6話
森林エリアに入り始めて、2日経ち森の探索にも慣れてきた。
レベルが7になり、影の実体化も上手くできるようになった。
思ったよりレベルの上がりが早い。このままのペースで行きたい。
そんなことを思いながら森の中に入る。とりあえず、ゴブリンを探そう。
さっそく、1匹見つけた。
後ろから槍でグサリ、それだけでゴブリンを殺せた。やはり、レベルが上がっていることで身体能力が上がっている。
「ギャウ!」
声がした方に目を向けるとゴブリンがいた。さっきのゴブリンの仲間だろう。まずいな、武器を持っている。武器持ちと戦うのは初めてだ。
草をかき分け走ってくる。
冷静に処理すれば問題ない。リーチはこっちの方が圧倒的に上だ。近づいてくるゴブリンの心臓部分に狙いをすます。
槍の射程圏内に入った!力一杯、槍を前に突き出す。
「ギャウ!?」
「は?」
槍が当たる直前、狙いが逸れ槍の刃先はゴブリンの肩の肉を抉る。
どうやら、ゴブリンは足元の木の根に引っ掛かり転んだようだ。
突然の出来事に呆けてしまう。
まずい、早く体勢を立て直さないと。
再び冷静になり、ゴブリンと対峙する。
ゴブリンは俺が体勢を整えている間に立ち上がっている。しかし、肩の傷は深いあの体格であれだけ血を流していればほっといても、片手を封じることができたみたいだ。だが油断はしない、相手は武器をまだ持ったままだ。
お互いを睨み合う時間が続く。
「ギャウ」
突然、ゴブリンは後ろに向かい走り出す。逃げた!?モンスターが逃げることなんてあるのか。
急いでゴブリンの後を追いかける。
草の根をかき分けながら進む。クソ、邪魔すぎる。
ひたすらにゴブリンを追いかけていると、開けた場所に出る。どうやら、その広場の中でゴブリンは力尽きたらしい。ドロップアイテムが落ちている。
なんだここ。
その場所に入る前に不気味に思い観察してみる。
森の中にあるにもかかわらずあるのは真ん中に生えている大木だけ、鑑定してみる。
発動:『鑑定』
《大樹。ダンジョン内に生成された大きな木。ダンジョン外持ち出し不可》
怪しいと思ったが本当に普通の木らしい。入って異常があれば逃げればいいか。
恐る恐る広場に入りドロップアイテムに手を伸ばす。
「ぐはっ!」
突然、脇腹に鋭い痛みが走り体が横に吹き飛ぶ。
突然のことに混乱する俺をよそに体が空中を飛ぶ、全く衰えることのなかった体の勢いが吹き飛んだ先にあった木に当たり止まる。
「ウ”ゥ“ゥ”」
痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い痛い痛いイタイイタイイタイイタイイタイイタイ!!!
あまりの痛みに顔と思考が歪む、脇腹がズキズキと痛い。
早く回復しないと!
発動:『回復』
脇腹を抑えていた手から淡い光が溢れ出す。
少しして、あれだけ激しかった痛みが夢だったかのように消え去る。
本当にこのスキルを選んでてよかった!!
痛みがなくなり冷静になった頭で周囲を観察する。
おかしい、周りにはモンスターなんていなかったはずだ。
さっきまで俺がいた場所を見る。そこには地面から茶色い棒のようなものが生えている。
いや、よく見たらあれは木の根っこだ。大樹の方から生えている。
そんなわけない、あの木はモンスターじゃないはずだ。鑑定までして確認したんだぞ。
クソ!もう一度鑑定だ。
発動:『鑑定』
《大樹(知恵の実の影響下)。ダンジョン内に生成された大きな木。ダンジョン外持ち出し不可》
は?知恵の実?なんだそれ。
いや、そんなことはいい。
相手の情報が少なすぎる。次の攻撃が来る前に逃げよう。幸い、広場の出口は遠くない。この距離だったらすぐにでも逃げ切れるだろう。
そう思い、広場を出ようと身を翻し走り出す。
広場を出ようとした時。
ドゴンッ
「は?」
見えない何かに体がぶつかりこれ以上前に進めない。
まずい、まずいまずい。
おそらく閉じ込められた!!あのモンスターはゲームで言うところのボスモンスターみたいなものだろう。あのモンスターを倒さない限りここを出ることが出来ないってところか!?クソが!!
