43話
ピピピピ
聞き慣れた電子音で目が覚める。
眠たい体を無理やり起こし、カーテンを開け朝日を浴びる。
ついに、ダンジョンツアーの日が来てしまった。
今日は、いつもより早く起きている。ダンジョンツアーの前に打ち合わせのような物があり、朝早くにギルドに集合することになっているからだ。
布団を畳み、リビングに降りる。
朝ごはんの準備を始めよう。今日は大変そうだし、しっかりと食べておこう。
トーストとウインナーを焼き、その後にスクランブルエッグを作る。それらを食卓に並べる。
「いただきます」
食事をしながらテレビを点け、ニュース番組のチャンネルに合わせる。あんまり、興味が出るニュースはないな。
黙々と朝食を食べ進め、十数分で食べ終わる。
「ごちそうさまでした」
食器を片付け、ギルドに行く準備を始める。洗面所に向かい、歯磨き、洗顔などを済ませる。
ギルドの職員からの説明で言われた通り、いつものように探索用の服に着替えて探索道具が入っているカバンを準備する。まあ、ユニークモンスターのドロップアイテムは外して持って行くが。
流石に、あの見た目のアクセサリーを着けていたら目立つしな。
後は廊下に掛けてある武器を取り、準備完了だ。
家中の戸締りを確認して、玄関に向かい靴を履く。玄関に置いてある鏡を使い身だしなみの確認をして、カバンと武器を背負い、外に出る。
「いってきます」
玄関の鍵を閉めて、ギルドに足を進めた。
数十分後
無事、ギルドに到着した。早朝なこともありギルドは、いつもより人が少ない。これまでも、人が少ない日はあったが、ここまで人がいない日はなかったから少しだけ新鮮だ。
確か、指定された部屋に行けば良いんだよな。ギルドの案内板を見て、指定された部屋の位置を探す。・・・・・・あ、あった。ここからだと、少しだけ歩くな。
地図の通りに進み、指定部屋の扉の前に到着する。ここで間違いない。
ガチャリと扉を開き部屋の中に入る。部屋は、会議室のような部屋で、ホワイトボードなどが置かれている。
部屋の中を見渡すと、椅子に座っている男性と目が合う。年齢は30代ぐらいか?
目が合ったので会釈をして、俺も用意されている椅子に座りスマホで時間を潰す。
数分すれば、部屋の扉が開きギルドの職員らしき人物が入ってくる。その人物はホワイトボードの前まで歩き、俺ともう一人の男性の方を見て言う。
「本日はお忙しい中お越しくださり、誠にありがとうございます。私は本日のダンジョンツアーについて、森様と冬野様に説明することになっております、今井と申します。よろしくお願いいたします」
「「よろしくお願いします」」
森と呼ばれた男性と俺の声がかぶる。
「今からお配りする資料を使って、本日の予定を説明させていただきます」
それから、今井さんはダンジョンツアーの予定を説明していった。
要約すると、この部屋に参加者が集まり時間になればダンジョンツアーを始めるらしい。参加者への説明は、全て今井さんがしてくれるらしい。俺がやることといえば、参加者を見守って助言を求められたら答える事ぐらいだ。
「これまでの説明で、ご質問などはございますか?」
「無いです」
「俺も無いです」
「では最後に今回、森様と冬野様のグループに参加される方々の名簿になります」
今井さんから貰った名簿に目を通す。俺のグループの参加者は5人のようだ。男女比率が2:3で女性の方が人数が多い。
「もう少しで参加者の方々も到着されると思いますので、ここで少しばかりお待ちください」
そう言って、今井さんは部屋から出て行った。
・・・・・・・・・・・・・・・・・
部屋に静寂が訪れる。少し、気まずいな。森さんも少し居心地が悪そうに見える。
これからお世話になるし、挨拶をしておいた方がいいだろう。そう思った俺は席を立ち、森さんに話しかける。
「あの、森さん、今日はよろしくお願いします」
なるべく、顔に笑顔を浮かべ頭を下げて言う。人は第一印象が大切だ。ここで、媚を売っておけば後で楽になるかもしれない。
「これは、ご丁寧にこちらこそよろしくね。全然、僕に頼ってもらって構わないから」
「ありがとうございます。困ったことがあったら頼らせてもらいますね」
その後、少しだけ雑談をして自分の席に戻った。
数十分後
ガチャリ
最後の参加者が部屋に入ってくる。その人物に視線を向ける。
そこには、いつも教室で見ている顔があった。この間、教室で藤原と喧嘩をして教室を飛び出して行った藤原の友達がそこにいた。
最悪だ!! 同じクラスの奴だ。これ絶対に同じ高校に通ってるとかの理由で、ギルド側に仕組まれただろ!! くそ、どうする!?
