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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 2

 朝食やら打ち合わせやらが終わり、仮初の自由を手に入れた学生達は、ホテルのロビーで分隊毎に合流し、散策へと出掛けて行く。ヒビキはロビーの隅の壁でゾフィーとエレンを待った。


 一方、エレベーターの中。ゾフィーは備え付けの鏡の前でまとまらない前髪を何度も直していた。


(うぅ、なんでこんなことに……)


 ゾフィーの隣にエレンは居ない。朝から様子がおかしかったエレンだったが、朝食の後で『頭が痛い』と言い出し、ホテルの部屋で寝込んでしまったのだ。


 つまり、今日の自由散策はヒビキと2人きり、事実上のデートである。行き先がナントカ科学館とかホニャララ博物館とかばっかりでさっぱり色気が無いとは言え、デートはデートである。


(余計な事を考えるな! こんなものがデートなもんか!)


『いいや、デートだよ』


 ゾフィーは、鏡の中に立つ憎たらしい同居人を睨んだ。ゾフィーに不都合な真実を告げる、真実のゾフィーだ。


「……お前の、ありとあらゆるゲームのアカウントを削除しタ。家に帰ったら、お前が溜め込んでいるトレカだのボドゲだのを、全部まとめて捨ててやる。金庫の中身もだ、扉を溶断して──」


『やれやれまったく、(ボク)は子供だな。まさか(ボク)ボク()と戦争をするつもりかい?』


「当たり前ダ! 人の身体で好き勝手して!」


『でもお陰で大好きな彼との関係が進展しただろう?』


 ゾフィーは顔を真っ赤にして、言葉に詰まった。そんなゾフィーを見てケラケラと笑う真実のゾフィーに殴り掛かろうとして、馬鹿馬鹿しくなったゾフィーはため息をついて拳を下した。


「で、何に気づいたんダ?」


『何って……だから、君がこれからすることはデートだと──』


「いや違うね。だってそれは、()()()()()()()カラ」


 ゾフィーは顔を赤らめて腕を組み、真実のゾフィーを見据えた。真実のゾフィーは目を逸らす。


「君が起きたトリガーが分からナイ。何に気づいたの?」


『やれやれ、メタ読みはやめてほしいな』


 真実のゾフィーが起きたということは、彼女(ゾフィー)が何かしらの、不都合な真実に気づいてしまったということ。しかしゾフィーにはその心当たりが無かった。真実のゾフィーは言わば安全装置。ゾフィーが理解を拒絶したくなるほどの不都合でなければ目覚めない、作動しない。


『まだ真実になってない仮説の話だ。ボクから言えることはただ一つ。彼のそばを離れないで、オオカミの隣が一番安全だから』


 そう言って消えてしまう真実のゾフィー。


「あ! ちょっ……! いっつもいっつもそうやっテ……!」


 鏡の前でため息をつくゾフィー。ゾフィーはそこで初めて自分が乗っているエレベーターが動いていないことに気づいた。


「あ……ボタン、押してない」


◆◇◆


「お待たせ」


 壁にもたれ掛かってヘッドホンで耳を塞いでいるヒビキに、ゾフィーはぎこちなく声をかける。


「……あぁ。宇佐美は?」


 ワンテンポ遅れてゾフィーに気づいたヒビキが、ヘッドホンを外して顔を上げる。酷い顔だ。クマもいつにも増して濃いし、顔色も悪い。しかし目つきだけは鋭かった。光の無い、刺すような眼差しだ。


「ラ、RINE見てないの? エレン、頭が痛いって寝込んじゃったのサ」


 そう言ってネコミミフードを深く被るゾフィー。


(何をときめいているんだボクは! 馬鹿丸出しじゃないか!)


 ヒビキの顔が妙に整っているのが悪い、と、ゾフィーは責任転嫁した。


 もちろんゾフィーの目にはフィルターが掛かっている。しかし、この大神ヒビキという男。それはそれとして、客観的事実として(どちらかと言えば)顔整いである。


 さもなければ、社会を覆いつくしているルッキズムに汚染された最近の少女が、こんな不潔な犯罪者に恋心を抱くはずもないのだ。ゾフィーが勝手に(一方的に)イメージしていた「Undergroundの陰の支配者†ダークネスハッカー†WOLF様」像と、実際のヒビキがさほど解離していなかったから許されているのだ。もしもヒビキが本当に言葉通りの不潔な犯罪者であったなら、幻滅したゾフィーの手によってヒビキは今頃刑務所に入れられている。


「じゃあ……行くか」


「うん」


 ポケットに手を突っ込んで歩き出すヒビキにゾフィーも続く。高鳴るゾフィーの胸に、もう一人の自分の言葉が引っかかった。

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