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 クルトは一日中、ずーっと手紙を眺めていた。

 ミミズの這ったような下手な字が、紙の上で右に行ったり左に行ったり。逆さ文字もあり、読むのに時間がかかった。だけど、読むことができてからは文字のひとつひとつが輝いて、すぐにそらで読めるようになった。


 学校からの帰り道、きょろきょろと見回して誰もいないのを確認してから、クルトは手紙を声に出して読む。


「こんにちわ」


「ぼくわ きみのえが だいすきです」


「ぼくに えを おしえてください」


 クルトにとって、生まれてはじめてもらったファンレターだった。

 クルトは家族以外に絵を褒めてもらったのがはじめてだった。


 うれしくて、うれしくて。

 クルトはひたすら読み返す。


「ぼくは きみのえが だいすき」


「だいすき……」


 自分の絵で心を動かされて、手紙までくれる人がいるなんて、まるで夢のようで。ニセモノじゃないのかな? と。クルトは何度も何度も、クリーム色のカードに書かれた手紙を、光にかざして見つめた。



 クルトの手のなかのカードが、パッと消える。振り返ると、いじわるな同級生ふたりがにやにやとしてクルトを見ている。


「返せよ、ぼくにきた手紙なんだ!」

「くるくるのクルトに手紙なんてくるか?」

「ファンレターをもらったんだ」

「クルトにファンレターなんて……」


 同級生ふたりはカードを見つめて、怪訝そうな顔をした。


「なんだこれ、読めねえ」


 ふたりはカードの裏面を見る。裏面には地図が書いてあった、きっと差出人の居場所だ。こちらも下手で、線がふにゃふにゃだったが、字よりは読めるものだった。


「……境目(さかいめ)の森だ」


「うわあ! 化け物からの手紙だ!」


 ふたりはカードを、わざと大げさに取り落とす。


「くるくるのクルトに、化け物から手紙がきたぞー!」


 はやしたてながら逃げ去るふたりの背中に、クルトは「うるさい!」と叫ぶ。

 地面に落ちた、砂埃に汚れたカードを拾い上げて、手でていねいに砂を払い落とす。



(境目の森の入り口じゃん。きっと人間だって住んでいるよ、薪をつくって生活する人とか)


(このカードをくれたのは、きっとぼくより小さな子どもだ。もちろん、人間の子ども。化け物なんかじゃなくて)


(だから……友達になれるかもしれない)


 クルトはまた、じーっと手紙をながめた。

 どれだけ下手な字の手紙でも、同級生のからかいがどうでもよくなるほど、それはクルトにとってとくべつで素敵なものだった。


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