しょっぱいものはウマい
しょっぱいものは、うまい。
ただ塩を振っただけなのに、うまい。
なにかの風味が重ねられていれば、さらにうまい。
濃い目の味付けにしてあれば、だいたいうまい。
触感の違うものが入っていても、そうとううまい。
しょっぱいものは…とにかく、ウマイのだ。
塩を振って、もぐっと口に入れる。
口の中でしょっぱさと具材そのものの味が混ざり合う、咀嚼という至福の時間。
しょっぱさそのものの味もウマイが、しょっぱくない部分もウマイ。
しょっぱさと具材が織りなす神秘の融合が、神をも唸らせるウマさを生み出す。
塩を加えることで、ぼんやりかすむ食材が引き締まり…感動をもたらす物体へと変容する。
塩があったからこそ、しょっぱいものは生まれ…満足に繋がる至福の食事を得たのだ。
減った腹を満たすのにふさわしい、塩に抱かれ進化を遂げた食材たちの饗宴。
塩を振って焼くだけで満足していた時代を経て、塩由来の数多の調味料を好みに応じて選択する豊かな時代にたどり着いた。
塩を振った食材をウマいウマいと言って食べていただけの時代を乗り越え、甘いものや酸っぱいもの、苦いものといった味の変化を楽しめるまでに成長した。
しょっぱいものは、『しょっぱいもの』として存在しているからこそ…そのウマさは格別なのだ。
塩そのものは、しょっぱいものではない。
見境なしに塩をぶち込んで誤魔化したものは、しょっぱいものではない。
繊細な塩加減あってこその、しょっぱいものの…ウマさ。
食材とのバランスを極限まで考え抜いたうえでの、しょっぱいものの…貴さ。
しょっぱいもの、ああ…しょっぱいもの。
しょっぱいもの…、ああ、しょっぱいもの。
汗をたくさんかいた日には、しょっぱいものが食べたい。
お酒を飲むなら、やっぱりしょっぱいものをつまみたい。
白いご飯をたんまり食べるなら、断然しょっぱいものをおかずにしたい。
魚の塩焼きに、塩焼きそば。
塩ラーメンに、塩釜焼。
塩を振り過ぎたフライドポテトの神がかったウマさ。
バニラアイスに塩を入れた時の感動は忘れない。
漬物、干物、塩辛、ハムにソーセージ、ベーコン。
塩辛、たらこ、明太子に塩昆布。
駄菓子にスナック菓子、高級煎餅に珍味。
インスタントラーメン、家系ラーメン、次郎系ラーメン。
食べれば食べるほどに広がってゆく、しょっぱいものは美味いという見解。
しょっぱいもの…、しょっぱいものは、本当に…ウマい。
……この仕事が終わったら、絶対にしょっぱいもの、食べるんだ。
決意を胸に、仕事に取り組む私であったが。
買い置きのカップラーメンの棚は、すっからかん。
漬け物も、海苔の佃煮の瓶詰も、とっておきのサラミも賞味期限切れ。
お気に入りの定食屋は臨時休業、スーパーのお総菜コーナーは新装開店で人がわんさか。
すっからかんの胃袋を抱えたまま、目に入った焼き立てパンバイキングのお店にふらりと入ったわたしは。
どこそこ甘味の残る総菜パンや砂糖がたっぷりまぶされたドーナッツ、アン食パンにクリームパン、卵サンドにハンバーガー、明太フランスの端っこにベーコンエピのベーコンがない部分、中身がこぼれているカレーパンにサクサクのアップルパイなどを黙々と胃袋に詰め込み…、とりあえず空腹を満たすことに成功したのだった。




