黒い三連星
これは、小説仲間であるお三方の誕生日を記念して、描かれた物語である。
お三方の執筆の励みにでもなれば幸いである。
我が輩は、ネコにゃんだにゃん。名前が「ネコにゃん」という猫だにゃん。
我が輩の飼い主は、香穂里さん。雨がしとしと降る日に香穂里さんの家の軒先でにゃーにゃー泣いていたら、「うるさい」って水をかけられたのが我が輩と香穂里さんとの出会いだにゃん。
実は香穂里さんはイラストレーターさんで、アイデアに詰まった時はいつも、眉間に皺を寄せているにゃん。それは、美容に悪いからと言っても、聞いてくれないにゃん。
だってネコにゃん――いや、我が輩の言葉は、香穂里さんには通じないにゃん……。
でもでも、香穂里さんはそんな時は必ず、ネコにゃんをぎゅーっと抱きしめるにゃん。アニマルセラピーっていうんだにゃん。ネコにゃんをぎゅーすると、心が落ち着くんだにゃん。
そして、我が輩も香穂里さんにぎゅーされるのは、とても心地が良いのだにゃん。だから、大サービスして仔猫のおっぱいモミモミ攻撃で応戦するにゃーん。
そんな、幸せな毎日をネコにゃん……いや、我が輩は過ごしていたにゃん。
事件は突然、起こったにゃん。
香穂里さんが血相を変えて、我が輩をつまみ上げたにゃん。
「このエロ猫! どこに隠したの?!」
と、叫んでネコにゃんを振り回し……って、落ち着いて解説してる場合じゃないにゃん! 目がまわるー!
これが、『香穂里さんの下着消失事件』の始まりだったにゃん。
つまる話が、我が輩の愛する香穂里さんの下着――この場合、「愛する」は「下着」ではなく「香穂里さん」にかかっていることを誤解が生じる前に明記しておくにゃん。とても大事な事にゃん。
その下着が、消えた。何者かによって盗まれたと考えるのが、普通だにゃん。
かくして、ネコにゃんは立ち上がったのだ。
仲間達に声をかけて、「捜査本部」を設置したにゃん。
ネコにゃん、きっと真相を究明して事件を解決するにゃん。何よりも、香穂里さんの下着の為に!! そして我が輩にかけられた容疑を解く為に!
捜査本部が設置された神社の裏に、家出中のハムスター、カジュブーがやって来た。
カジュブーはとても頼りになる仲間なのだが……今日もコロコロと丸くて美味しそうなのである。
「ネコにゃん、ヨダレ拭いて下さい」
と、顔をゴシゴシしてくれたのは、野良アライグマのサッキー。顔を洗ってくれるのは良いけど、爪を立てるのは止めて欲しいにゃん。
「犯人は、解ったよ」
そう告げたのは、我が輩の参謀であり用心棒である怪力猿――本猿曰く「黄猿」という種類らしい――の、蘭たん。
もう犯人の目星がついたとは……さすが、蘭たんだにゃん。
「香穂里嬢の下着を欲しがっていたのは……あんただろうが、ネコにゃん」
ち、違うにゃん。ネコにゃんにだって、それぐらいの自制心はあるにゃん!
下着を盗んで香穂里さんに追い出されるより、ずーっと香穂里さんの所に居て、猫のおっぱいモミモミ攻撃をする方をネコにゃんは選ぶにゃん!
