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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 10

 慌ててスマホを取ったヒビキは、画面に映る文字に目を見開いた。


(航空自衛隊の管制室でアラートが鳴っている……!)


「どうした、大神」


 怪訝な顔をする熊谷。ヒビキはサクラに詰め寄って女子トイレを指差した。


「玄武寺、ゾフィーを引っ張り出してきてくれ! 早く!」


「なっ、何よ急に。今さっき身を引けって……」


「いいから早く!」


 今度は博物館中のスマホというスマホから不快な警報音が鳴り響く。全国瞬時警報システム、Jアラートだ。同時に、博物館の外でサイレンが鳴り出す。


『空襲です、空襲です。空襲です、空襲です』


「空襲!?」

「空襲って、ここに?」


 博物館にどよめきが走り、どよめきがやがてパニックになる。


「またか、最近本当に物騒だな……」


 朱雀はスマホのアラートを止めながら横目にヒビキを見た。


(前もこんなことがあったな……ヒビキのスマホだけ、やけに警報が鳴るのが早い……何かそういうアプリでもあるんだろうか)


「大神君……!」


 サクラが動く前に、ゾフィーがスマホを握りしめてトイレから飛び出してくる。ヒビキはゾフィーの方へ振り向いた。


「……あんたを守れと、あんたの相方に頼まれている。そばを離れないでくれ」


「は、はい」


 ゾフィーは顔を赤らめてフードを深く被った。


 熊谷はパニック状態となった辺りを見渡しながら、淡々と声を張った。


「この規模の大型施設ならシェルターの設置が義務付けられているはずだ、避難指示のアナウンスがあるんじゃないのか?」


 博物館の中にアナウンスが鳴り響く。


『空襲警報が発令されました。お客様は係員の誘導に従い、地下シェルターに避難してください。繰り返します──』


「だそうだ、皆。シェルターに逃げ──」


 熊谷の言葉を凄まじい轟音と衝撃が遮る。直後に響く、空気を突き破るソニックブームの音。博物館の広い窓が一斉に砕け、ガラスの破片が飛び散る。


「うわあああっ!?」

「きゃあああっ!」


 パニック状態の博物館に更に混乱が走る。


「爆発……いや、ソニックブーム……!?」


「今度は何だ!」


 その音に続くように、一つ、また一つと轟音が鳴り響く。それは博物館のすぐ近くからであったり、どこか遠くからであったり。


 博物館の上を通り過ぎていく、聞き覚えのあるエンジンの音に、ヒビキは固唾を飲む。


(何の冗談だコレは……信じないぞ俺は……)


 割れた窓の外、ロケットの模型などが展示されていたあの広い芝生に、猛烈な砂煙が立ち込めている。その砂煙のスクリーンの中でのたうち回るのは、見覚えのある、6本の触手の影。


「異形の……ヴァンガード……!」


 影を睨むヒビキの隣で、ゾフィーはそっとヒビキのシャツの裾を握った。


◆◇◆


 ヒビキ達は、薄暗い地下シェルターの中に何とか逃げ込んだ。


 地上では激しい戦闘が行われているようで、ヴァンガードの足音や無数の砲声がシェルターの中に響く度に、薄暗い蛍光灯の下に悲鳴が起こった。


「この足音……自衛隊の12式だ。砲声からして10式戦車も混じってるネ」


「ほぅ、よく分かるな」


 感心する熊谷にゾフィーはドヤ顔をして見せた。


「まぁね。実はボク、兵器には詳しいんだ、意外かもしれないケド」


「はぁ、よくこんな状況で冗談言えるわね」


 サクラは呆れてため息をつくと、壁際に座り込んでいるヒビキを睨んだ。ヘッドホンで耳を塞ぎ、スマホを横持ちして画面をリズミカルに叩いている。


(こんな時に音ゲー? 信じられない)


「あんたホント……ちょっとはエレンのこと心配したりしないわけ?」


「……宇佐美なら生身でも異形のヴァンガードから逃げ切れるだろ」


「それは……あぁもういいわ」


 丸暗記している音ゲーの譜面を叩くフリをしながら、ヒビキはハッキングした街中の監視カメラの画面を次々に切り替えた。


(よし、ホテルの近くに異形のヴァンガードは居ないようだな……修学旅行には学校医の先生が同行してるはずだし。仮にエレンが今朝のように意識朦朧としていたとしても大丈夫だろう)


 ヒビキは自衛隊と交戦する異形のヴァンガードが映るカメラに切り替えた。


(避難完了の確認はまだ出来ていないはず、それなのに発砲してるってことは、これは現場の判断。特定攻撃に対する例外がどうのこうのってやつだな……マスコミは大喜びだろうな、明日には自衛隊を叩き放題だ)


 監視カメラから見える範囲では、自衛隊が圧倒的に不利。ヴァンガードと戦車合わせて5機で異形のヴァンガード1機を相手にしていると言った具合だ。


(攻撃がまるで効いてないな)


 ヴァンガード隊がライフルを一斉に放つ、しかし、異形のヴァンガードはそれを全く意に介さず、触手を振り回してヴァンガード隊を後退させる。


 だが、自衛隊が不利なのは単純なヴァンガードの性能差だけが原因ではない。


 民間人を発見すれば、攻撃は即座に中断、救助用のコンテナを持ったヴァンガードが民間人を保護するまで自衛隊は防御と護衛に徹しなければならないのだ。


(警報が遅かったこともあって、まだ相当な数の人間が逃げ遅れているはずだ、これは、やりにくいな……)


 ヒビキは監視カメラを切り替える。すると、すっかり動かなくなった異形のヴァンガードの残骸が目に飛び込んできた。よく見れば胴体部分に大穴が空いている。


(この特徴的な傷は……おそらく戦車のapfsds弾の弾痕だ。なるほど、いくら堅牢な異形のヴァンガードといえど、apfsds弾の攻撃には耐えられないのか)


 戦車砲クラスのapfsds弾は発砲の反動が大きく、汎用型のヴァンガードでは撃つことができない。強力な徹甲弾であるapfsds弾を使えることは戦車の大きなメリットだと言えるだろう。


 カメラに映る戦闘の様子を見るに、自衛隊は既に、ヴァンガードで異形のヴァンガードを拘束し、戦車でトドメを刺すという戦術に切り替えているようであった。しかし、凄まじい機動力と、近接格闘能力を持つ異形のヴァンガードを拘束するのはかなり難しいようで、どのカメラに映る部隊も苦戦を強いられていた。


 その時ふと、ゾフィーがヒビキのスマホを覗き込んできた。

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