会話記録・戦いの犠牲者
お久しぶりです。更新再開します……が、10数話更新したらまたストックが切れる予定です。筆がおそいぞ!
第一回の分隊演習が終わった翌日。あんなことがあったばかりなので、ヒビキはサクラと顔を合わせるのを気まずく思っていたのだが、放課後、サクラに呼び出しを受けていた。
(一体なんの話だ? 胃が痛いぞ……)
サクラの指示通り第一食堂で待っていると、サクラではなくゾフィーがやって来た。
「アレ、大神君、君もサクラに呼び出しを?」
「あぁ。ゾフィーもか。……と、いうことは」
「まぁ多分、分隊演習絡みの何かだろうネ」
ヒビキとゾフィーは顔を見合せてため息をついた。
隅のテーブルに二人で座って待つこと15分。ようやくサクラがやって来た。ゾフィーはサクラにぎこちなく笑いかける。
「や、やぁサクラ」
「二人ともちゃんと来たわね。早速だけど、はいコレ」
そう言ってサクラはヒビキ達の前に自らのスマホを差し出した。傷一つ付いていない綺麗なスマホだ。本人の性格が伺える。
「……スマホがどうかしたのか?」
「あああ! まさか!」
ゾフィーは大声を出して立ち上がる。
「そのまさかよ。昨日、あんた達が私に使った『なんとかビーム』のせいで私のスマホが壊れちゃったの。責任取ってなんとかして」
そう、分隊演習の最後でヒビキが放った指向性EMP砲の犠牲になったのはサクラのヴァンガードだけではない。サクラがコックピットに持ち込んでいたスマホまでもを破壊してしまったのだ。
「すいませんっした─────ッ!!」
ヒビキは立ち上がって深々と頭を下げた。ゾフィーは呆れて口をパクパクと動かす。
「そ、そんな! なんでコックピットにスマホなんて持ち込んでるのサ! ヴァンガードは兵器だ! 遊園地のアトラクションじゃないんだゾ!」
ゾフィーのもっともな意見を聞いて、ヒビキは目を逸らした。ヒビキもコックピットにスマホを持ち込んでいたからだ。
「仕方ないでしょ。テロとかサイバー攻撃とか、最近色々物騒なんだから」
現代におけるスマホは単なる携帯電話機では無く、財布や身分証明書としても使える貴重品だ。そんな貴重品を肌身離さず持っておきたいという考えは十分に理解できる。
しかも、ここ最近は学校が連続して武力攻撃にあっている他、謎のハッカーからのサイバー攻撃にもあってい(学校がサイバー攻撃を受けているという事実は、以前から学生や保護者に説明がなされている)。防犯の意識が高まるのも当然であった。
ゾフィーはサイバー攻撃の主犯を睨む。サイバー攻撃の主犯は、ダラダラと冷や汗を流しながら首が千切れんばかりに顔を逸らした。
サクラは目を閉じて腕を組む。
「でもまぁ、私が悪いのも実際そうだし、あんた達にも悪気があった訳じゃないだろうし。弁償しろとまで言うつもりはないわ、ただその代わり─────」
「ボクが直すよ」
そう言ってゾフィーはドヤ顔でウインクを飛ばして見せた。ヒビキとサクラは思わず呆気にとられる。
「……そんなことできるの?」
「ボクを誰だと思っているんだい? スマホの修理なんてパンケーキ作りより簡単サ」
そう、猫宮・S・ゾフィー博士は人工衛星とロケットをセットで作って軌道上に打ち上げる……くらいの技術力が要求される第4世代型ヴァンガードの建造を、たった一人で成し遂げられる、正真正銘、超超超一流の技術者だ。スマホの修理など造作もない。
◆◇◆
「じゃ、ぱぱっと直しちゃうから、二人は談笑でもしてるといいサ」
エコーシルエットの格納棟の隅にはゾフィーが勝手に作った作業場が設けられており、ゾフィーはそこの椅子に腰掛けるとサクラのスマホを修理し始めた。
格納棟の中で狭そうに蹲っているエコーシルエットを、サクラは黙って見あげていた。ヒビキは、その横顔を横目で静かに見つめていた。
その時、ヒビキは初めてサクラの顔に古傷のようなものがあることに気づいた。後れ毛に隠れる、左のこめかみの辺りに、うっすらと傷跡が残っている。
(この傷……何か見覚えが……)
どういう経緯でついたか分からないような、奇妙な傷跡だった。細く小さな銃痕のような傷が3つ、銃痕同士を線でつなぐと、綺麗な正三角形になるような具合で並んでいる。
「何ジロジロ見てんのよ」
ヒビキがふと我に返ると、サクラはヒビキのことを睨んでいた。ヒビキは慌てて目を逸らす。
「いや、別に……」
「何よ、言いたいことがあるならはっきり言いなさいよ」
そう言ってサクラはヒビキにずんずんと詰め寄ると、ほとんど零距離でヒビキを睨んだ。ヒビキは困って髪を掻く。
「……どうしたんだ、それ」
ヒビキは自分の左のこめかみを指さした。
「ん? あぁ、コレね」
そう言って、サクラは後れ毛を少し持ち上げてみせる。
「小さい頃怪我でもしたんじゃない? 詳しいことは知らないわ」
まるで人事のようなその口ぶりに、ヒビキは違和感を感じた。いくら分かりづらいとはいえ、自分の顔にしっかりと残っている傷跡なのだから、もう少し頓着してもいいのではないか、と。
その時、ゾフィーが二人のもとへ駆け寄ってきた。
「やっほー、お待たせ〜」
「嘘!? もう直ったの!?」
「信じられん手際だな……」
二人が雑談をしている間に、ゾフィーは、謎の超技術により一瞬でスマホを完全修復していた。
「あちこちズタズタに破壊されてたからネ。データの復元は流石に無理だった。ごめんネ」
「大丈夫よ、どうせ大半のデータはクラウドに保存してたし。ありがとう、ゾフィー」
「何、お安い御用サ。じゃあ、ハイ」
そう言って、ゾフィーはヒビキに向けてにこやかに手を差し出した。ヒビキは顔をしかめる。
「おいまさか……」
「材料費4500円、それくらい協力してもらわなきゃ困るよ〜"主犯"の大神君」
ニヤニヤと意地悪な笑みを浮かべるゾフィー。しかし、ゾフィーが今一瞬でやってのけたことは、恐らく数万円の価値があることなのだから、ヒビキもそれくらい協力しなければ筋が通らない。
「はぁ。正論だな、協力するよ」
ヒビキはため息をついて財布を取り出した。その様子を見てサクラはうんうんと満足気に頷いた。




