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初勝利


 健康な体は、私が喉から出る程欲しかった物だ。この世界にやって来ることによって、それが叶った。

 カミには少しだけ、感謝している。だってこの世界に来なければ、私は病弱のまま命を落としていたから。


 自分でも分かっていた。前の世界の私は、もうじき死ぬのだと。お世話をしてくれる家族は私の介護に疲れ果てていた。これ以上迷惑をかけるのは嫌だった。だから旅行に行くように私は全力で訴え、私は私でゲームに情熱を燃やして必死だった。


 突然魂の無くなった私を、家族はどう思うだろう。安心するだろうか。悲しむだろうか。それを知る術はないけど、私はこの世界で元気に生きています。これを伝える術もまたない。


「……炎獄・火球」


 おー……。

 とりあえずカミが言っていた通りに魔法を使ってみた。最初は苦労したよ。魔法の使い方がよく分からなくてね。

 色々試した結果。なんかこう、自分の中から溢れ出て来るエネルギーを感じ取り、それを体の底から溢れ出るようにイメージ。溢れ出て来た物を大気中に感じるなんかとグチャグチャに混ぜる感じを更にイメージして、頭の中で魔法を創造。呟くと、魔法が発動する。よくわかんないけど、そんな感じ。

 ここまでかかった時間は、体感で2時間。ようやく魔法が使えるようになった。


 初めての魔法は、火の玉だ。私の掌の上に浮いた状態で具現化されている。掌にくっついてくるので、これを放り投げるような感じでイメージして、ポイっとなげると勢いよく飛んでいく。そして壁にぶつかり、壁を爆破して壁を焦がした。

 威力としては、そんなに高くない。音は派手だったけどね。壁は砕けず、消費したMPは20。今の私にとってはかなりの消費量である。でも、本気を出すならもうちょっと威力をあげられそうだ。


 意気込んでおいてアレだけど、私はまだ初期位置にいる。


 だってこの洞窟内、弱くてもレベル30代の敵がうじゃうじゃいるんでしょ?強ければ70代。加えて神獣と呼ばれるカミの魂を持つボスキャラまでいる。


 怖い。


 せめて戦う準備くらいはしておかないと、普通に死ぬだけだと思う。


 ちなみに骸骨は手で掘った穴に埋めて埋葬しておいた。丁度柔らかい場所があって助かった。

 この身体のパパや、忠臣達よ。安らかにお眠りください。


 消費したMPだけど、スキルがなくとも自然と回復する。今火球で消費したMPは、既に1回復しているね。何かのスキルがあれば、もっと回復が早くなるのだろうか。


 さて、次はどんな魔法を使ってみようかなー。


 思考を巡らせながら周囲を見渡したら、視界の端に蜘蛛がいた。一回通り過ぎたけど、戻って確認。蜘蛛がいた。

 しかも、ただの蜘蛛じゃない。デカイ。2メートルはある。しかもなんか細い奴じゃなくて、毛がついて肉肉してるやつ。キモイ。掌サイズでもキモイのに、2メートルあるんだよ。キモイ。キモすぎる。


 すかさず『鑑定』のスキルを使い、ステータスを拝見。


 名前:カラグルスパイダー

 種族:魔物

 レベル:33


 HP:101100 / 102480

 MP:40332 / 41360


 カミの言っていた通り、レベルは30代。これでもこの洞窟内では雑魚なはずだ。でもそれよりも雑魚なのがこの私、ヒメノである。


 私を倒しても何にもなりませんよー。私は雑魚だからねー。ソロリソロリと、目線を外さないように後ろに歩いてその場を後にしようとする私。


『キイィィィィィィ!』


 すると突然蜘蛛が甲高い鳴き声をあげた。8本ある内の前側の2本の前足をガチガチと打ち付け合い、ヒトデのように4方に開く口を思い切り開き、その中身のギッシリと詰まった牙を見せつけて来る。

 控えめに言って、やる気満々。次の瞬間、その場から高くジャンプして一気に私の方へと飛んで来た。


「っ……!」


 私は必死に横っ飛びして、空から降って来た蜘蛛を回避した。

 蜘蛛が着地した地面が、蜘蛛の足によって穴が開いている。私がいた場所って、岩っぽくて堅い場所だったんだけど、おかしいな。こんな簡単に穴があくものなのかな。


 困惑する私に向き直った蜘蛛が、私に向かって口から何かを吐いて来た。


 反応する事が出来ず、その液体を被ってしまう。

 ドロドロの、気持ちが悪い液体だ。明らかに体に悪い物である。慌てて手で拭って払おうとするも、ネバネバしているので落とせそうにない。でも、なんともなかった。でも、気持ちが悪い。


