1
クルトは一日中、ずーっと手紙を眺めていた。
ミミズの這ったような下手な字が、紙の上で右に行ったり左に行ったり。逆さ文字もあり、読むのに時間がかかった。だけど、読むことができてからは文字のひとつひとつが輝いて、すぐにそらで読めるようになった。
学校からの帰り道、きょろきょろと見回して誰もいないのを確認してから、クルトは手紙を声に出して読む。
「こんにちわ」
「ぼくわ きみのえが だいすきです」
「ぼくに えを おしえてください」
クルトにとって、生まれてはじめてもらったファンレターだった。
クルトは家族以外に絵を褒めてもらったのがはじめてだった。
うれしくて、うれしくて。
クルトはひたすら読み返す。
「ぼくは きみのえが だいすき」
「だいすき……」
自分の絵で心を動かされて、手紙までくれる人がいるなんて、まるで夢のようで。ニセモノじゃないのかな? と。クルトは何度も何度も、クリーム色のカードに書かれた手紙を、光にかざして見つめた。
クルトの手のなかのカードが、パッと消える。振り返ると、いじわるな同級生ふたりがにやにやとしてクルトを見ている。
「返せよ、ぼくにきた手紙なんだ!」
「くるくるのクルトに手紙なんてくるか?」
「ファンレターをもらったんだ」
「クルトにファンレターなんて……」
同級生ふたりはカードを見つめて、怪訝そうな顔をした。
「なんだこれ、読めねえ」
ふたりはカードの裏面を見る。裏面には地図が書いてあった、きっと差出人の居場所だ。こちらも下手で、線がふにゃふにゃだったが、字よりは読めるものだった。
「……境目の森だ」
「うわあ! 化け物からの手紙だ!」
ふたりはカードを、わざと大げさに取り落とす。
「くるくるのクルトに、化け物から手紙がきたぞー!」
はやしたてながら逃げ去るふたりの背中に、クルトは「うるさい!」と叫ぶ。
地面に落ちた、砂埃に汚れたカードを拾い上げて、手でていねいに砂を払い落とす。
(境目の森の入り口じゃん。きっと人間だって住んでいるよ、薪をつくって生活する人とか)
(このカードをくれたのは、きっとぼくより小さな子どもだ。もちろん、人間の子ども。化け物なんかじゃなくて)
(だから……友達になれるかもしれない)
クルトはまた、じーっと手紙をながめた。
どれだけ下手な字の手紙でも、同級生のからかいがどうでもよくなるほど、それはクルトにとってとくべつで素敵なものだった。