「それをきっぱり言い切るのも、どうかと思うけど」
と、呆れたように言う、蘭たん。
所詮、蘭たんはメスだから解らないにゃん。これはオトコの浪漫にゃん。
「そういえば、このあたりはカラス被害が増えてるんですよ」
サッキーが拳を握り絞め、言う。
「この間も、私のおやつを奪って行きやがった。カラス許すまじ!」
怒りにまかせて、そこに生えていた銀杏の木に爪を立てる、サッキー。銀杏の木が深くえぐれる。
野良アライグマ。可愛い顔して、けっこう凶暴にゃん……。
「『黒い三連星』と呼ばれる奴らが、のさばっているようです」
ぜいぜいと息をつく、サッキー。
「黒い三連星ね。面白い」
と、蘭たんが不敵に笑う。
「奴らとは一度、勝負をつけようと思っていたんだ」
先ほどサッキーが削った銀杏の木を抱え、引き抜かんばかりに力を込める蘭たんに、
「殿中でござるぅぅぅ」
我が輩、サッキー、そして小さいなりにカジュブーまで取り押さえにかかったにゃん。
でもって、全員が吹き飛ばされたにゃん……。
「先ずは」
と、蘭たんが地面に石ころをひとつ置いた。蘭たんが、「奴らの攻撃パターン」を伝授してくれるんだにゃん。
「ここにあるのは獲物だ。それを狙って、奴らはタッグを組んで来た」
正面に小石が等間隔で三つ。
「三匹とも、まっすぐ来ると見せかけて、一匹が左に」
真ん中の小石を左に移動。
「左から来た奴に牽制するあたしの隙をついて」
三番目の小石が右から獲物に迫る。
「右から来た奴が、獲物をかすめ取る。そして最後に」
まるで正面から何かが飛来して来るかのように身構え、一歩前に出た所で上を見上げる。
なるほど。まっすぐに飛んで来た一番手が、蘭タンをかわして飛んで逃げられた様子がわかったにゃん。
「最後の奴があざ笑うかのように正面から来てひらりと舞い上がり、『アホー』って……」
「わ、解ったにゃん。蘭たんが悔しい思いをしたのは解ったにゃん」
蘭たんは、怒ると木とか電柱を引き抜く癖があるにゃん。
ネコにゃん、断言する。蘭たんは普通の猿じゃなくてゴリラの血とか引いてるに違いないにゃん。
「黒い三連星に勝つには、私たちもタッグを組まなければなりませんね」
と、サッキーが言うと。
「それなら、考えがあるでちゅー」
カジュブーが、ぽんと手を打ち……小さな手わきわきと動く様が美味そうだと思ったことは内緒にゃん。
「それは良いですね。でも、その役は……」
「一番美味しいところは、ネコにゃんに譲るでちゅー」
我が輩が本能と戦っている間に、話は出来ていたらしい。
サッキーとカジュブーが目をきらきらさせながら、作戦会議を終えていたにゃーーん。
サッキーとカジュブーの立てた作戦は、「ジェットストリームアタック(?)返し」というシンプルなものだったにゃん。
つまり、相手が空を飛べる利点を生かし三位一体で攻撃してくるのなら、こちらは地面に生きる利点を生かして返り討つ作戦らしいにゃん。
奴らは卑怯者だから、群れる相手に戦いは挑まないにゃん。狙うのは、相手が一体だけの時にゃん。
だから、ネコにゃんが一匹で戦うにゃん。
って、どこからか話がおかしくなってきているにゃん。ネコにゃんはただ、香穂里さんの下着を……。
「いいから」
と、蘭たんが言う。
「あたしが助太刀に入るまで、持ちこたえろ」
なんで、我が輩なんだにゃん? ネコにゃん、すっかり飼い猫になっちゃってるから、蘭たんみたいな闘争心がないにゃーん。
「だから、相手がつけこんでくるっていう作戦に決まっているじゃないの」
蘭たんのいけず。
「その間に、私が奴らの巣を暴きに行きます。安心してください」
サッキーに保証されたので、ネコにゃん、がんばるにゃん。
かくして、作戦は実行されたにゃん。
獲物役は、カジュブーが引き受けて……くれると思ったら、それ、ネコにゃんのおやつのネコ缶にゃん!!
おやつを奪われない為に、絶対に失敗は許されないにゃん!
蘭たんが言ったとおり、奴らは正面から直線を描いて来た。
ネコにゃんは左右に惑わされることなく、まっすぐに相手に向かって飛び上がり、一匹目を叩く! ……駄目にゃん。飛距離が足りないにゃん!
と、いままでネコにゃんのお腹にへばりついて隠れていたカジュブーがいきなりネコにゃんの体を駆け上がり……額にたどり着いて、ジャンプ!
「お、俺を踏み台にしたぁ!」
思わず、お約束の台詞を言ってしまったにゃん……。
カジュブーが先頭の嘴にへばりつき、それをやっぱり踏み台にして、さらに跳ぶ。
そして、
「ネコにゃん、伏せるちゅーー」
って、もう跳んでるにゃん。
しかも運悪く、線上に跳んでしまったにゃん。
何の線かって、蘭たんが振り回した電柱が綺麗に弧を描いた線だにゃん……。
ネコにゃん――いや、我が輩はしばらく怒りが治まらずにいたにゃん。
蘭たんもカジュブーも誠心誠意謝ってくれた。そして、サッキーがちゃんと香穂里さんの下着を取り戻してくれたので、やっと機嫌を直したにゃん。
後は、これを持って帰って香穂里さんの誤解を解くだけにゃーん。
香穂里さん、喜んでくれるかにゃー。
ぎゅーしてくれたら、ネコにゃん心行くまで猫のおっぱいモミモミ攻撃するにゃーーん♪
ただいまー。見てみて、香穂里さん。これ、戦利品にゃん。
え? どうしてそんな冷たい目でネコにゃんを見てるにゃん?
え? ええ?
やめてーーー。
(おしまい)
お三方、大変失礼致しました。
謝りますので、許してください。(特にネコにゃん)
でも、続きは書きます(笑)




