命はウマい
命は、うまい。
ただ流されて生きてきただけでも、うまい。
いろんな出来事を経験してきていれば、さらにうまい。
何かに懸命に打ち込んできたものは、だいたいうまい。
魂が磨かれていれば、そうとううまい。
命は…とにかく、ウマイのだ。
目についた個体をひょいッと摘まみ上げ、もぐっと口に入れる。
口の中でとろけていく命は、咀嚼という至福の時間を与えてくれる。
命そのものの味もウマイが、命以外の部分もウマイ。
命と魂が織りなす神秘の融合が、宇宙の彼方からでも駆け付けたくなるようなウマさを生み出す。
肉という器に魂を植え付け、命という形態になる事で…感動をもたらす物体へと変容する。
この青い星が生まれたからこそ、命という物体が発生し…満足という至福を味わえるようになったのだ。
私たちを満たすのは、あらゆる命の…豪快かつ繊細な物語。
とりあえず貪って満足していた時代を経て、発展を見守りつつ進化する命をつまむ楽しみに至り。
差し出された命を大人しく食らい満足していた時代を乗り越え、己の好む個体を見つけて堪能することを知り。
命は、『命』として存在しているからこそ…そのウマさは格別なのだ。
無反応の命も、ウマイ。
乱痴気騒ぎの命も、ウマイ。
投げ出された命も、ウマイ。
逃げ出す命も、ウマイ。
自我を失った命も、ウマイ。
自棄になった命も、ウマイ。
命として存在しているものは、すべて…ウマい。
命として食されているものは、すべて…貴い。
命、ああ…命。
命…、ああ、命。
星が生まれた時に気になるのは、まず命。
星が消えそうになった時に気になるのは、やっぱり命。
短気に、のんびり屋さん、ガンコジジイ。
ちびっ子に、若者、肥えたおばさん。
ひねくれものに、犯罪者、しわしわの老体。
さえずるやつに、静かな奴、暴れん坊。
乗っ取られてる奴に、罪を背負ってる奴、正義の味方。
一般人に、著名人、田舎者。
転生者に、宇宙由来の個体、救世主の器。
食べれば食べるほどに発見する、命の可能性。
命…、命は、本当に…ウマい。
……この仕事が終わったら、絶対に命、食べまくるんだ。
決意を胸に、仕事に取り組む私であったが。
狙っていた集落の中は、すっからかん。
ビルも、地下鉄も、トンネルの中すらもすっからかん。
地中深くに隠しておいた奴も、すっからかん…。
誰だ、一気に全部持ってったのは……。
こんなに狩り尽くしたら、再起するまで何億年もかかるじゃないか!!
すっからかんの胃袋を抱えたまま、深海で優雅に移動する命をごぼごぼ飲み込み…とりあえずの腹を満たした私だったが。
ぶごべっ‥‥‥!!!
ほんの少しの…あぶくが立つ音と共に。
の み こ ま れ て ・ ・ ・ ・




