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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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修学旅行:前編 4

 その翌朝。ヒビキは、クラスメイト達と共にバスに揺られていた。


 高速道路の高架から見渡せる広い街の景色が、窓の外を流れていく。


(あ、危なかった……熊谷が声をかけてくれなかったら置いていかれるところだった……)


 あろうことかこの男、学生生活における一大イベントである修学旅行の日付を1週間分勘違いしていたのだ!


 思い返せば、泊まるホテルの部屋分けが行われたり、旅程が書かれたPDFが配布されたり等、修学旅行の予兆のようなものは幾つもあった。しかし、普通であれば旅程のPDFを眺めながら来たる修学旅行に思いを馳せる毎日を過ごすところを、ヒビキはそれを全部横に置いといて『何か』の捜索に忙しくしていたので、旅程を覚え間違ってしまったのだ。


(ホテルの班分けでも熊谷にはお世話になったし……帰ったら何か奢らないとだな)


 昨夜のゾフィーとの出来事の後。いつも通り始業ギリギリまで部屋で寝ようとしていたヒビキの元に、熊谷が『ちゃんと起きてるか〜?』と訪ねてこなかったら、ヒビキのせいでバスが遅れ、ぼっちが加速する羽目にあっていただろう。熊谷には全く頭が上がらないヒビキである。


 ヒビキ達が通うこの学校には、所謂文化祭や体育祭といったイベントが存在しない。ヴァンガードの技術関係者の育成にそんなお祭りは必要ないからだ。と、いうか、分隊演習というブラック授業が過酷すぎて学生達にはお祭りをやる余力が無いのが現実だ。分隊演習の準備に加えて、文化祭・体育祭の準備が加わったら学生達は確実にパンクするだろう。


 しかし、その代わりなのか、修学旅行は1年生から5年生の間まで毎年、何と合計5回も行くことになる(4,5年生のそれはほとんどインターンであるが)。プロとの交流や企業の工場の見学などは、明確に教育的な意味がある上に、学生達の準備もさして必要ないため負担も少ない。むしろ息抜きになるほどだ。刺激と知見を与えつつ学生をリフレッシュさせることができるとなれば毎年行くことになるのも当然というもの。


 しかしヒビキにとって修学旅行はただ鬱陶しいだけのイベントだった。他の学生と常に行動を共にすることになる以上、ハッキングをやりにくいことこの上ないからだ。しかし、修学旅行の間だけピタリとハッキングが止めば、それは『私WOLFはこの学校の学生です』と言っているようなもの。何とか隙を見つけてハッキングを仕掛けなければならない。


(まぁ、いつものように音楽を聴いてるフリをするしかないな……)


 ヒビキは、となりの席で窓の外を眺めながらグミを頬張っているエレンを見つめた。すると、昨夜の出来事が鮮明に思い出される。


(なんであの流れでエレンの名前が出てくるんだ……エレンが地下の巨大球体と関係しているとでも?)


 真実のゾフィーの言うことに素直に従うなら、ヒビキは今後しばらくエレンの過去について調べることになるだろう。つまり、行政のサーバーあたりをハッキングして、エレンが学校に来る以前の情報を洗い出すのだ。どこに住んでいたのか。どこでいつ産まれたのか。両親は現在どうしているのか。『宇佐美エレン』という名前は本当の名前なのか。だが、それはエレン本人すら知らない情報だ。


(そんなこと、エレン本人の許しを得ずに調べていいのか? というか、そもそもアレの口車に乗っていいのか?)


『彼女は君のことが好きなんだよ』


 ヒビキは顔を赤らめて首を横に振った。


(クソ、思考の邪魔だ)


 そんな折、エレンは突然ため息をついて、ヒビキの方へ振り向いた。ヒビキは慌てて目を逸らす。するとエレンはそんなヒビキに、グミを一つ差し出して微笑んだ。ハニボーのミニシルバーラビットグミだ。


「もう……一個だけ、だよ」


「あ、ああ。すまない」


 どうやらグミを欲しがっていたと勘違いされたようだ。ヒビキは手のひらの上の小さなウサギを見つめた。


◆◇◆


 バスがサービスエリアで小休止を挟む頃には、エレンはグミの空袋を握ったまますぅすぅと寝息を立てていた。エレンが窓側の席だったのは幸運だった。ヒビキは、エレンを起こさずにバスを降りられたからだ。


 カレンダーの上では秋だというのに、バスの外はうんざりするほど暑かった。


(俺が爺さんになる頃には秋は無くなってるだろうな……)


 ヒビキは基本的に朝食を摂らない不健康人間だが、 流石に水くらいは飲む。が、今朝はその水すら飲む時間も無かった。しかし、水分を補給しなければ先日のようにまた熱中症になるだろう。


(自販機は……と)


 サービスエリアのやたら充実した自販機群には、バスを降りた学生達の行列が既に出来あがっており、ヒビキは人だかりが捌けるのを待つべくスマホを弄り始めた。そんなヒビキに声を掛ける者が一人。


「大神君!」


「うお!?」


 突然背中を叩かれヒビキが振り返ると、そこには微笑むゾフィーが立っていた。

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