 ……やりやがったな、魔物風情が。


 私は魔法を使う準備に入る。先程の、魔法を使うための手順を追えてから呟く。


「炎獄・火球改」


 そして掌上に出現した、先程よりも一回り大きな火の玉を蜘蛛に向かって投げ捨てた。


 火球は、黙って私の様子を見つめていた蜘蛛に直撃。大きな爆発と煙が巻き起こって蜘蛛の姿が見えなくなる。


 やった……訳がない。


『ギイイィィィ!』


 怒った様子の蜘蛛が、煙の中から現れた。体の一部を焦がしたものの、蜘蛛はご健在である。


 HP:100700 / 102480


 先程よりも、400のHPが減っているではないか。つまりえーと……あと253回程火球改を打ち込めば倒せる事になる。


 ……無理だ。


 今の火球で消費したMPは、30。残りMPは、266。そもそもMPが低すぎる。


 死んだらどうなるんだ?ゲームでは、ゲームオーバーとなってセーブポイントからやり直しになる。あるいは蘇生魔法か蘇生アイテムで復活出来る。

 現実っぽいこの世界で死んでも、そんな感じで復活って出来るのだろうか。


 迫って来た蜘蛛が、前足を私に向かって振り上げている。岩をも砕くその攻撃を受ければ、恐らく私は一撃であの世行きだ。

 死んだ自分の姿を見て、ゾッとする。死んでなんかいられない。


 私は咄嗟に駆け出し、蜘蛛の身体の下へと滑り込んだ。

 頭上を蜘蛛の脚がかすめたけたけど、ギリギリで回避成功。そのまま蜘蛛の下を通り抜けて背後に回り込む。そして背後に再び火球を打ち込んだけど、やはりダメージは少ない。


 火球でこの蜘蛛を倒すのは無理だ。考えろ。何か勝つ方法があるはずだ。再び攻撃を仕掛けて来た蜘蛛の攻撃をかわしつつ、思考を巡らせる。

 そもそもこれだけレベル差があるのに、敵の攻撃を避ける事が出来ている。ゲームなら上限はあるけど、9割がたは当たっているはず。それを避ける事が出来ているのは、ここがゲームではなく現実の世界だからだろう。

 現実は確率ではなく、自分の動き方次第でいくらでも選択肢が出て来る。

 加えてスキルや魔法が勝敗を分ける。


 私のスキル。『ユニーク魔法』と『魔王の加護』、『魔力噴出』辺りが戦闘に使えるはず。説明を見ている暇はない。説明を思い出せ。

 ユニーク魔法は、魔法を創造する事が出来る。魔王の加護にはなんか色々な各種耐性がついていたな。そうだ、確かその中に、闇属性の攻撃力がアップすると書いてあった気がする。魔力噴出は、よく分からないけどカミが本気モードとか言っていた。


 これらを組み合わせれば、勝てるっ。かもしれないと自分に思い込ませる。


 私はスキルの魔力噴出を発動させた。その瞬間、自分の身体が驚くほどに軽くなった。同時に長い黒髪が銀色に輝き、色が変わる。

 体の中から、力が溢れてみなぎる。私は向かい来る蜘蛛の前脚による鎌攻撃を、高くジャンプして避けた。空中に逃げた私に対し、蜘蛛が更に前足で攻撃を仕掛けて来るも、溢れる魔力を利用して空中で仮の足場を作る事が出来、別方向に飛んでかわす事に成功。蜘蛛と距離を開いた場所に着地した。

 確かに動きは凄い。でもこのスキルを発動している間は、凄い勢いでMPが減っていくようだ。残りのMPは200を切った。


 蜘蛛と距離をとった私は、蜘蛛に向かって手を向けながら頭の中で魔法を創造する。イメージするのは、闇の魔法だ。闇と言ったら光まで吸い込むような強烈な暗闇が思い浮かぶ。


 蜘蛛が、こちらに向かってジャンプした。着地点は私だ。


 光を吸い込むような暗闇と言ったら、ブラックホールみたいな感じか。空間を捻じ曲げる程に強力な奴。実際見た事はないけど、何かで見たCG映像を参考にして思い描く。


 蜘蛛が私に向かって降って来る。私は蜘蛛に狙いを定める。


「……闇夜・崩星」


 魔法が発動し、私の掌から小さな黒く丸い物体が放たれた。それが私に降り注ごうとする蜘蛛に向かっていき、蜘蛛も降って来て球体に向かってくる。


 球体と、蜘蛛がぶつかり合ったその瞬間。蜘蛛がぐにゃりと曲がった。骨とか、肉とか関係ない。本当に面白いくらいにぐにゃりと曲がって曲線を描いた姿が、一瞬だけ見えた。そして蜘蛛が入るにはあまりにも小さな球体の中へと吸い込まれていき、蜘蛛と球体は一瞬にしてその姿を消した。


「……」


 あとに残るのは、静寂だ。カミが消えた時のような、騒がしさからの静寂が訪れた。


 すると突然、頭がグラリと揺れて魔力噴出が自動的に解除され、元の黒髪に戻った。異様なまでに身体がダルくなり、立っていられなくなって地面に座り込む。

 ステータス画面を開くと、MPが残り3しかない。どうやらMPを消費すると疲れてしまうようだ。


 でも、勝った。私は勝ったのだ。初勝利である。


「はぁ、はぁ……」


 息を切らして天井を見つめながら引き続きステータス画面を確認すると、レベルがあがっている。


 名前:ヒメノ

 種族:魔族

 レベル:17


 HP:184 / 1498

 MP:3 / 6254


 一気にレベルが14も上がったではないか。凄い。

 ただしこのゲーム、レベルが上がってもHPやMPが回復しないシステムなので回復しなければいけない。


 あと、HPとMPの上がり方に差があり過ぎじゃないですかね。そりゃまぁどうやら私は魔法使いタイプのようだけど、このままじゃすぐにMPがゲームのカンストである9999に達してしまう気がする。


 まぁーどうでもいいや……。


 今はとにかく疲れた。少しだけ休もう。


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