57話
月城先輩の友達お試し期間の提案を承諾して、三日目。今も昨日に続き昼ごはんを月城先輩と一緒に食べている。
「なあ、冬野。そろそろ返事を聞かせてくれないか?」
自分で作った弁当を食べていると先輩が話しかけてきた。俺が友達になるか、ならないのかを聞きたいようだ。
「はい、先輩。この数日間、先輩と一緒にご飯を食べた上での答えを言います」
「ああ、頼む。覚悟はできてる」
「申し訳ございません。やはり、先輩には俺なんかよりも良い友達に巡り会えると思います」
この数日間、冷静に考えた結果。普通に面倒臭いと思った。
先輩は普通に良い人だと思ったが、この人の周りが面倒臭い。この先輩に執着している人が多すぎる。クラスメイトの男子に、母親。全員が先輩に固執している。
この数日間そいつらに見つかることはなかったが、先輩と関わっていく上で接触は不可避だろう。
そして何より、この誘いを受けると先輩が俺に依存しそうなことだ。俺にとっては面倒くさいし、先輩にとっても良く無いだろう。
悪いとは思っているけど、先輩に関わるのは嫌だ。
「ど、どうして!」
「俺なんかが先輩と友達なんて烏滸がましいですよ」
理由はこれで納得してくれるか?
「俺の周りにいる奴らが面倒臭いからか?」
・・・・・・その通りだ。なんでわかったんだ。
「君と数日、関わっていればわかる。君は、面倒ごとがとことん嫌いなタイプだ」
「そんなことないですよ」
全くもってその通りだ。面倒ごとなんて関わるだけ損すると思っている。
「もし、俺の周りに面倒臭い奴らが居なくなれば、俺と友達になってくれるか?」
先輩の周りに面倒な奴がいなくなったら? そうだとしても、先輩は容姿が良すぎるせいで新しい面倒な奴が羽虫のように近寄ってきそうだからな。
しかし、ここで肯定しておけば納得してくれそうだな。
今、執着している奴らとの関係を無くすなんて絶対にできないだろう。
もし、それができたら俺なんて必要ないしな。数日話してわかったが先輩は、自分を男扱いしてくれる友達が欲しいだけだ。それが俺で無くとも良い。
そして、そんな人、日本中に探せば幾らでもいるだろう。一番最初に見つけたのが俺だっただけの話だ。
「そうですね。周りの人が俺たちの関係を不思議に思わないんだったら」
断言するが、絶対無理だ。
「わかった」
え? なんか先輩、覚悟を決めたみたいな顔してるんだけど。本気でやるのか?
「あ、授業の準備があるので教室に帰りますね。では、先輩、失礼します」
ここは、逃げの一手だな。
教室の扉を開けようと手を伸ばす。
しかし、俺の手が届く前に扉が勝手に開く。
「紫苑〜。忘れ物してるぞ〜」
そんなことを言いながら男の先輩が教室に入ってきた。見覚えがある。前に月城先輩が見せてくれたクラス写真に載っていた月城先輩の中学からの友達だ。
面倒臭いことになりそうだな。早く退散しよう。
開けられた扉、目掛けて歩き教室を出ようとする。
「待て、お前誰だ?」
クソ、話しかけられた。適当にはぐらかして逃げよう。
「俺のことは、お気になさらず。もう何処かへ行きますので」
そう言って、俺は足を早めるが後ろから腕を掴まれる。
「だから、待て。俺の質問に答えろ」
は? 人の体に勝手に触ってんじゃねえぞ。
「離してくれませんか?」
「離して欲しいなら、俺の質問に答えろ」
なんだ、このクソ男。なんで、お前みたいな奴に俺が正直に答えないといけないんだよ。
「あの、先輩に関係ありますか?」
「関係ある。紫苑は俺の友達だ」
「そうですか。関係ないですね。失礼します。」
無理やり、腕を振り払い再び歩き出す。
「だから、待てよ!」
クソ男が、再び手を伸ばしてくる。しかし、遅すぎる。見えてるから余裕で避けられる。
「な!?」
クソ男は手を伸ばしたまま体勢が崩れている。
「では、失礼します」
教室から出て、自分のクラスに帰った。
先輩を男扱いしてくる友達は、俺じゃなくてもいるとかを伝えてもよかった気がするが何が地雷かわからないからな。友達でもない先輩に、そこまで言う気にならない。
胸の内で先輩に良い友達ができることを祈っておこう。
そして、もう関わることも祈っておこう。




