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鋼の月と白兎  作者: さかはる
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望月と遠吠え 4

お久しぶりです。また好き勝手やりたいと思います

「行こ、ヒビキ」


 そう言ってエレンは立ち上がった。


「いや宇佐美、まだ誤解が解けてないだろう」


「どうでもいい、()()()()()


 エレンの言動にカチンと来たヒビキが立ち上がるより早く、サクラが椅子から立ち上がった。


「実害が無いですって?」


 逆立つサクラの髪の毛。言わずもがな怒りの形相だ。


「無い。私が居る限り君はヒビキにどんな危害も加えることは出来ない。何も問題ない」


「宇佐美!」


 今にもエレンに飛びかかりそうなサクラの前に、ヒビキが立ち塞がる。


 顔を曇らせ、額に汗をうかべるヒビキ。その様子を見てエレンは眉をひそめてそっぽを向いた。


「宇佐美……あまりそういうことを言うもんじゃない」


 そう静かに零すヒビキ。エレンは半泣きで叫んだ。


「なんでアイツを庇うんだ! 先に私を怠け者呼ばわりしたのはアイツの方だ! ヒビキは私の仲間じゃないのか!」


 踵を返して走り去るエレン。ヒビキはため息混じりに頭を掻きながら、サクラの方へ振り向いた。


「……あんまりアイツを怠け者呼ばわりしないでやってくれ。どうにも堪えるらしい」


 ヒビキは、『じゃあ』とだけ言ってその場を後にした。ヒビキがあまりに穏やかだったので、後に残されたサクラはどうにも困ってしまった。


 ◆◇◆


 それから2日が経った。錬武館1階に設けられた剣道場で、1人の少女が黙々と竹刀を振っていた。サクラだ。サクラが竹刀を振る度に長い黒髪が揺れ、雫になった汗が跳ねて煌めく。そんなサクラに話し掛ける者があった。


「力んでるぞ、サクラ。まだアレを気にしてるのか。もう忘れろ」


「朱雀……!」


 声の方に振り返るサクラ。朱雀と呼ばれた青年は、鋭い目つきとがっしりした長身に、輝く金髪をなびかせる威圧的な見た目をしていた。そよ風でも吹けば吹き飛ばされそうな大神ヒビキ君とはえらい違いだ。


「まだ傷が塞がりきってないだろう。また道場を血だらけにするつもりか、次は掃除を手伝わないと言ったはずだ」


 宇佐美エレン道場破り事件があったあの日、サクラは女子剣道部1年エースとしてエレンと戦い、そして敗北した。その反動で翌日泣きながら"丸一日"素振りをして、手のひらがぐちゃぐちゃになり、道場の一角を血だらけにしたことがあった。


「あれはもう気にしてない」


「じゃあ気にしてるのは、大神ヒビキと宇佐美エレンがたった二人で分隊を組むと宣言した事件のことか」


 朱雀はサクラに水入りのペットボトルを投げて寄こした。


「それも気にしてない!」


 そう言ってサクラは水をぐびぐびと飲んだ。ちなみに、気にしてないというのは嘘だ。


 操縦科1年の個人成績は宇佐美エレンが断トツの1位、そしてサクラが2位、僅差で朱雀が3位だ。サクラはてっきりエレンと分隊を組むものだと思っていたのに、エレンは『お前たちなんか必要ない』とでも言いたげにヒビキ(最下位)と分隊を組んだ。サクラにとってこれはエレンからの挑発以外の何でもなかった。


「とにかく少し休め、熱中症になるぞ」


 その時、蝉の声に混じって、錬武館の入り口の方で声がした。


「すいません、誰かいませんか」


「誰だろう、事務の人か?」


 そう言って入り口の方へ行こうとする朱雀をサクラが止める。


「いや、この声は……!」


 声の主はサクラ達にどんどん近づいてくる。


「すいませーん。誰かー……。 宇佐美ー! はぁ、ここにもいないのか」


 そうしてヒビキは、道場でサクラ達にばったり出くわした。

 

「大神ヒビキ……!!」


「げっ!? 玄武寺!? ……さん」

 

 血相を変えてヒビキに近づくサクラを朱雀が止める。


「大神か、何の用だ」


「何しに来たのかしら、変態さん」


「変態はよしてくれ……えっと、お疲れ様です。宇佐美エレンって子を探してるんです。眠そうにしてる白いツインテールの女子で……」


 ヒビキのその言い回しにサクラは呆れてため息をつく。


「はぁ……大神君、朱雀は私たちと同じ操縦科の1年生よ。当然宇佐美エレンについても知ってるわ。本当にクラスメイトに興味無いのね」


「そ、そうなのか、てっきり先輩かと思った。道理で俺の名前を知ってるわけだ」


 ヒビキは『またやってしまった』と頭を抱えた。


「宇佐美はここには居ない。それより大神、お前顔色ヤバいぞ。大丈夫か」


「顔色が悪いのはいつもの事だ。……そうか、宇佐美は居ないのか。ありがとう、じゃあ俺はこれで」


 そう言ってフラフラと歩き去ろうとするヒビキを朱雀が止める。


「いや、いつもの比じゃない! すぐ休め!」


◆◇◆


 日陰のせいで分かりづらかったが、ヒビキの顔は顔面蒼白そのものだった。目の下のクマもいつもの5割増で酷いし、呼吸も浅い。


「丸2日徹夜した上に3時間も炎天下の学内で宇佐美を探し回っただと!? お前死にたいのか!?」


 道場の隅にヒビキを寝かせ、朱雀は自分の水筒を取り出した。水筒の中で氷がカランと鳴る。


「冷水は良くないか……常温の水は……」


 サクラはさっきのペットボトルを朱雀に差し出した。


「医務の先生を呼んでくる」

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