21話
ピピピピ
聞き慣れた目覚まし時計のアラームの音が鳴り響き、目を覚ます。
ベッドから起き上がり、部屋のカーテンを開けて朝日を浴び寝ぼけた頭を起こす。
今日は土曜日で学校は休みだ。
乱れた布団を畳み直しリビングに降りる。
リビングに降りていつも通り朝食を準備をして食卓に並べ、食べ始める。
「いただきます」
テレビを点ける。
「今日は、ダンジョン氾濫の仕組みについて・・・・・・・・・・」
今日はダンジョン氾濫についてか。ダンジョン氾濫とは大量のモンスターがダンジョンの外に出現してくることだ。まだどうやって出てきているのかはわかってないが、長時間ダンジョン内でモンスターを倒していなかったりしたら、ダンジョン外に突然、モンスターが出現するらしい。
といっても、今までのダンジョン氾濫は、一種類のモンスターしか出なかったしその強さもそこまで強くないと聞く。
まあ、危険なことは変わらないし備えはしていた方がいいだろう。
「ごちそうさまでした」
食べ終わった食器を洗い、片付ける。一人暮らしは、洗う食器が少なくて済む。
さて、朝ご飯も食べたしダンジョンに行くか。
探索用の服に着替えて、探索道具が入ったカバンを背負い武器を持ち玄関から出る。
「いってきます」
鍵を閉めたことを確認してダンジョンに向かった。
電車に乗り一駅、移動して数分歩けばギルドに着く。
休日なこともあり、ギルド内は人が多い。人混みはあまり好きじゃないから少し気が滅入る。
覚悟を持ってギルド内に入る。
早く、ダンジョンに入ってしまおう。ここよりかは人が密集していないはずだ。
探索申請ができる窓口に急いで向かう。
「あの、冬野くんですよね?」
歩いていると後ろから声をかけられる。誰だ、少なくともあの迷惑女の声ではない。探索者に仲の良い知り合いはいないはずだ。まあ、振り返ればわかるか。
振り返れば、そこには学校で前の席の女がいた。名前は・・・・・なんだったか。確か、ふから始まる名前だったような。
「あの、わかりますか? 前の席の藤原です」
そうだ藤原だ!
「ああ、わかるよ」
「よかったです。それで、あの、冬野君も探索者だったんですね」
「あ、ああ、クラスの人たちには内緒だけどね」
だからクラスの連中にはバラすなよ。
「そうなんですね」
ふと、沈黙が訪れる。・・・・・・・・・・なんなの、なんで俺に話しかけてきたんだよ。用がないなら話しかけてきてんじゃねえよ。これ俺が用を聞いて方がいいのか? 話しかけられた方が用を聞くっておかしいだろ。
「それで、何か用があったのかな? 藤原さん?」
「は、はい! クラスの人が居たので話しかけただけなんですけど、これも何かの縁なので僕とパーティーを組みませんか?」
「ごめんね、藤原さん。俺はダンジョンは一人で探索したいんだ」
これで、話は終わっただろ。あらためて、探索申請をしようと窓口に向かう。
「ま、待ってください!!」
歩き出そうとしたところを藤原が大声をだし俺の腕を掴み、物理的に引き留める。
「もう、ちょっとだけ話を聞いてください!」
まずいな、この女が大声を出したことで周りの視線がこっちに集まった。ただでさえ、この女は目立つ容姿をしているのに。悪目立ちはしたくない場所を変えるか。
「わかったよ。とりあえず、場所を変えない?」
「はい! わかりました! ありがとうございます!!」
ありがとうございます、じゃねえよ。何笑ってんだこの女。
とりあえず、ギルドの外に出て近くの公園に移動する。
「それで? なんでそんなに必死なの、パーティーメンバーなんて俺じゃなくても沢山いるでしょ」
「はい、そうなんですけど・・・・。少し、悩み事を聞いてもらってもいいですか」
よくねえ。長くなりそうだし、早くダンジョンに行きたい。でもここで、聞かないのもな。少し気になるし。
「どうぞ」
「はい。僕、ダンジョンに入る前はこんな日本人離れした外見じゃなかったんです。初めてダンジョンに入った日に『聖女』というスキルを貰いました。専門家の方が言うには、このスキルのせいでこんな外見になったらしいんです」
別に、卑下する外見じゃないと思うが。
「このスキル自体はとても良いスキルでした。回復魔法のような物が使えるし、肌や髪は手入れしなくても綺麗なままだし。だけど、最初に入ったパーティーで事件は起きました。そのパーティーは僕を合わせて女性が二人で男性が三人、戦う時の役割はちゃんと分担できていてとてもバランスの良いチームでした。そのチームが唐突に解散しました。理由はパーティー内で起きた、いざこざでした。最初の内は何が原因だったのか、知りませんでした。でも、後からパーティーメンバーだった女性から訳を聞いたら原因は、僕だったんです。パーティーの男性全員が僕のことを好きになり、僕を奪いあって喧嘩をしたそうなんです」
「別に、藤原さんが気にすることじゃないと思うけど、喧嘩をしたのはその三人なんだし」
告白もしてない女性のことを勝手に取り合うとかそいつらどういう頭してたんだ?
「でも、それがその後2回程同じことが起きました」
わーお。まじか。サークルクラッシャーじゃん。
「それで、今までの話を聞いたかぎり、俺を誘う理由が一向にわからないんだけど」
「そういう事件があって僕は人一倍目線に敏感になりました。でも、冬野さんは僕と会ってから一度もそういった目で見ることが、なかったんです。だから、この人となら一緒にパーティーが組めると思ったんです」
いや、待てよ。おかしくないか。なら同性を誘えば良いじゃないか。
「なら同じ女性を誘えばいいじゃないか。例えば、いつも学校で話してる子とか」
「美香ですか? あの子は戦えるような性格じゃないし、最近のあの子は僕を見る目が怪しい気がするんですよね」
うわ、聞くんじゃなかったな。クラスメイトのデリケートな問題なんて。
「それで、どうですか? パーティーの件考えてくれましたか?」
「ごめんなさい、藤原さん。やっぱり俺は一人で探索したいから。それに、パーティーを組める人なんて俺だけじゃないと思うし、同じ女性の方が良いよ」
トラブルの原因を仲間にしたくないしな、それに回復なら自分でできるし必要ない。
「そうですか・・・・。わかりました。気が変わったらいつでも教えてください」
「じゃあ、パーティーメンバー集め頑張ってね」
そこで、藤原と別れる。
はあ、やっとダンジョンに行ける。人の話を聞いて溜まったストレスを体を動かして発散しよう。
そうして、やっとの思いでダンジョンに向かうことができた。




