異世界転移しようとしたら魔王様がこっちに来ちゃいました!?
マンホールからこんにちわ!
本田悠太、髪の毛がいつもボサボサの中学二年生は、冒険を夢見て生きていた。祖父の拓次郎から譲り受けたアイテム「転移の指輪」を手に、いつか異世界に行って英雄になることを密かに誓っていた。あの指輪は、拓次郎が若い頃に「何かすごいこと」に使ったらしいが、詳しい話はいつもはぐらかされていた。「まあ、いつか分かるさ」とニヤニヤ笑う拓次郎の顔が、悠太にはちょっと腹立たしい。
あれから数年、悠太が14歳になったある日、事件は起こった。学校帰りにいつもの裏路地を歩いていると、ポケットの中で指輪が突然キラキラと光り出した。「うわっ、なにこれ!?」驚いた悠太の手から指輪が滑り落ち、コロコロと転がってマンホールにポトン。慌ててマンホールに手を伸ばすも、時すでに遅し。すると、マンホールから眩い光が溢れ、魔法陣のような模様が浮かび上がった。
「な、なにこれ!?やばい、異世界へのゲート!?」悠太の心臓がバクバクする中、魔法陣から小さな影が飛び出してきた。
「ぬはは!我、到着あぁぐぇっ!」
バン!飛び出した瞬間、目の前を走っていた軽トラックにその影は弾かれた。マンホールから現れたのは、フリフリのゴスロリドレスを着た、身長120センチほどの幼女だった。長い黒髪に赤い瞳、頭には小さな角とコウモリのような翼。どう見ても「普通の人間」ではない。
「ぐぬぅ、これが人間界の洗礼というやつか!!」幼女は地面に這いつくばりながら、なぜか得意げに叫んだ。
悠太は呆然。「いや、自分で突っ込んだだけだよ!?」
周囲の視線が一気に集まる。近くのコンビニから出てきたおばさん、犬を散歩させていたおじいさん、スマホをいじっていた高校生――全員が「何事!?」とばかりにこちらを見ている。悠太の背中に冷や汗が流れた。「やばい、このままだと色々疑われる!」
慌てて幼女の手を引っ張り、悠太は自宅へとダッシュ。幸い、家は路地のすぐ近くだった。玄関を勢いよく開け、幼女を中へ押し込む。「はぁ、はぁ、なんとか逃げ切った…」
「なんだ、うるさいと思ったら悠太、お前ついにやらかしやがったな。誘拐だなんて…」リビングから顔を出したのは、ヨレヨレのTシャツ姿の祖父、拓次郎だった。白髪混じりの髪と、いつもニヤニヤした顔がトレードマークだ。
「ちがうわ!」悠太は全力で否定。
すると、幼女が突然声を上げた。「おお!拓次郎ではないか!ずいぶん老けたのう!」
拓次郎は目を細め、幼女をじろじろと見た。「ん、もしかして魔王アケラスの娘か?」
「そうじゃ!父様が隠居したから我が魔王なのじゃ!」幼女は胸を張り、ドヤ顔で宣言。
拓次郎はニヤリと笑う。「アトラか、おっきくなったねぇ。子供の成長は早いもんだ。」
「前は拓次郎が魔界に来たから、今度は我が来てやったのだ!サプライズじゃ!略してサブスク!」
悠太は突っ込む。「全然略せてないよ!」
魔王と祖父の過去
話を聞くと、驚くべき事実が明らかになった。拓次郎は若い頃、異世界――いや、魔界に召喚されたことがあるらしい。そこで先代の魔王アケラスと戦い、なぜか意気投合して「マブダチ」になったという。悠太は目を丸くした。「え、じいちゃん、異世界って魔界だったの!?」
「まあな。俺がアケラスと戦った時は、お前が生まれる前の話だ。なかなか熱いバトルだったぜ!」拓次郎は遠い目をして語るが、どこか適当な口調。
アトラは目をキラキラさせながら続ける。「父様が言ってたぞ!『拓次郎は人間のくせに無茶苦茶強かった』って!で、我もその血を引く悠太に会いに来たのじゃ!」
「いや、俺、じいちゃんみたいに強くないから!」悠太は慌てて手を振る。
拓次郎は肩をすくめ、「まぁ、マブダチの娘だし、後は悠太に任すわ。」と無責任に宣言。
「扱い雑すぎん!?てか、異世界って魔界だったのかよ…」悠太は頭を抱える。
拓次郎はニヤニヤしながら続ける。「子供の相手は子供同士でやるのが一番だ。邪険に扱うと、この世界が滅ぶからがんばれー」と棒読みで言い放ち、テレビの前に戻ってしまった。
「フランクに世界の命運握らせるのやめてくれない!?」悠太の叫びは、誰も聞いてくれなかった。
うまい棒と共同生活
リビングでアトラがキョロキョロと部屋を見回すと、突然鼻をヒクヒクさせた。「なんだ、この良い香りは!」
悠太はテーブルの上を見やる。「あ、これはうまい棒のコンポタ味だよ。食べる?」
「うむ!」アトラは興味津々でうまい棒を受け取り、恐る恐る口に運ぶ。一瞬、固まったように動きが止まり、顔をうつむける。
「まずかったかな?」悠太が心配そうに覗き込むと、
「んみゃああぁぁぁぃっ‼︎」アトラの目がキラキラと輝き、頬を膨らませて叫んだ。「なんだこの美味さは!癖になる中毒性は一体!?」
「え、そ、そんなに!?」悠太は驚きつつ、別の袋を取り出す。「チーズ味とか他のもあるけど、食べる?」