悩んでいる俺をよそに参加者に用意されていた席が全て埋まり、そのことを確認した今井さんは前に立ち、喋り始める。
「皆さん、本日はギルド主催のダンジョンツアーに参加いただき、誠にありがとうございます。本日、皆さんにダンジョンツアーについての説明をさせていただく、今井と申します。よろしくお願いいたします」
そう言って、今井さんは軽く頭を下げる。
「そして、そちらにいるお二人は今回皆様のサポートをしてくださいます。探索者の森様と冬野様になります。お二人の実力はギルドが保証しますのでご安心ください」
参加者の目線は、俺と森さんに集まる。藤原の友達は驚いたような視線を向けてくる。絶対に、気づかれた。毎日、同じ教室で授業を受けてるんだ。顔ぐらい覚えられているだろう。
「皆さんよろしくお願いします」
そう言って、森さんが頭を下げたので俺もそれに倣い頭を下げる。
「では、皆さん。確認の意味もこめて軽く自己紹介をしてもらってもよろしいでしょうか? 簡単に名前だけでよろしいので。では、そちらの方から」
そう言って、今井さんは三十代程の男性に自己紹介を促す。
「私の名前は、小林孝宏と申します。今日はよろしくお願いします」
次に、大学生ぐらいの女性が自己紹介を始める。
「私は、村上洋子といいます。よろしくお願いします」
次に黒髪ロングのおそらく同じぐらいの年齢の女性が喋り始める。
「私の名前は、黒瀬美羽です。よろしくお願いします!」
明るい声で自己紹介した彼女は一見、黒髪のロングヘアで清楚な雰囲気を感じさせるが、よく見ればその瞳の縁には濃いアイライン、爪先には派手とまでとはいかないがしっかりとおしゃれなアートネイルなどの特徴が見て取れる。
一言で言うと彼女の見た目は巷で言うギャルそのものだった。なんで、こんな子がダンジョンに?
そんな疑問を抱いていると、次の高校生ぐらいの男性が少しだけビクビクしながら自己紹介を始める。
「ぼ、僕の名前は丸山雄太と言います。今日は、よろしくお願いします!」
最後は、問題の奴だ。俺の悩みの種が自己紹介を始める。
「私は、藤堂美香と言います。よろしくお願いします」
名前、藤堂だったのか。自己紹介の時は、全く聞いてなかったからな。その藤堂が自己紹介を終えて席に座ったのを確認した今井さんが再び話し始める。
「自己紹介、ありがとうございました。それでは、これからの予定をお話しさせていただきます」
それから、今井さんは参加者達にこれからの予定や注意事項、ダンジョン内のモンスターの説明していった。
「では、これにて説明は以上になります。なにか、ご不明な点はございますか?・・・・・・・・・・・・無いようですので、さっそくダンジョンに行ってみましょう。ご案内いたしますので私についてきてください」
そう言って歩き出した今井さんに参加者達はついて行く。俺と森さんも、その後ろについて行く。
不安が残りながらも俺のダンジョンツアーガイドが始まってしまった。




