めだまやきはウマい
めだまやきは、うまい。
ただ卵を焼いただけなのに、うまい。
ソースをかければ、さらにうまい。
ハンバーグや焼きそばに添えられれば、だいたいうまい。
熱かろうが冷たかろうが、基本的にうまい。
めだまやきは…とにかく、ウマイのだ。
カリッと焦げた端っこと、とろんとした黄身の絶妙なバランスが、至福をもたらす。
白身とまん丸い黄身ののどかな色合いが食欲をくすぐって、よりいっそうの満足感をもたらす。
油の敷かれた熱いフライパンの上に落され、じゅじゅっと焼ける、卵。
卵そのものの味もさることながら、調理という過程を経てそのうま味は爆増する。
生の卵は、火を通され全くの別物になるのだ。
めだまやきという形態になる事で…魅惑の塊へと進化する。
あって良かった…卵。
あって良かった…フライパン。
あって良かった…油。
あって良かった…調味料。
あって良かった…めだまやきと相性のいいメニュー。
卵があったからこそ、めだまやきという物体が生まれ…、愛され続け、今もなお歴史を刻んでいるのだ。
生卵を啜るだけで満足していた時代を経て、調理という工夫にたどり着き、日常に溶け込んだ、めだまやき。
平凡であるのに、世界中で愛されている、身近なごちそう。
めだまやきは、『めだまやき』として存在しているからこそ…そのウマさは格別なのだ。
めだまやきは、ただのおまけではない。
めだまやきは、決して空いたスペースを埋めたり、何となく乗せておけばいいだけのものではない。
めだまやきとしてこの世に存在しているものは、すべて…ウマい。
めだまやきとしてこの世界で食されているものは、すべて…貴い。
めだまやき、ああ…めだまやき。
ついつい選んでしまう、めだまやきの乗ったメニュー。
なんだか急に食べたくなる、めだまやき。
上手に焼けるとテンションが上がる、めだまやき。
双子の卵に遭遇した日は良いことがあるに違いないと予感し、めだまやきにありがたみすら感じる。
食べる事ができないめだまやきのモチーフに出会った時ですら、知らぬ間に手をのばしてしまう。
愛おしい白と黄色のほのぼのとした見た目に、いつの間にか手が伸びてしまう。
めだまやき…、なんという、魔性の食べ物。
一度頭に思い浮かんでしまえば、グルングルンとめだまやきが舞い踊る。
せせこましい頭の中で、美味そうなめだまやきがのびのびと羽を広げる。
食べてもいないのに、脳みその中はとろとろのめだまやきがもたらす極上の味わいが広がる。
……この仕事が終わったら、絶対にめだまやき、食べるんだ。
決意を胸に、仕事に取り組む私であったが。
割った卵は、黄身がつぶれ。
急にかかってきた電話に気を取られ、火加減を間違え。
対応してたせいで、焼き過ぎ。
バリョバリョの、じゃりじゃりに仕上がった、残念な食べ物が……。
そっと目を閉じ…、脳内のめだまやきを愛でながら、咀嚼する人が、ここにひとり。




