お料理
という訳でちゃちゃっと倒せました。
目の前に転がるトカゲの死体は、私がやった物です。ただ、やっぱ火球で倒すのは難しかった。当たってもダメージがあまり通らないし、当てるのも難しい。だから崩星の規模をもっと小さくして、一部分だけを吸い取るように調整した。
狙い通りトカゲの頭に直撃した崩星は、トカゲの頭から首にかけてを飲み込むだけにとどまり、体は残っている。頭部が損傷しているけど、体の方が無事なら問題ない。
でもこれ、どうやって食べればいいんだろう。あまりサバイバルの知識がないので、悩む。
けどとりあえずは皮をはいで、解体しないとだよね。そのためにはスパスパっと切る必要がある。
よし、ここは新たな魔法を考えよう。えーっと、斬る魔法だから風でいいか。なんかカマイタチみたいなイメージがあるし。それで魔法はやっぱ、風を巻き起こして風で斬る感じだよね……。
よし。
「……風結・風刃」
掌を構えると、私を中心として風が巻き起こった。風は地面を駆け抜け、横たわるトカゲの魔物に容赦なく襲い掛かる。
しかし予想外な事に、トカゲは斬れなかった。おかしいな。地面は切り裂かれているのに、トカゲが切れないなんて。
トカゲの身体を触ってみると、凄く硬かった。堅いのは鱗だ。ベリっと剥がしてパンチしてみるも、ビクともしない。むしろ拳が痛い。
とりあえずむしってアイテムストレージにしまっておく。
そしてスケイル・デスロアの鱗がカンストまで手に入った。
で、もう一度風刃を放ってみる。
だけどトカゲの肉体を切り裂く程の威力にはならなかった。
気づいてはいたけど、どうやら私は闇属性以外が弱いらしい。
ただし、物理的に耐えられない攻撃は通る。先程蜘蛛達を潰した岩みたいな攻撃の事だ。あんな重い岩で潰されたら、魔法が弱いとか関係ないからね。そういう意味では、炎獄・火球ももっと大きな岩にして飛ばせば、多少威力が弱くても効くのかもしれない。いつか試してみよう。
んで、闇属性だけが突出して強いのは、魔王の加護のおかげだ。これに闇属性攻撃力アップがついている。
要するに、このスキルがなければ蜘蛛に負けていただろうね。勿論このトカゲにも。
それじゃあ闇属性で切り刻めばいいだけの事である。
いや待てよ。どうせなら風と闇を組み合わせてみるか。せっかく全属性の魔法が使えるスキルを持っているのだから、ハイブリッド的な魔法が使えても面白い。
えーと、そうだな……よし、考えはまとまった。
「闇夜・闇風刃」
魔法を発動させると、やはり風が巻き起こった。ただしその風は闇をまとっており、地面を大きくえぐり取りながらトカゲに襲い掛かる。
そして、スパスパっとトカゲの死体を切り刻んで見せた。あまりにもスパスパっと切れたものだから、気持ちが良い。
とりあえず足の腿の部分を四角形の形になるように切り刻み、それから更に薄く切ってスライス。砂がつかないようにトカゲの死体の上に広げておいておき、水を起こす。
「水月・水流」
ただ水をおこすだけの簡単な魔法だ。
手のひらから水が溢れ出て来るので、この水でスライスした肉を洗う。
けっこういい感じになったな。肉は脂身は少なく赤身成分たっぷりだけど、これはこれで肉って感じで良いと思う。
それから闇風刃で適当な岩を切り裂いて平らにすると、そこに向かって新たな魔法を放つ。
「炎獄・火炎」
こちらも普通に、ただ炎を起こすだけの魔法だ。平らにした岩の上を燃やして熱していく。
充分温まったかなと思って肉を置いたら、黒焦げになってしまった。火力を調整してもう一度やってみると、今度はうまくいった。
石の上で、赤身たっぷりのお肉が音をたてて茶色にやけていく。匂いは……かなり良い。いや、ちょっと臭いか?でもまぁ、許容範囲だと思う。
両面をこんがりと焼き、中身まで火が通っているか確認したら、はい完成。
こちら、『スケイル・デスロアの腿肉の石焼き』でございます。
ご用意いただく材料は、スケイル・デスロアの腿肉。平らな石のみです。消費MPはおおよそ1000前後になります。
何度も腿肉をカットしたから闇風刃でけっこう消費してしまった。
ではでは、お肉を口に運んでみる。
「もぐ、もぐ、もぐ……」
うん。固い。それにやっぱり、臭い。
でも食べられないような感じではないので、とりあえず充分だ。でもせめて焼き肉のタレがほしい。更には野菜や白飯がほしい。出来れば甘い飲み物とデザートも。
あれば苦労はしないけど。
とりあえず一枚のお肉を食べきって、残りのスライスした腿肉も焼いておいた。焼いた肉は、アイテムストレージにしまっておく。出来る限りストックを作っておこうと思って頑張ったら、余裕でカンスト分まで貯まった。ストレージにいれておいても、腐ったりするのかな。せっかくカンストするまで頑張ったのに、腐って食べれなくなったらショックだ。まぁそれはしまっておけば分かるだろう。
