空腹
目が覚めた私はまず、蜘蛛に被せられたネバネバとした液体を、水の魔法を用いて水を出現させて洗い流した。しばらく寝転がっていたので、液体は水気を失いカピカピとしていて、落とすのに大変苦労した。すぐに落とせばよかったと後悔するも、MPが無かったのでどうにも出来なかっただろう。
ついでに土を掘った事によって汚れた手も洗っておいた。更についでに水浴びして身体の清潔を保っておく。
出来れば石鹸とかも欲しい所だ。と思って魔法で創造すると、出来てしまった。
「水月・泡石鹸」
これを発動させて出現した水は、泡立ってとても良い匂いがする。こんなに便利な魔法なのに、消費MPはたったの5。ユニーク魔法が便利すぎて便利すぎる。
さて、レベルがあがったし身体もきれいになった所で、私はようやく初期位置から歩き出した。
レベルがあがったし、敵の倒し方も分かったし私敵なしじゃね。そう息まきながら、堂々と洞窟の中を進んでいく。
それにしても、明るい。天井や壁で光り輝いているのって、なんだろう。
鑑定で見てみると、『魔力結晶』と表示された。ほほう、これが魔力結晶か。小さな魔力結晶が、いっぱいだ。たまに落ちている光り輝く石ころがあるけど、これもそうみたい。拾って手に取って、眺めてみると七色に輝いてキレイだ。
ステータス画面を開いて、アイテムストレージをためしてみる。えっとー魔力結晶を収納、っと。頭の中でそうイメージをすると、手に持っていた魔力結晶が消滅した。
そしてスキルのアイテムストレージを開いてみると、50個に小分けされたセルが出現し、左端の一番上に魔力結晶×1と表示されている。
試しにもう4つ程拾ってストレージにしまうと、×5となった。つまりカンストまでは1つのセルを消費するだけで済みそう。次にカンストがいくつか確かめるため、99個になるまで拾ってみた。すると次の1個はストレージにしまう事が出来ずに手に残っている。
どうやら99個がカンストで、1つのアイテムに付き99個以上はストレージにいられないみたい。
ストレージに入らなかった魔力結晶は、ポイっと捨てておく。
途中分かれ道もいくつかあって、適当に歩いてしばらく歩いて進んでいくと、進行方向に蜘蛛が現れた。あのデカイ蜘蛛だ。名をカラグルスパイダーという。キモイ。相変わらずキモイ。
レベルは30。個体差はあるものの、倒した個体よりも弱い上に、今の私はレベル17もある。こんなの敵じゃない。
そう楽観視して構えると、その奥からもう一匹蜘蛛が現れた。更にもう一匹。天井にあいた穴からも次々と姿を現して進行方向一帯が蜘蛛で覆われた。100匹くらいいるかな。キモイ。
「……」
私は無言で蜘蛛達に背を向けて、駆け出した。
『ギイイイイイィィィ!』
すると、蜘蛛達が一斉に私を追いかけて来る。
ムリムリ、ムリムリムリ!
一匹だけならまだしも、この数は無理すぎる。というかキモイ。近づかないで欲しい。
しかし蜘蛛達の動きは速い。このままでは追いつかれてしまう。だから『魔力噴出』を発動した。瞬間、髪の毛が銀髪になって輝く。力が溢れる私は、一歩一歩踏み出すごとに魔力を噴出させて物凄いスピードで逃げていく。MPは消費するけど、仕方がない。
差は広がっていくけど、蜘蛛達は諦めずに付いて来ている。でもこのままならMPを使い切る前に逃げ切る事が出来そうだ。
そう思った時、前方の天井の穴から同じく蜘蛛が出現した。興奮気味に甲高いギィギィという鳴き声をあげ、私の方を見つめている。
先回りして、待ち伏せされた。後方からは蜘蛛が迫り、前方も塞がれては逃げ場がない。
どうする。さすがにあんな数の蜘蛛は相手に出来ないよ。どうする、どうする考えろ。
「考える暇がない」
そう文句を言いつつ、ヤケクソになった私は魔力を開放。両手を進行方向にいる蜘蛛達へ向けた。
「土轟・落岩」
私が狙いを定めた場所に、光り輝く大きな紋章が出現した。そこから次々と岩が降り注ぎ、蜘蛛を潰して洞窟を塞いでいく。
更に後方の蜘蛛達にも両手を向けて同じ魔法を唱えた。
所詮は知能を持たぬ者達よ。
蜘蛛達は出現した岩に右往左往し、何をしたらいいか分からないと言った様子で次々に岩に潰されて行く。やがて出現した岩は、私の前方と後方を完全に塞ぎ、蜘蛛達の接近を止める事に成功した。
