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欠落楽団  作者: 八音 奏
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音の処方箋

最終楽章は順序を飛ばすと全く感動の出来ない、感動を呼ぶ音楽性となる。全ての楽章を奏でるからこそ、音楽は美しく賞賛を浴びる価値のあるものへと変貌するのである。

嫌悪な音響が部屋に響き渡る。……日課のせいか、自然とその音で目が覚める。

数秒した後、頭の中に今は何時だろうか……という疑問が頭の中を渦巻くと同時に、未だに嫌悪な音を消していない事に気が付く。

……その音を消すと同時に時間の確認が出来たが、更に自分の気分を害す結果となった。

……午前3時25分……何故、この時間帯に目覚ましをつけたのだろうか、私は甚だ疑問に思いつつも、二度寝をするような気分でも無かった為、二階から降り、インスタントコーヒーを入れ、椅子に座る。

1階にある時計の針が進む音が鮮明に聴こえる。時計の方に目を追いやるといつの間にか15時30分になっていた。

私はいつの間にそんなに時間が経ったのかと思いながらもコーヒーを飲むと、それは既に冷めていてとても飲めたものでは無かった。苦味の凝縮された冷たく、黒い液体を誰が口にしたいと思うのか……。

私はそれをシンクに流し、お気に入りの哲学本を手に取った。

本日の仕事は19時から始まる、それまで気持ちを落ち着かせようと私は思っていた。

……だが、その哲学本はページが所々ボロボロになっており、内容を理解できるものでは無かった。

私は仕方無く、指揮の練習をした。音楽を自分が先導する為、私は最もミスをしてはならないのだ。

勿論、今日の為に多くの練習を重ねた。私は完璧主義であり、皆の為にも成功は絶対に収めなければならない。

「彼等は問題なくやれているのだろうか。」

私は総勢60名のそこそこ有名なオーケストラの指揮者として仕事をしているが、どうも、団員に信頼は置けない。

勿論、しっかりと結果は残している、音楽のセンスも充分ある……だが、私は心配性の性格が出ているのか、身内以外はどうにも信頼出来ない。

そんな事を考えている内に、時計の針は18時に回った。私は急いで式場に向かった。

幸い、会場は家の近くだった為、すぐに会場に到着した。

会場の控え室に入ると全員がチューニングや楽器の手入れをしていた。

私が来ると同時に、皆は楽器を構え始めた。

やる気が充分ある様で多少の信頼は置け、私は指揮棒を挙げ、振り始める。それと同時に皆が音を鳴らす。

その音はまるで、全てにおいて完璧な団結力の塊と悲壮感の憶えるメロディーであった。

リハが終わるとようやく開演の様だ。

開始……敬意の拍手と同時に幕が上がる。

私は最後まで不安があったが特に問題も無く進んだ……。

だが、第二楽章の終わりで1人の楽器のチューニングが崩れた。そこから周りのリズムも崩れ始め、観客がざわめき始める。

私の考えの中での最悪な事態に直面した。……私は只々指揮をするしか無かった……それしか出来ることは無かった。

私は思い切って指揮で楽章をfinaleに変えた。

周りが察したかの様にどんどんとテンポやリズムが戻っていき、一つの音楽として成り立った。私の求めていた音楽であり、初めてここまでの団結力を感じられたかもしれない。

私は目を閉じ、深い礼をした。

演奏は終わり、全ては賞賛の拍手により終了した…………筈だった。

耳に入ってくるのはどれも精神に異常を来たしそうな苦痛な不協和音。

目を開けると聞くに絶えない音と共に外へ出ていく観客達。

私はこれが夢だと思った。否、夢であって欲しいと思っていただけだった。

先程の賞賛や私の指揮は全て妄想、幻覚であったのだ。

全ては多少の期待による事故だ。たったそれだけの事故で私は人生の全てを失った。

……皆が絶望する状況で私は、一つこう思った。楽団の皆が私へ信頼と期待を置いていれば……こうはならなかったのでは無いだろうか……。

後日、男性が一人が首吊り自殺で死亡したとのニュースがあった。

その死体のあった部屋には楽譜が散乱しており、冷めたコーヒーと何も書かれていない本が置いてあった……。

こちらの作品に目を通していただき、誠にありがとうございます。この作品は1作目でまだぎこちないかも知れませんが、是非、今後あげていくものも読んでもらえると大変嬉しく思います。今回の作品は、誰も信頼しない完璧主義の指揮者が団員の楽器の動作不良により、文字通り全てを失うという内容で、団員からの信頼さえあれば妄想のままになっていたかもしれないという 、信頼と団結の重要性についてを書いてみました。最後まで読んで頂き、誠に感謝致します。

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