61話
俺は玄関の扉を開けて家の中に入る。
「ただいま」
その声は誰もいない廊下に響き渡り、消えていく。
ダンジョンで描いた汗がさすがに気持ち悪い。先にシャワーを浴びてからスキルの確認をするか。
服を脱ぎ、洗濯籠に入れて風呂場でシャワーを浴びる。頭から浴びる温かい水が汗や汚れと共に探索の疲れを流してくれるように感じた。
ふう、さっぱりしたな。風呂場から出て脱衣所で頭や体を拭いていく。
俺はふと鏡に映った自分の体を見て思った。以前に比べて体が引き締まった気がする。いや、以前も太ってはいなかったが。
まあ、レベルを上げれば身体能力が上がると聞いたし筋肉がついたのもそれの影響か? 筋トレはしてないしな。まあ、悪影響なんてないし気にしなくても良いか。
体を拭き終えて、用意していた部屋着に着替えリビングのソファに座る。
さて、スキルの確認をしよう。良いスキルよ出てくれ。
「ステータス」
【名前】冬野 礼司 Lv30
【称号】『禁断の果実』『人魚の真実』『闇裂く狩人』『愛する貴方へ』
【スキル】『影操作』『鑑定』『回復』『投擲』『危機感知』『気配隠蔽』『プロテクション』『強打』
いつもと同じようにレベルの部分が点滅してるな。良いスキルが出るように祈りながら点滅している部分に触れる。
【スキル選択】
・『水操作』
・『疾走』
・『鍛治』
『鍛治』のスキルか………………………運が良いんだか悪いんだか。まあ、とりあえず上から順に確認していくか。
『水操作』の効果は文字通りだ。水を操れるようになるスキルだ。いつしかテレビで見たアイドルが使っていたスキルだな。
調べてみたところ、このスキルでは水以外を操れないようだ。例えば、牛乳や血液、水蒸気などは操れない。あと『影操作』と同じように見えない水は操れないらしい。
使い続ければ、高水圧カッターのように操れるのらしいが俺には『影操作』があるしそこまで必要ではないな。
次は『疾走』だな。『疾走』は任意発動型のスキルで走りを強化してくれるスキルみたいだ。主な効果としては、俺が既に持っている『投擲』のように走る時のフォームの補正と脚力の強化だ。。どんな悪路でもその場所にあった最適のフォームで走れるようになるらしい。
デメリットと言えるのかはわからないが心肺機能は強化されないから、スキルを使わない時よりも数倍ぐらい体力を使うようだ。まあ、使い時が大事なスキルということだ。
で、最後が『鍛治』のスキルだ。このスキルは滅多に出ることのないレアスキルで、確か日本に数十人しか持っている人がいないらしい。その数ゆえに情報は少ないが噂ではモンスターのドロップアイテムを加工できるようになると聞いたことがある。
鍛治というからには、やはり設備が必要なんだろうか? だとしたらスキルを取ったとしても使えない。
何処かで設備を借りるという選択肢もあるが、それをすると『鍛治』のスキルを持っていることがバレる可能性がある。貴重なスキルを持っている奴は何処からも狙われてしまうだろう。
政府に保護を頼んだとしても、一生武器を作らされるだろう。そんな人生は嫌だ。
このスキルは無いな。
今回は、ほとんど最初から決まっていた『疾走』のスキルを選ぼう。機動力を上げれば相手との距離を詰める時や逃走する時にも役に立つだろう。
俺は『疾走』のスキルを選んだ。
ウィンドウの表示が元に戻った。
【名前】冬野 礼司 Lv30
【称号】『禁断の果実』『人魚の真実』『闇裂く狩人』『愛する貴方へ』
【スキル】『影操作』『鑑定』『回復』『投擲』『危機感知』『気配隠蔽』『プロテクション』『強打』『疾走』
よし、ちゃんと得られてるな。
まだ夜まで時間があるし『疾走』スキルの検証もしてしまおう。となると、外に出た方が良いな。風呂にはもう一度入れば良い。ついでに今日の夜ご飯の材料も買ってこよう。
運動できる服に着替えて、玄関で靴を履く。
「いってきます」
俺は玄関の扉を開いて、外に出た。
とりあえず、この道で走ってみるか。ちょうど人もいないしな。
まずは、スキルを使わずに普通に走る。
風が顔に当たるのを感じながら、本気で少しの距離を走る。
まあ、普通だな。レベルアップの影響で数ヶ月前よりは速くなっている気がする。
次はスキルを使って走ろう。
構えを取りさっき走ったばかりの道を走り出す。
発動:『疾走』
すごいな! 明らかにさっきとは速さが違う!!