ステータスを見ると、レベルが25にまで上がっている。さすがにレベル差が縮まったからか、あの数を倒してもあまり上がらないな。とはいえハイペースでレベル上げをしている事には違いない。
案外一匹ずつ倒すより、こうして群れていてくれた方が倒しやすいのかもしれない。狙いを定めずとも適当にうつだけで攻撃が当たるからね。
でも気持ち悪いのは嫌だなぁ。
そしてそれ以外にも問題は残る。
前を見る。岩で塞がれている。後ろを見る。岩で塞がれている。天井。穴がない。地面も穴がない。
即興で何も考えずに魔法を放ってしまったせいで、後の事を考えていなかった。完全に閉じ込められて、行き場がない。
だって仕方ないじゃん。蜘蛛がキモかったんだよ。あんな大群の蜘蛛に囲まれたら、誰だってパニックになる。
えっと、MPはあとどれくらいだろう。
MP:3189 / 20118
なんだ、コレ……。
私が記憶している限り、ゲームのHP・MPは9999が限度のはず。それを超えてしまっている。
いや、そうか。私はゲームの操作キャラクターではない。だから限界は99万になるのか。どんどん強くなるなコレは。
ちなみに今発動した落岩は、消費MP200くらいだった。最初4000くらいの所からのスタートだったので、落岩と魔力噴出で逃げて来た分を合わせて800ちょいくらいを消費している。
で、現在のMPのマックスは2万を超えたので、もう使い放題じゃね。だって闇夜・崩星なら消費量が確か180くらいだったから……111回うてる。ぐにゃぐにゃ曲げ放題の、吸い放題だ。
ま、今の私ならこんな窮地から脱出するなんて、簡単な事ですよ。
「闇夜・崩星」
指先に極小のブラックホールを作ると、それを崩れて塞がれた岩に向かって投げ捨てた。するとブラックホールが一瞬にして岩を飲み込み、私一人分くらいの穴が開く。更にもう何度か放つと、無事にトンネルを開通する事に成功。崩れた岩の向こう側に行けるようになった。
『ギイイイィィィ!』
おっと。
トンネルの向こう側に蜘蛛の生き残りがいたので、もう一度崩星を放っておく。一瞬にして飲み込まれた蜘蛛は、1匹だけじゃない。3匹くらいは巻き込んだかな。
それでまたレベルが上がった。
もういない?もういないよね?警戒しながら進んでいくと、外へ出る事に成功。蜘蛛は見当たらない。
あーよかった。あんなキモイ光景、もう二度と見たくない。
安心したら、お腹がグーっと鳴った。
そういえば、この世界に来てから何も食べていない。そりゃお腹も減るよ。何か食べ物は……服というか、ぼろ切れを探るも当然何も入っていない。
もし仮に入っていたとしても、そんな物は食べたくない。
さて、どうしたものか。チラリと岩の下敷きになっている蜘蛛に視線を向ける。
確か蜘蛛って食べれたよね。
いやいや、ムリムリ。こんなの絶対に食べたくない。
それじゃあこの空腹は一体どこへ向ければ良いんだ。教えて神様。
「……」
願いながら、天を見上げた時だった。
天井に魔物が張り付いていた。その魔物が口から黒い霧を吐き出し、私に浴びせて来た。
魔物は、頭から尻尾まで5メートル程はある巨大なトカゲだった。尻尾は紫色で、見るからに毒々しい。体には緑色の鱗がつまっており、頑丈そう。足には立派な爪がはえており、その爪を天井に食い込ませて止まっている。
もしかしたら今吐かれた霧は、毒なのかもしれない。でも残念。私は『魔王の加護』により、状態異常耐性を持っているから効きません。
私は驚きつつも魔法を放つ準備を整える。掌を構え、崩星を──……いや、待て。トカゲは食べれるはずだ。崩星で吸い込んだら死体が残らないので、避けるべき。
「炎獄・火球改」
私はトカゲに向かって火球を放った。火の玉がトカゲに向かっていくも、トカゲは火球を避けて地面へと降り立つ。
改めて見ると、デカイ。デカすぎる。ただその分肉厚で食べる所も多そうだ。蜘蛛と比べればよっぽど食料として相応しい。
名前:スケイル・デスロア
種族:魔物
レベル:47
HP:310000 / 310000
MP:7240 / 7240
レベル47か。まぁ問題ない。
ちゃちゃっと倒して、腹ごしらえをしよう。