死体のスケイル・デスロアもストレージに入らないかなと試そうとしたけど、いれる事はできなかった。死体はダメなのかな。それともサイズの問題か。あるいは色々やってしまったせいで完全な死体ではないからか。分からないけど、考えられる理由はそんな感じかな。
はぁー……それにしても、昔みたいにまともにご飯を食べれるようになるなんて、思いもしなかったなぁ。最近は元の世界じゃ食事も一口二口程度だったから、感動だ。元気な体に、ご飯をちゃんと食べられる身体。これ以上の贅沢ってないよ。
腹ごしらえが終わり、MPも少し回復した。そろそろ行きますか。
私は再び歩き出して、 洞窟内を適当に進んでいく。
洞窟内では様々な魔物と遭遇した。
どの魔物もゲームでは見た事のない魔物ばかり。ゲームでは知る事の無かった、『アスレベ』の世界を、私は身をもって体感している。
寝て、起きて、歩いて、魔物と戦い、休憩して、歩いてまた魔物と戦う。こんな感じで、恐らく数日が経過したと思う。洞窟内で日の光がなく、時間の感覚がない。
名前:ヒメノ
種族:魔族
レベル:48
HP:25091 / 25091
MP:111721 / 253284
そして現在の私のレベルはこんな感じになっている。
レベルの成長にMPの回復が追い付かない勢いで、成長している。たったの恐らく数日でここまで成長するなんて、恐ろしい子。
それでもこの洞窟内ではまだまだ弱い方だけど、スキルのおかげで攻撃が面白い程に決まる。この調子なら、ボスの神獣だっけ。それだって倒せちゃったりしてと思っちゃったりもする。
それにしても広い洞窟だ。どれだけ歩いてもどこまでも続いていて行き止まりがない。そろそろ日の光が恋しい。
「……?」
とぼとぼと歩いていたら、おかしな気配を感じ取った。
ふと気づけば今までいた歩いて来た洞窟の中でも、広く開けた場所にいる。本当に広い。天井までどれだけの高さがあるんだろう。本当にここは洞窟の中なのだろうかと疑ってしまう。
そんな空間の奥の方から、件のおかしな気配がある。気配につられて歩いていくと、そこには箱が置いてあった。
なんだこれ。もしかして宝箱というやつだろうか。
罠の可能性もあるし、『鑑定』のスキルで一応鑑定してみると、『聖武具の箱』と名前が出た。
なんだか凄そうな気配しかしない名前だ。
『──うええぇぇぇぇ!ヒメノちゃん生きてたの!?』
一際明るい声が響く。声の持ち主が宝箱の中から出て来て、大きな反応はしなかったけどビクリと身体が動いて驚いた。
声の持ち主は勿論カミだ。まずは無表情の仮面のような顔が出て来て、続いて身体が出て来る。
「……失礼」
いきなり消えたと思えば、いきなり現れて失礼な事を言われたので、一応抗議しておく。
『ごめんごめん。つい本音が』
本音では死ぬと思っていたのか。でも確かに最初レベル3だった私が、こんな危ない洞窟内で生き残っているとは思いもしないだろう。許す。
「急に消えた」
『力が限界に来ちゃってねー。たまに休息しないと、こうして可愛いヒメノちゃんと話す事も出来ないんだよー』
なんて、わざとらしいお世辞を言ってくる。
でも確かに今の私は可愛い。人形のように整った顔に、流れるような黒髪はちょっと自慢したくなってしまう。手で払い、それとなくアピールしておく。
『それにしてもヒメノちゃん、自力でこの箱を見つけちゃうなんて凄いねー。本当はこの洞窟内にいる神獣を倒す事が出来たらご褒美的にあげるつもりだったんだけどー……いいでしょう!見つけられたご褒美に、今あげちゃいます!』
「……これ、何?」
『聖武具だよ。ボクが名付けた。ボクが使ってた超強力な武器の一つなんだけど、ヒメノちゃんに倒された時にこれもまた飛び散っちゃったんだよね。七つあるし、その内の一つをヒメノちゃんに進呈!』
くれるというなら、貰っておこう。手ぶらじゃさすがに不安だし、何か武器になる物が星かった所だ。
何が出るのかな。剣かな。弓かな。杖かな。出来れば杖がいいな。だって私、魔法使いタイプだし。
『ちょーっと待ったぁ!』
わくわくしながら宝箱に手をかけた所で、カミに止められた。
『聖武具は、手にした者が望む姿になる。だから開ける前に、欲しい武器の形を思い浮かべるんだ。決して余計な事を考えちゃいけないよ。武器の事を考えるの。いいね』
なるほど、自分が望む武器が手に入ると言う事か。それは慎重に考えながら開けないといけない。
私は頷き、宝箱に手をかけた。そして考えながら開く。
すると、中に入っていたのはなんのへんてつもない、ただのけん玉だった。