地面を蹴るように走り出し、毎度地面を踏み締める度に速くなっているのを体感できる。
風を切り裂くように進んでいき、あっという間に目的の場所に辿り着いた。
スピードを落とし立ち止まるとスキルの反動が俺を襲った。
「…………はっ…………はっ……」
長い距離を走った時のように息が荒くなり、心臓がうるさく鼓動している。
両足が少し重くなっている気がした。
なるほど。これがスキルを使った反動か。スキルを使わずに走った時より数倍は体力は使った気がする。これは連続であまり使いたくないな。
いや使えなくはないが何回も連続で使ったら倒れそうだ。
最後に、スキルの反動は距離に応じてどうなるのかを検証するか。
俺は、もう一度走り出すために構えを取り走り出す。
発動:『疾走』
風を感じながら走る。さっきの距離の倍を走れば違いがわかるだろう。
「…………はっ……は……はっ……はっ……」
さっきよりも疲れた気がする。やはり、走った距離が長いほど反動が大きくなるな。まあでも、一回程度だったら長距離は走れそうだし逃げる時には使えるだろう。
さて、これで知りたいことは大体知れた。外に出たついでに夜ご飯の材料を買いに行くか。
今日は何を作ろうかな。俺は夜ご飯を何にするかを考えながらスーパーに向かった。
◇
完成した料理を皿に盛り付けて、机に並べる。
今日の夜ご飯は肉じゃがと味噌汁とサラダだ。味噌汁はインスタントだが。
さて、食べるか。
「いただきます」
肉じゃがを一口食べる。うん、我ながらよくできているな。
ご飯中に無音というのも寂しいのでテレビを付ける。
『こんなの徴兵と変わらないでは無いですか!!』
俺が召集されたユニークモンスター討伐の件の記者会見の様子がテレビに映し出された。
『こういう時のための政府の部隊じゃ無いんですか!?』
『どうお考えなのですか!?』
うわ、政府の人が滅茶苦茶叩かれてる。まあ、やってる事は徴兵みたいなものだからな。
召集された俺の立場から言わせてもらえるなら、もっと言って欲しいぐらいだ。
『はい。今回の探索者様方へのご依頼に関しましては特別な処置を取らせていただいている形になっておりまして、今後はこのような事がないよう善処していきたい所存です』
大量のフラッシュが炊かれる。
『特別な処置と言いましても、それで戦うことになった人達に万が一のことがあったらどう責任を取るつもりなんですか? 水見さんは、この件に対してどうお考えなのですか?」
会場いる全員の視線が政府の人の隣に座っている水見紗季に集まった。
どんなことを言うんだろうか? 誰もがそう思っている中、水見紗季はゆっくりと立ち上がる。
『今回の件は全て私の弱さが招いたことです。誠に申し訳ありません』
そう言って水見紗季は頭を下げた。会場がざわついている。当たり前だ。日本の英雄と言っても過言ではない人物が頭を下げてんだ。しかし、そのざわめきを無視するかのように水見紗季は頭を上げて話は続ける。
『しかし、私は誰一人として死なせるつもりはありません。今回集められた探索者の皆様を生きて帰すことを誓います!!』
その言葉には無条件で信じられるような力が宿っているように感じた。会場にいる記者たちもその言葉に呆然としている。
水見紗季の瞳は、集められた探索者が全員生存するという確信が宿っている気がした。何か、確信できる理由があるんだろうか? やはり未来が分かる何かがあるのか?
未来が分かるとしても大胆な発言だな。何か台本のような物を渡されたりしていたんだろうか。
まあいい。俺はユニークモンスター戦までに死なないようレベルを上げていかないとな。
「ご馳走様でした」
今日は疲れたし早く寝よう。
俺は、食べ終わった食器を片付けて寝る準備を始めた。




