものが丸められていて、それに包まれば誰にも見つからないと思った記憶があるにゃん。

「今日は、とてもぽかぽか暖かくて。毛布の中は気持ちよくて、おいらもネコにゃんもそこで眠ってしまったんでちゅ。でも、どんくさいネコにゃんはともかく、おいらは自動車が動き出す気配で目が覚めたんでちゅ」

 なるほど。飼い猫の吾輩とは違って、家出中のハムスターのカジュブーは外敵の気配に敏感にゃん。

 これは、半野生化しているカジュブーを褒めるべきであって、猫として人の気配にも気づかずに惰眠を貪り続けるのはどうよという問題ではないにゃん! 決して!!

「なんで、カジュブーは、吾輩を起こさなかったにゃん?」

「気持ちよさそうに眠っているネコにゃんを起こすような、そんな可哀相な事は出来ないでちゅ」

 成程。それで、知らない場所に連れて来られて。

 多分、車の運転手は気が付いたにゃん。自分の車の荷台にネコが乗っている事を。

 そうして、包まれている毛布ごとここに置き去りに……ううう。ありがちな展開にゃん。てゆか、それ以外、有り得ないにゃん。

「あの、ネコにゃん」

「ネコにゃん、捨てられたにゃん」

 最初から解っていた結論。

 そう、その事実だけは吾輩にも解っていたにゃん。ただ、思い当たる理由もなかったにゃん。でも、解ってしまったにゃん。

 全然知らにゃい人が、自分の車にいつの間にか勝手に乗り込んでいた猫を河原に捨てた。

 だから、吾輩にはここが何処だかわからにゃい。

「ネコにゃん、少し落ち着くでちゅ」

 言われなくても落ち着いているにゃん。

 ひっきりなしに歩き回っているのは、この灰色の脳細胞を活性化させるためにゃん。その様子が、「動物園のクマ」のように落ち着きなく見えるとしても、ネコにゃんは落ち着いているにゃん!

 そう。

 だから、ちゃんと吾輩は結論を出したにゃん。

 ここが何処だか解らない。

 どこだか解らない河原の土手沿いで、ネコにゃんが生きて行くのは、無理にゃーん。

 当たり前にゃん。赤ちゃんの時に香穂里さんに拾われて、それからずーっと香穂里さんと一緒に居たにゃん。冒険気分で外に出て、初めて出会ったのがカジュブー。

 吾輩を見て逃げ出したカジュブーを夢中で追いかけたにゃん。

 追いかけて、追いかけて。そうして、あの場所で蘭たんやサッキーと出会った。

 吾輩にとって、あの小さな場所と香穂里さんが全てにゃん。

「戻るにゃん」

「でも、ネコにゃん」

「カジュブーは、独りで生きて行けるかもしれないにゃん。でも、ネコにゃんは」

 そう。

 かくれんぼの途中だったにゃん。

 サッキーや蘭たんはいつまでもネコにゃんを探し続けるかも知れないにゃん。

 ちょっとした外出だったにゃん。

 香穂里さんだって、ネコにゃんが帰るのを待っているに違いないにゃん。

「ネコにゃんは、帰るにゃん。いつか、きっと」


 あの、「約束の地」へ。


 そうして、吾輩は走り出したのにゃん。

 帰巣本能の赴くままに。


            《続くにゃん》

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