32話
「ここはテストに出るぞ覚えておけよー」
新しいエリアに挑戦して鬼との激戦を制した次の日、俺は学校で普通に授業を受けていた。
今は、数学の授業だ。中学校の時より難しくなってはいるが、問題なくついていけている。テストで悪い点を取るわけにもいかないしな。
校庭からは違うクラスの奴らが体育の授業で体力テストをしている音が聞こえてくる。
俺は、確か明日にやる予定だったはずだ。レベルアップの影響で身体能力が上がっているが、少し抑えた方がいいか?
一応、クラスの奴らには探索者であることを隠してあるしな。まあ、当日に周りの様子を見てどうするか決めるか。
考え事を終わり、再び先生の話を聞く。
発動:『危機感知』
スキルが発動した感覚と共に体中に悪寒が走り回る。
は?
今確かに『危機感知』が発動した。なぜ? ここは学校でしかも室内だぞ。外でこっちに飛んできそうな物はない。じゃあ、一体何が?
いや! 今はそんなことどうでも良い。早くここから逃げないと。話をしている先生に向かい手を上げる。
「先生、体調が悪いので保健室に行っても良いですか?」
「お、おう、いいぞ。誰か付き添いを」
「いえ、一人で大丈夫です」
早くここから離れたかった俺は先生の言葉を食い気味に切り上げ教室を出る。不審に思われただろうが今は気にしている場合じゃない。
「気をつけろよー」
背後にからのそんな声を聞きながら廊下を歩く。
さて、どこに行くのが正解だ? さっきの『危機感知』の反応からして交通事故の時のように危険というわけではなさそうだ。どちらかというとモンスターの時のような悪寒の強さだった。ということは、いきなり学校にミサイルが落ちてきたり建物自体が崩れるようなことはないはずだ。
学校から出てみるか? だが、外に出る事自体が危険な可能性がある。
屋上に行ってみるか? あそこなら見晴らしが良い、状況判断にはうってつけの場所だ。さすがに、建物自体が崩れるようなことはないだろう。
普段から生徒が使って良いように鍵は開いているはずだ。早速向かおう。
屋上に繋がる階段を足早に登り、屋上の扉を開ける。よし、開いてる。
掃除当番で来たことがあるが、ここなら何が起こるかがすぐにわかるだろう。
「きゃーーー!!!」
校庭から、甲高い悲鳴が聞こえてくる。
なんだ?
校庭を覗いてみる。そこには、見覚えのある大きな人型のモンスターが3体もいた。それも当たり前だ、校庭には昨日俺が戦った赤鬼がいた。
まじか、ダンジョン氾濫だ。
ダンジョンが近いから、あってもおかしく無いと思ってはいたがこんなに早く起こるとは。しかし、これなら安心だ。ダンジョン氾濫のモンスターは政府の熟練探索者が倒すことになっている。その探索者がくるまで屋上に居れば安全だ。
校庭では、体育をしていた生徒が鬼に襲われている。まあ、鬼が鈍足というのもあり逃げ回っているだけで怪我は誰もしていなさそうだが。
一応、武器を作っておくか。屋上にある掃除用のロッカーから箒を取り出す。普段から持ち歩いているユニークモンスターのドロップアイテムの中の指輪を取り出し、指に着ける。
発動:『影操作』
箒に影を纏わせて槍を作る。普段と勝手は違ったが中々上手くできた。
そんなことをしていたら、状況は変わっていた。校舎が近かった生徒は校舎に逃げ込んだみたいだが、遠かった生徒は鬼から逃げ回っている。
あ、転けた。鬼の一匹に追いかけられていた女子生徒が足をもつれさせたようだ。あれは、もうダメそうだな。
これから、起こるであろう惨劇に目を逸らす。
「こっちだ!!」
大きな声が校庭中に響き、誰もがその声の主人に注意を向ける。
聞き覚えのある声だ。声の主人を見るとそこには金色に輝く髪を靡かせ、手には刺股を持った藤原がいた。
・・・・・・・・・なにしてんだ、アイツ?
藤原は確か、ヒーラーみたいな役割でダンジョンに潜っているって言ってたよな。まさか、一人で戦う気か? 無茶な。いくらレベルアップの恩恵があるからといって鬼と正面から戦うのは自殺行為だ。しかもそれが3体もいる。
鬼たちは近くの生徒を無視して、藤原のいる所にそれぞれが一直線に向かって行く。
普通だったらモンスターが近くの人間を狙わないのはおかしいが、おそらく、モンスターの注意を引くスキルを使ったんだろう。
これからどうするんだ? 策でもあって、三体も同時に相手をできる実力があるのか?
鬼達と藤原との距離がどんどん近づいて行く。
藤原は生徒から鬼達を遠ざけるために、走って校舎から遠ざかる。
しばらくの間、藤原と鬼達との追いかけっこが行われていたが、さすがに3体の相手は先に藤原が体力の限界を迎え、藤原は息を荒げながら立ち止まり囲まれてしまう。
だが、藤原の顔は恐怖で染まっているようには見えない。ここから、まだ時間を稼げる術があるのか?
藤原を囲んでいる鬼三匹が金棒を振り上たその時、藤原を囲むようにドーム状の半透明の壁が現れる。
なるほど、あれが藤原が余裕だった訳か。『プロテクション』より守りやすそうで良いスキルだな。
三匹は突然現れた藤原を守る楯に驚きながらも、攻撃を続ける。
それから、何度も何度も鬼達は楯に攻撃を加えていく。
何度目かの攻撃の後に、今までびくともしなかった盾に少しだけヒビが入る。
藤原は楯にヒビが入った事に驚いているように見える。まさか、想定外!?
自分のスキルの性能ぐらい理解しておけよ。
というか、政府の探索者はまだか!! どんだけ時間が経ってると思ってるんだ。
そんなことを思いながら街の方を見渡す。
え? なんであの人が? そこには街を走っているA.S.S.Fのリーダー水見紗季がいた。真っ直ぐこの学校に向かっている。
そんなことをしている間に藤原の楯のヒビが大きくなって行く。このままじゃ水見紗季は間に合いそうにないな。
どうする、助けるか? 鬼達は槍を投げて届く位置にはいる。
安全な位置から槍を投げるだけだし、まあ良いか。このまま死なれても寝覚めが悪いしな。
フェンスを越えて鬼が見える位置に移動して槍を構える。
発動:『投擲』
俺の手から放たれた槍は空気を裂き、放物線を描きながら藤原を囲んでいる鬼達に飛んでいく、俺の今の腕力と『投擲』の補正が加わりすごい速さで飛んでいる。
数秒して、槍が鬼達の内の一匹の肩に当たった。なんか、思った以上に突き刺さっている。
しかしラッキーだ。鬼の近くに落ちればいいと思って投げたがまさか鬼に当たるなんて。
鬼達は意識外からの攻撃に全員が驚いている。当たった奴、槍を抜こうと必死だ。
充分時間稼ぎはしたし後は、水見紗季が助けるだろう。
俺は屋上に隠れて、隙を見てクラスに合流しよう。
ご覧いただきありがとうございます。最近、誤字報告という機能を初めて知りました。今まで誤字報告をしてくださってくださっていた皆様、無視するような形になってしまい申し訳ありません。大至急、修正をしています。
今後もこういうことがあるかもしれませんが自分も気をつけますので、温かい目で見守っていただけると幸いです。




