異世界転移とスキル授与の理不尽
いつもの朝。変わらない風景。誰も俺を見ない教室。
つまり、今日も「さえない高校生」なわけで。
「……相川、お前また一人で弁当かよ」
昼休み、三組の陽キャグループが笑いながら通り過ぎる。
べつに気にしてない。慣れたことだ。
俺――相川ユウトは、ごく平凡な高校二年生。いや、「平凡」って言葉すら贅沢かもしれない。
地味、暗い、目立たない。まるで影だ。
だが、その日だけは、違った。
帰り道、横断歩道で信号が変わる直前――
「……えっ?」
横から、猛スピードでトラックが突っ込んできた。
すぐ足元にいた、子猫をかばった――その瞬間だった。
──視界が、真っ白になった。
気がつくと、俺は知らない場所にいた。
「……は? ここ、どこだ……?」
石造りの天井。大理石のような床。空中に浮かぶ光の球が、部屋をぼんやり照らしている。
そこには、天使のような羽を持つ美少女が立っていた。
「ようこそ、異世界リュゼリアへ、選ばれし者よ!」
「……ああ、うん、これアレだ。異世界転移ってやつだ……!」
俺は思わず頭を抱えた。なぜ俺なんだ。クラスのイケメンでも、スポーツ万能なあいつでもなく。
なぜ、こんな冴えない俺なんだ。
「あなたには特別なスキルを授けましょう! さあ、お好きな系統をお選びください!」
そう言って彼女は、いくつかの選択肢を表示した。
【攻撃特化型】【魔法万能型】【回復特化型】【支援型】──どれも強そうだ。
俺は、迷った末に「支援型」を選んだ。直接戦うのは苦手だし、後方支援のほうが性に合ってる。
「……では、授けましょう!」
彼女が掲げた手から、光が俺の体へと注がれる――!
……が。
数秒後、彼女の表情が曇った。
「……あの、なんというか……その……ちょっとしたエラーが」
「エラー……?」
「はい。スキル【村神の加護】が付与されました。ただし、あなたのスキルは“村の中でのみ有効”です」
「……は?」
思考がフリーズした。
「攻撃も防御も、回復も強化も。すべて“村”と認定された区域でのみ発動可能です。村の外では、ほぼ無力になります。以上です、頑張ってくださいね♪」
「いやいやいや! 理不尽すぎだろ!? 俺、村人Aにもなれてねえじゃん!」
叫ぶ俺をよそに、天使はにっこりと笑いながら、手を振った。
次の瞬間、俺の体は光に包まれ、世界から弾き飛ばされた――
──こうして俺は、
“村でしか役に立たないチートスキル”を引っ提げて、
本気でヤバい異世界に投げ込まれることになった。
……マジで詰んでる。
落下するように転移した先は、しょぼい村だった。
「……うわ、想像の三倍しょぼい」
木造の小屋が三、四軒。道というより獣道。水も濁ってて飲めるか怪しい。
村人たちは俺を見て警戒していたけど、一人だけ、声をかけてくれた。
「おい、新入りか? こんな辺境に、よく来たな」
ひげ面でガタイのいい男だった。名前はバルド。村の元衛兵らしい。
「俺、ユウトって言います……その、訳あってここに来たんですけど」
「訳ありなのはみんな一緒だ。とりあえず、腹減ってるだろ。干し肉くらいならある」
村での生活が始まった。
だが──すぐに俺は悟る。
この村、完全に詰んでる。
作物は枯れ、井戸は干上がり、魔獣に家畜は襲われ、医者もいない。
村人は少なく、みんな疲れ切っていた。
「こんなとこで、村限定スキルとか……俺の人生どこまで不遇なんだよ」
それでも、何かできないかと考え、スキルを試してみた。
▼【村神の加護】──発動条件:対象が“村の範囲内”であること
効果1:【土壌再生】──枯れた土地に活力を戻す
効果2:【生活圏強化】──水源、建物、道の質を緩やかに向上させる
効果3:【庇護の結界】──村の周囲に敵の侵入を阻む障壁を展開する(小範囲)
※スキルの規模・効果は村の「幸福度」に応じて拡張
「……幸福度? ゲームかよ」
とにかく、畑の真ん中でスキルを発動してみた。
「えっと……【村神の加護】、効果1:土壌再生、発動……ってことでいいのかな?」
青白い光が、俺の手から土へと染み込んでいく。
すると──
「……おい、芽が……芽が出てるぞ!」
「こ、こんなに早く!? 昨日まで砂利だったのに……!」
村人たちが驚きの声をあげる。芽どころか、小さな葉菜がすでに成長を始めていた。
その時、俺の胸に、ぬくもりのような感覚が宿った。
――ああ。これが、俺の力なのか。
外ではまるで役立たず。でも、この村の中なら、俺は……誰かを救える。