よし、落ち着け俺、慌てても状況は良くならない。
しかし、落ち着くのをモンスターは待ってくれない。さっそく、次の攻撃がくる。
大樹は根をこちらに伸ばし、横に薙ぎ払う。
「危な!!」
間一髪のところでしゃがんで回避する。
根っこの速さはそこまでじゃない、見てから回避すればなんとかなる。
問題はどうやって倒すかだ。
さっきの鑑定結果を思い出す。確か、あの大樹は知恵の実の影響下にあるらしい。実というんだから枝に付いているのか?もう一度、大樹を観察する。
しかし、考えている間も大樹の攻撃は止まらない。
多彩な攻撃を仕掛けてくる。
体を狙った突き攻撃は素早く横に避ける。
複数の根で攻撃した時には広場の周りを走りながら避ける。
このまま避けていたら、こっちの体力が尽きる。早く打開策を考えないと。
その時、葉と葉の隙間から赤い何かが見えた。あった!!
すかさず、実に向け鑑定を発動する。
発動:『鑑定』
《知恵の実(偽物)。知恵の実が自身を隠すために生み出したダミー》
はぁ!?
やばい、難易度がさらに上がった。知恵の実の本体を見つけて、それに攻撃を当てないといけない。
それなんて無理ゲー?
とりあえず、本物を見つけないと話にならない。
そう考えた俺は、大樹に向かい走る。当然、その間も攻撃は止まないため、避けながら向かう。
大樹の下に着き上を見上げる。
数えるのが嫌になるほど、りんごの実が生えている。
片っ端からリンゴを鑑定する。
発動:『鑑定』
偽物、偽物、偽物、偽物、偽物、偽物、偽物、偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物偽物本物偽物偽物偽
今あったな!!あれだ!!
《知恵の実(大樹に寄生中)。ユニークモンスターの一匹。リンゴの見た目をした知恵のある実》
本体は見つかった。しかし高すぎる。あれじゃ、攻撃を当てることが出来ない。
登るしかないか。
そうと決まれば、槍を地面に突き刺す。ナイフを口に咥え、助走をつけ走り出す。
地面に刺さっている槍の柄を足場に跳躍する。よし!枝に届いた。
あとは本体がいるところに登っていくだけだ。
身体能力が上がっているおかげで、簡単に登ることが出来た。
知恵の実の本体に手が届く位置に来た。口に咥えていたナイフを手に持ち直し知恵の実に刺そうとする。
知恵の実と目が合った。さっきまで無かったはずの目が一つ現れ、こちらを凝視してくる。
「痛たっ!」
突如足に鋭い痛みが走る。突然のことに驚き、そちらに視線を向ける。
リンゴに噛みつかれている。リンゴの表面にはあるはずのない鋭い牙が生えている。よく見れば周りのリンゴにも生えている。
なんだこの光景、キモいな。
まあ、今更手遅れだ。気を取り直して知恵の実にナイフを突き立てた。
あんなに活発に動いていた、木の根も途端に動かなくなり足に噛みついていたリンゴの動きも止まる。
手に持っていた知恵の実も光の粒子になって消える。その代わりに手にはリンゴの形をしたイヤリングが現れる。
とりあえず、下に降りる。
大樹を背に座り込む。戦闘が終わりアドレナリンが切れたからか枝で切った傷や噛まれた傷が痛み出す。
発動:『回復』
さっきとは違い、全身から優しく淡い光が溢れ出し傷が消える。
本当に便利だなこのスキル。
ある程度体力も回復してきたし、今日はもう帰ろう。流石にいろいろあって疲れた。
知恵の実のドロップアイテムは売らずに持って帰って、どうするかは家に帰って考えよう。
疲れた体を無理やり動かし、帰り道を歩き出した。
《知恵の実》
・この世に一匹しかいないモンスター、ユニークモンスターの一匹。
・寄生型モンスター、木々を移動しながら近くの生物を養分にして生きる、周りの植物の養分も吸い取るの でこいつの周りは円を描くようにぽっかりと空間が開く。余分な養分は寄生先である木の成長に使うの で、一本だけ木が大きかったのはそのため。
・獲物が近くにいない時は寄生状態を解除しているため、最初の主人公の鑑定に引っ掛からなかった。