「うむ!」アトラは次々と袋を開け、うまい棒をバリバリ食べ始めた。コンポタ味、チーズ味、たこ焼き味――その全てに感動し、とうとう「よし!決めたぞ悠太、我はここに住む‼︎」と宣言。
「え!?いきなり!?」悠太は目を白黒させる。
こうして、世界の命運がかかった(かもしれない)奇妙な共同生活が始まった。
学校と魔王のドタバタ
翌朝、悠太はアトラをどうするか悩んだ。「学校行かなきゃいけないけど、こいつを家に置いていくのは危険すぎる…」アトラはリビングでうまい棒の袋を山のように積み上げ、満足げに「次は魔王味を試したいのじゃ!」と叫んでいる。
「魔王味なんてないよ!」と突っ込みつつ、悠太は決断した。「仕方ない、学校に連れてくか…」
アトラを従妹として紹介し、なんとか学校に連れていくことに。制服がなかったので、悠太の古いTシャツと短パンを着せたが、サイズがブカブカで妙に可愛らしい。角と翼は「魔法で隠した」とアトラがドヤ顔で説明したが、なぜか赤い瞳はそのまま。「目立つなよ、絶対!絶対だからなっ!」と念を押す悠太。
学校に着くと、案の定アトラはフラグを回収し見事に目立った。教室に入るなり、クラスメイトの佐藤美咲が「ねえ、悠太!その子誰!?めっちゃ可愛いんだけど!」と騒ぎ出した。美咲はクラスのムードメーカーで、好奇心旺盛な女子。ギネス記録を更新するかの如く速さでアトラに絡みに行く。
「我はアトラ、魔王なのじゃ!」とアトラが胸を張ると、教室が一瞬静まり返り、すぐに爆笑。「えw何それ、めっちゃ面白い子!」「コスプレ!?」「転校生!?」と騒ぎになる。
悠太は頭を抱える。「だから目立つなって言ったのに!」
授業中、アトラは退屈そうに窓の外を眺めていたが、突然「む、この世界の学問は興味深い!」と歴史の教科書を手に取り、ページをめくり始めた。先生が「本田君の従妹、静かにしてね」と注意するも、アトラは「ふむ、織田信長とはなかなか面白い人間じゃな!会ってみたいのう!」と大声で宣言。クラスはまた爆笑。
放課後、悠太は美咲に呼び止められた。「ねえ、悠太、アトラちゃんって本当に従妹?なんか…普通じゃないよね?」鋭い質問に、悠太は「はは、ただの変わり者だよ!」とごまかすが、美咲の目は疑い深そうだった。
魔界からの追っ手
その夜、悠太の家に異変が起きた。アトラがうまい棒を食べながらテレビを見ていると、突然窓ガラスがガタガタと揺れ、黒い霧が部屋に流れ込んできた。「な、なんだ!?」悠太が叫ぶと、霧の中から鎧を着た大柄な男が現れた。角が4本、背中に巨大な翼を生やした、明らかに魔界の住人だ。
「魔王アトラ様!なぜ人間界などに!」男はドスの効いた声で叫ぶ。
アトラはうまい棒を咀嚼しながら、「おお、ガルドか。まあ、落ち着け。我はサブスク…いや、サプライズで来たのじゃ!」
「サプライズで住み着いてるね」悠太が突っ込むも、ガルドと名乗る男はアトラを連れ戻そうと迫る。「魔界は今、混乱しております!アトラ様が不在では、反乱分子が勢いづいて…」
「ふむ、面倒じゃな。悠太、こやつをなんとかせい!」アトラは悠太に丸投げ。
「なんで俺!?」悠太は慌てるが、ガルドが剣を抜いた瞬間、拓次郎がリビングに現れた。「おいおい、ガルド、元気そうだな!アケラスはどうしてる?」
ガルドは一瞬たじろぐ。「拓次郎殿…!?なぜここに!」
「まあ、昔話は後にしろ。とりあえず、アトラは俺の孫と一緒にいるから、安心して帰れ。」拓次郎の言葉に、ガルドは渋々退散したが、「必ずまた来ます!」と捨て台詞を残して消えた。
魔王の弱点と絆
翌日、悠太はアトラに尋ねた。「なんで魔王なのに、うまい棒にハマったり、トラックに跳ねられたりするんだよ?」
アトラは少し照れながら答えた。「実はな、魔王の力はこの世界では弱まってしまうのじゃ。魔法も半分しか使えんし、体もこんな小さくなってしまった…」
「え、じゃあ魔界ではもっと強いってこと?」
「うむ!魔界では我は10メートルの巨体で、炎と雷を操る最強の魔王なのじゃ!」アトラは得意げだが、うまい棒の粉を顔につけたままなので説得力ゼロ。
悠太はため息をつきつつ、なんだかアトラが愛らしく思えてきた。「まぁ、仕方ない。じいちゃんに任されたんだし、面倒見てやるよ。」
アトラは目を輝かせ、「悠太、良いやつじゃな!よし、共にこの世界を楽しみ尽くすぞ!」
新たな冒険の予感
数日後、悠太のクラスに転校生がやってきた。銀髪に青い瞳の少女、リリア。彼女はどこか神秘的な雰囲気を持ち、なぜかアトラを見るたびに意味深な笑みを浮かべる。「ふふ、面白い子がいるのね。」
美咲が「また変な子キター!」と騒ぐ中、悠太はリリアの視線に嫌な予感を覚えた。放課後、リリアが悠太に近づき、耳元で囁いた。「アトラちゃん、魔王でしょ?私、魔界の監視者なの。彼女を連れ戻すために来たのよ。」
悠太の背筋が凍る。「やばい、また面倒なことに…!」
こうして、悠太とアトラのドタバタな日常は、新たな波乱を巻き起こしながら続いていく。世界の命運、うまい棒の在庫、そして悠太の平穏な中学生生活――全てがかかった冒険が、今、始まる!