話が広がらなかった
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛...」
翌日。今もなお切れていない配信が流れていることを知っていながら、ボクは呻いた。
昨日ボクのPCが死んでから、配信はずっと垂れ流されていた。スパチャの金額はもう数えきれないぐらいで、海外勢なのか英語のコメントもたまに見られていた。
「スパチャやめてぇ...。」
すっかり弱り果てたボクがそう言うけど、コメント欄は逆にスパチャの嵐。というか、スパチャで大体ゼロって名前がついてんの止めて欲しい。ボクは天音旻だっつぅの。
【Emilite】:PC強制シャットダウンすれば消える余!余ー!
「余だー!ありがとー!ってことで切りまーす」
エミライトさん、それは余さんのイラストレーターとしての名前。イラストレーター・エミライトとして個人勢として配信を行っている人で、そのトークは余さんと同じ人だとは思えない。
エミライトさんの指示に従って、ボクはPCを直切りした。
「んにゃっ!?」
目が覚めた。今もなおくらくらする頭をブンブンと振るうと、青い長髪がボクの前を過ぎた。
「ううっ...。」
それに気づかず、ボクは立ち上がる。そして、すぐに何かおかしい事に気付いた。
いつもよりも、視点が低い。いつもが164だけど、いまは150...割ってるかな?しかも、お酒飲んでないのにまだ頭がぐらぐらする。
切れていたPCが、突然起動する。旧世代のような画面が写った。
『tugiha omaenobanda amane-zero』
直後、暗転したPCモニタには...天音旻が、映っていた。
「余ー!余ー!」
『...余にもどうする事が出来ないんだが。というか、余にその話を持ってくるあたり信頼されているのは嬉しい...。』
「余ー!?余ー///」
『て、照れるな!余の方だって、その、恥ずかしいんだぞ!』
このことを、まずイラストレーターである余さんに相談した。...不覚にも、照れる余さんに萌えたのは仕方ない。うん...。
でも、余さんじゃ解決できないみたいだ。3期生でほかにリアルで会ったことがある人はいないし、2期生の先輩にも戦力になれる人はいなそうだし...いっそ、他の事務所の娘の知り合いに頼んでみよっか。ボクは、或るところに電話した。
「やっほー!って、ずいぶん可愛らしくなっちゃったねー!私とほぼ一緒じゃないかー!」
「うん...。ボクも配信の姿とほぼ一緒になっちゃってさ...。直す方法ないかな?」
「ないよ!あ、でも直せるかもしれない人なら知ってるけど!」
ボクは、幻想議会立ち上げメンバーの銀嶺フブキ...いや、蒼月フブキの所にいた。ボクの数少ないリア友で、とてもいい子だ。配信の時の白い髪にケモ耳と翼というのは流石にないけど、白銀の髪の子供っぽい知り合いだ。無類の甘いもの好きで、お酒を飲ませると暴走する。
その人の所に行くことになった僕たちは、車でひとっとび。山に入っていったタクシーが心配になってフブキの事を見たけど、あの笑顔を見るなり問題なさそうだ。
「いらっしゃーい!...ほぇ?フブキちゃん、めずらしいねっ?隣にいる天音ちゃんが関係してるのかなっ?おーい?聞いてるかーい?」
「...」
目の前にいる緑の髪の天使に、ボクは硬直していた。蒼月明様だ。緑の長髪がトレードマークの明様は、ライブ配信以上のロr...童顔でつい手が出てしまいそうになる。
「んー?あ、ゼロちゃんか。ようこそー」
「ぜ、ゼロ...?」
「んーと、多分僕が潰した世界の中に君がゼロって呼ばれてる世界があったはずだよね?夢として見せたけど、結局こうなっちゃったしさ。議会で動いてみたら?いいとこだよー、まあ僕はマキちゃんとかフブちゃんしか知らないけどね」
後ろから出てきたのは、僕にとっても似た女の子だった。か、可愛い...!たしか、蒼月澪さんだったか。
「とりあえず、マキちゃんに言っておくから。それに、ジズにしても特に何もないはずだよ?あそこ、経営難だし。今回の不祥事で卒業ってことになれば問題はない筈...多分ね。ただ、新しい姿にしなきゃなんないから...そうだ。ちょぉっと痛いけど、肉体改造しよっか」
「え、何を...」
逃げようとするけど、両腕を明様とフブキに塞がれる。明様は「うけけ、これで君も同類だよっ!」と悪い笑み、フブキは「あはは...まあ、諦めなきゃだよねー」と苦笑顔。
「ほら、ばんざーい」
「うにゃあぁぁぁぁぁぁあっ!?」
「...うぅっ」
僕は、新しい肉体を得た。澪さんと同じ青い髪で、所々銀髪がある。今までのボクの髪の比率を真逆にすればなる見た目だ。名前は、天音ゼロ。胸は相変わらずない。背はさらに低くなって、140にも満たない。計ってみたら137だった。澪さんよりは数センチ大きいけど、そのだけだ。議会が出来て5か月、明様から送られてきたボクの絵が出来たから、ボクは澪様についでに4人ぐらい明様と同じ性質の人を作ってもらい、フブキと共にマキ...貴ちゃんの下に突撃した。
それが、議会2期生『永久 ゼロ』のいでたちだけど...知ってる人は、あまりいない。今、ボクは異世界にいるしね。