ホワイトデー
1ヶ月前に引き続き、びっくりするくらい百合です。
夜。
私は、あいのベッドに潜り込んだ。
「…あい」
「ん?」
「…こっち、向いて」
「ん、わかった」
もぞもぞ…
「んっ!」
「んっ」
あいが私の方を向いたら、急に抱きつく。
…お返しと、仕返しの意を込めて。同じ手順を踏む。
「…んっ!」
「んむっ」
さらに唇を重ねる。ここまでは大丈夫。勝負はここから。
「んぁっ」
「…んぁ」
…1ヶ月前。あいに急に私の唇と舌の初めてを奪われた。流石に全く同じことはできないけど、あいが私のことを好きでいてくれた嬉しさと、急に初めてを奪われた寂しさを。相手が傷付かないように、だけど全力で。全部ぶつけてやる。
「…あ。ほわいとちょこ」
「…ん。バレンタインのお返し」
さっきまで私の口の中にあったホワイトチョコを美味しそうに味わう、恋人の表情を眺める。
…あいの口元が緩むのを見ると、私の口元も緩んでいく。ああ、やっぱり、私は――。
「…どう?美味しい?」
「…ん。おいしい」
「良かった」
「でも、まだ足りない」
「…えっ?」
ぎしっ
…私は、あいに押し倒されていた。
「…あいって、ずるいよね。私の初めて、ぜーんぶ奪ってく」
「…ふふ。そのわりに、くろのす、うれしそう」
…この子の言う通り。あいに求められて、少し嬉しく思ってしまっている自分がいる。
「…結局、私って、猫なんだなぁ」
頭はくるくる、意識はふわふわ、おまけに視界の焦点は合わない。
日付は、6時間前に変わっていた。
「…あい」
「…くろのす」
あの後。自分たちでもよく分かんないくらい、ぐちゃぐちゃで、めちゃくちゃなことになっちゃった。寝間着と布団の様子が、それがどれだけ幸せだったかを物語っている。
「…んっ」
「んっ」
不健全だなんて重々承知だ。それでも、口吻をしないと、互いに気持ちが収まりそうになかった。
ガチャッ
「くろ姉〜?あい〜?朝ごはんできたんだけど、まだ起きないnnnnnnnnnn…………………………」
……………
……………
……………
「……………何でもないや。ゆっくりしてていいよ〜」
…あいの顔は、林檎みたいに赤くなっていた。多分、私も同じ顔してたと思う。
みんなの目線は1日中温かかったし、夕飯には赤飯が出た。