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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 4

「ゾフィーは今どうなってる」


「すっかり眠っているよ。安心するといい」


 そう言ってゾフィーはスマホを取り出す。


「うわー。ホントにボクのゲームアカウント消されてる。ヒドいことするなぁ。仕返しにゴキブリの写真アホほど保存してやろ〜」


 幼稚な仕返しをする真実のゾフィーをヒビキは問い詰めた。


「昨日の夜、宇佐美に何があったんだ。それに、『この前のこと』って何だ?」


 ゾフィーはスマホを弄りながら、返事だけよこした。


「そんなことより君、エレンの過去についての調査はどうなってる? 君の実力ならもう成果が出ていそうなものだけれど?」


「宇佐美の許可が下りない限り彼女の過去は調べない。話を逸らすな」


 ゾフィーはそれを鼻で笑った。


「都合がいいじゃないか。エレンの過去は本人の許可がない限り調べないのに、ボクが知っているエレンの『プライベート』については知りたいなんて。君はクズだ。ボクの言うことを聞きたくないばかりか、かっこつけ・体裁のためだけにエレンを尊重しているフリをしている、クズの中のクズだ」


「何か勘違いをしているみたいだな。俺は必要に迫られれば例え宇佐美の許可が無くたって宇佐美の過去を暴くぞ」


「ふん、つまりまだその必要が無いと?」


「そうだ。だからまだ、宇佐美の意思を尊重できる猶予がある。だが今回は違う。もう猶予が無い……かもしれない」


「君も何かエレンについて気になることが?」


 ヒビキは頷いた。


「あんた、今朝の宇佐美の顔を一度でも覗き込んだか?」


「いいや。彼女(ボク)はエレンの顔を覗き込んでいない」


「宇佐美は……」


 ヒビキはそっぽを向き、遠くを睨みながら重々しく続けた。


「宇佐美は、大きく見開いた目を血走らせ、目に涙を溜めたまま、『みつけた』と、何度も繰り返しつぶやいていた」


 ヒビキの額に汗が滲む。


 思い出すだけで身の毛がよだつ。首をだらりと垂れたまま。……瞬きをしていなかったのだろう、血走らせた目に涙を溜め、瞼と深紅の瞳孔を大きく開き、虚空をじっと見つめて、『みつけた』と、小さく呟き続けるエレンの姿。はっきり言って、気味が悪いなんてものではなかった。


「『みつけた』……だと?」


 ゾフィーは顎に手を当てる。


「何か気づくことが?」


「まぁね……でも一応場所を変えようか。女の子のプライベートの話だからね」


◆◇◆


「で、なんでプラネタリウムなんだ。内緒話には一番不適切だろ」


 つくば航空宇宙博物館には大型のプラネタリウムがあり、ヒビキとゾフィーはチケットを持ってその入場ゲートに続く列に並んでいた。


 しかし、暗く、静かで、誰もが解説ナレーションに耳を澄ましているプラネタリウムは内緒話には最悪の場所である。それに……


「ねぇあれ、猫宮さんじゃない?」

「昨日隣のヒモに泣かされたって聞いてたけど……」

「えー! あの二人そういう関係なの?」


 この博物館は『見学必須施設』の一つ。つまりヒビキ達の同級生が大勢居るのだ。プラネタリウムの入場ゲートに、学校で有名な美少女とヒモ男が並んでいれば、ろくでもない噂が立つに決まっている。


 同じように博物館に来ていたサクラが、遠目に2人を刺すように睨む。


(なんでよりによってサクラまでこの博物館に居るんだ! あぁもう最悪だ!)


 ヒビキは慌てて目を逸らして、ゾフィーにおろおろと詰め寄った。


「ほら見ろ言わんこっちゃない……! 俺やあんたは平気でも、ゾフィーが──」


 しかしゾフィーは、そんなヒビキを黙らせるように、突然ヒビキと手を繋いだ。しかも恋人繋ぎで。ヒビキは顔を真っ赤にして慌てる。


「お前! 話聞いて──」


「"今回はあの子を無理やり眠らせてしまったからね。少しくらいサービスしてあげないと"」


 そう"言って"、ゾフィーはヒビキの顔を覗き込んで意地の悪い笑みを浮かべた。繋がれたゾフィーの手、親指がぱたぱたとヒビキの手を叩き、ヒビキの手に信号を送る、ヒビキは呆れて溜息をつき、信号を送り返す。


「"なるほど、モールス信号か。指で相手の手を叩くくらいなら大して音は出ないし、確かにこれなら静かに会話ができる。プラネタリウムの中は暗いし、周りの客も天井しか見てないから、手元を見られる心配も少ない。だが──"」


 ヒビキは恋人繋ぎを解いて普通に手を繋ぎ直した。


「これで十分だ」


「やれやれ、つまらない男だね君は」


◆◇◆


『皆さま、こんにちは。本日は「特別展:ツングースカ隕石」にちなんで、彗星の世界をご案内させていただきたいと思います』


 暗いプラネタリウムに彗星が流れていく。ヒビキとゾフィーは隣合ってリクライニングシートに座ると、手を繋いだまま、頭上を通っていく蒼い一筋の光を眺めた。


「"ところで君、自分がWOLFだということをすっかり隠さなくなったね"」


「"いちいちツッコミを入れなくていいと言ったのはお前だし、俺にあれこれ吹き込んで宇佐美について調べろと言ったのもお前だ"」


 ゾフィーの手は細く小さく、ヒビキは信号を送る度に、うっかり壊してしまうんじゃないだろうかと不安になるほどだった。


「"まぁいい……さて、何から話すべきか"」


 ゾフィーは瞼を閉じて、先日の出来事を話し始めた。

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