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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:後編 1

※過去の投稿を一部修正しました。セリフや細かい展開が多少変わっていますが、設定と話の本筋に変更はありません。

「■■、どうして、生き物を絶滅させてはいけないの?」


「いいわよ別に、絶滅させたって」


「いいの?」


 そう言って、本の山に埋もれている少女は女の方を見上げた。車椅子に座った白衣の女は少女の頭を撫でる。


「いいわよ。仮にその種が絶滅したとして、それでも人類が存続し続けられるなら、その種は絶滅させたって構わないわ。人類にとって害しかない種なら、むしろ積極的に絶滅させるべきね」


「じゃあ、狼は?」


 女は、少女の手の中にある赤ずきんの絵本を見て微笑んだ。


「そうね、悪い狼は絶滅させた方がいいわ。絶滅させましょう」


 そう言って女は少女が大事そうにとっていたクッキーの箱を奪い取った。


「かえして!」


「ダメよ。狼は絶滅したんだから」


 そう言って、女は箱の中のクッキーを次々と頬張った。少女は涙目で女にすがりつくが、女はクッキーを食べる手を止めなかった。


「なんで」


「狼が絶滅すれば、それまで狼が食べていた鹿の数が減らなくなる。増えすぎた鹿は森の植物を食いつくす。森で植物を食べていた生き物全部は食べるのに困り、人里へ降りてきて農作物を食べる。クッキーは作れなくなる」


「わかった。じゃあ、狼は絶滅しない方がいい」


「ふふ、よろしい」


 女はすっかり軽くなったクッキーの箱を少女に返した。


「いつか人類が、狼の力を借りなくてもクッキーを作れるようになったら、狼を絶滅させましょう。それが、何万年後になるかは、わからないけどね」


◆◇◆


(全く寝れなかった……)


 修学旅行2日目の朝。打ち合わせ及び朝食ためにホテルの大ホールへ向かう学生の群れに混じり、ヒビキはよろよろと歩いた。


 夜中にリンチされることは無かったが、あんなことがあった後に眠れる訳もなく。地下の球体のことや、二人のことを考えている間に気づけば朝になっていた。


(ゾフィーと今まで通り普通に話せる自信が無い)


 だと言うのに、今日の旅程はなんと分隊単位でのつくば市内の自由散策。一日中ずっとゾフィーと行動を共にすることになるのだ。


(気まずい。鬱だ)


 しかし、どれだけ気まずくてもやがてその時はやってきてしまうもので。大ホールでの打ち合わせが終わり、バイキングコーナーへと向かう学生の流れの中で、ヒビキはついにゾフィーに出くわしてしまった。


「おはよう。大神君」


「……あぁ。おはよう」


 学校指定ジャージ姿のゾフィーと、同じくジャージ姿でゾフィーに手を引かれて船を漕いでいるエレン。


「エレン、起きてからずっとこんな調子なんダ」


「み……け……」


「ほら、エレン。ちゃんと起きないとバイキング無くなっちゃうゾ?」


 そう言ってゾフィーはエレンを揺すったが、首がカクカクと揺れるばかりでエレンはむにゃむにゃと寝言を言い続けた。


「……ぇた……」


「もー……大神君、悪いけどエレンの分も朝食取ってきてくれるカイ? 朝ごはんを食べながら今日どこ回るか打ち合わせしよう? ボク、先にこの子を適当な席に座らせてくるからさ」


「わかった」


「悪いネ。ほら、エレン行くよ〜」


 そう言ってゾフィーはエレンの手を引いてバイキングとは逆方向へ歩いて行った。


(話してみればどうということは無いな)


 全てはくだらない杞憂だったと分かったヒビキは、落胆と安堵から大きなため息をつくと、バイキングのコーナーへと向かった。


◆◇◆


 男子寮(刑務所)の食堂で出てくる、量ばかりの朝食とは違う、煌びやかなホテルバイキングの朝食だろうと、ヒビキの不健康ルーティーンは変わらない。朝は液体以外、身体がさっぱり受け付けないのだ。


 ということで。自分用のオレンジジュースと、エレン用によそったモーニングプレートが乗ったお盆を持ってヒビキはウロウロとエレンを探した。


(居た)


 柔らかな朝日が差し込む窓辺のテーブルには、一人寝息を立てるエレンがポツンと座っていた。おそらくゾフィーは自分の分を取りに行ったのだろう。


 四角いテーブルには椅子が4つあった。悩んだ末、ヒビキはエレンの向かいの席に座ることにした、さもなければ、ヒビキの隣か向かいにゾフィーが座ることになってしまうからだ。さっき話してみてなんてことは無いと分かっては居たが、それは何となく気まずかった。


「ほら宇佐美、飯だぞ」


 ヒビキはお盆からオレンジジュースだけ取ると、残りをエレンに差し出した。エレンは首をだらりと垂れたまま、寝言を言っている。


「み…………タ」


「早く食わないと、飯が冷めるぞ」


 黄金の朝日がエレンの白銀の髪と、コーンスープから立ち上る湯気を照らす。ヒビキはオレンジジュースを片手に、スマホを取り出して地図を見た。


「……ぅケ……」


 イデアの工場が誘致されたことにより学術研究都市としてさらなる発展を遂げたつくば市には、十数年前のあの広々とした田舎町の面影は無い。至る所に博物館のような大変勉強になる施設が建てられており、その内の幾つかは学校からの指示で必ず見学する必要がある。要は、自由散策とは名ばかりだと言うわけだ。


「ぁミ……ケ」


 ヒビキは見学必須の博物館のピンを適当にタップする。


「つくば航空宇宙博物館で『特別展:ツングースカ隕石』……今日からだってさ。俺の記憶が正しければ、ツングースカ大爆発を引き起こした隕石って確か空中で跡形もなく爆発してしまったから隕石そのものは見つからな……」


 くだらないうんちくを中断して、ヒビキは顔を上げて、エレンの方を見た。相変わらず首をだらりと垂れたままだ。エレンの昨日のバスでの言葉がヒビキの脳裏によぎる。


(悪夢……昨日は酷かったんだろうか)


「ぃツ……た」


 あの食い意地の張っているエレンが温かい朝食を前にして微動だにしないとは大事である。


「宇佐美?」


「……タ。み」


「大丈──」


 ヒビキの目は無意識にエレンの口の動きをなぞっていた。


「……"みつけた"?」

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