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鋼の月と白兎  作者: さかはる
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分隊演習 5

 昼休み、ゾフィーは第三食堂の隅っこで一人静かに和風定食Aをフォークで食べていた。そんなゾフィーに話しかける二つの影があった。


「は? 停学?」


「ごめん、つい、やっちゃった」


 そう言ってエレンは、呆然とするゾフィーの目の前で無表情のてへぺろをして見せた。ゾフィーの手からフォークが零れ落ちて、豚の生姜焼きに突き刺さる。


「じ、じゃあ明日の午後からの第一回分隊演習は!?」


「ヒビキと、君と、二人で頑張ってもらう。私は自室で謹慎」


「無茶だ! そんなのどのチームと当たってもボロ負け確定だ!」


 ゾフィーは頭を抱えた。ヒビキは『失礼な』と怒りかけたが、どうしようもないのは目に見えていた。もしエレンなら、たった一人で学校中を全部相手にしても勝てるだろうが、ヒビキは1対1の戦いすら勝てるかあやしい落ちこぼれパイロットだ。そんなヒビキに1対3をやれというのだから無茶だというしかない。


 ゾフィーは生姜焼き定食を一気に食べると、お盆を持って立ち上がった。


「こうしてる場合じゃナイ、今から君のエコーシルエットを調整する!」


◆◇◆


 エコーシルエットの格納庫へ向かう炎天下の道で、ゾフィーはエレンが停学になった経緯を聞き、だんだんと萎れていった。その様子を見て、ヒビキは困って髪を搔いた。


「……自分に責任の一端があると考えているなら大間違いだ。そういう考え方をするなら、そもそも学校からお前への連絡が滞る原因になった、異形のヴァンガードこそが原因だと考えるべきだ」


「うぅ……でも……」


 そんなゾフィーを見て、エレンはそっぽを向きながら口を開いた。


「ま、責任を感じてるなら、明日、勝ってよ」


「え?」


 ゾフィーは顔を上げた。


「私なら勝てるよ、訓練用機どころかヴァンガードすら必要ない、同級生をやっつけるだけならバール一本で十分。君も私と同じレッドカードなら、素人パイロットの大神ヒビキ君一人が適当に操縦しても勝てるようにヴァンガードを整備できる……でしょ?」


 エレンの発言は全方位に対して、(ヒビキに対しては特に)極めて失礼であったが、ヒビキはその言葉に笑みを浮かべた。


「それに、ヒビキはあのW()────おっと、これは秘密だった」


 エレンはわざとらしくそう言うと、軽やかに走り出した。


「ちょっと待って! 大神君がなんだって!? 答えろ! 答えろエレ────ンッ!」


 ゾフィーはエレンの後をバタバタと追いかけた。ヒビキは思わず笑ってしまった。


◆◇◆


 エコーシルエットは格納庫の中で静かに佇んでいた。その姿を見て、ゾフィーとヒビキは先日の一件を思い出し、赤面した。エレンはムカついて、ヒビキのスネを蹴った。


「ふん! ふん!」


「痛って! やめろ! やめろ宇佐美ッ!」


 馬鹿をやっている二人を見て、ゾフィーは大きく咳払いをした。


「分隊演習の開始時刻までもう24時間を切ってる。できることはそう多くなイ、まず、エコーシルエットの詳細なスペックを教えてほしい」


 ヒビキがヘッドホンを耳に当てると、ゾフィーは思わず身構えた。ヒビキが呆れて肩をすくめると、ゾフィーのスマホに通知音が鳴り響いた。


「……何を勘違いしているのか知らないが、俺はただ自室のパソコンを遠隔操作して、エコーシルエットの詳細データをお前宛に送信させただけだ」


「う、うるさいナ! そんなことわかってるサ!」


 ゾフィーはスマホのチャットアプリに届いたファイルを自分のノートパソコンへ転送し、パソコン上でファイルを開いた。パソコンの画面に、エコーシルエットの3D設計データが表示される。それを見て、ゾフィーは眉をひそめた。


「……随分複雑な構造だネ。そういえば、エコーシルエットはトラックに変形できるんだったネ?」


「トラックだけじゃない。一部を分離させてバイクのように使ったり、その気になれば戦車や船、飛行機にだって変形できる、もっとも、水上・空中での性能は大したことはないがな」


 エコーシルエットは、搭載されている武装の量も尋常ではなかった。接近戦用のナイフや斧、ハンマーだけでは飽き足らず、小型、大型の二種類の盾、ショットガン、アサルトライフル、超遠距離狙撃用の電磁ライフル、火炎放射器、多連装ミサイル、地雷、煙幕散布弾、対ミサイル用フレアガン、大出力指向性EMP砲、最早武装とは呼べない掘削用ドリル等、挙げていけばキリがなかった。


「光学迷彩に、電子戦用の広域アンテナ、対空レーダーにソナーまで搭載されているなんて……まるで歩く軍事基地だ……一体どうやって制御しているんダ? 単一の仮想神経モデルじゃ制御が追いつかない、これだけの数の武装を制御するには、複数の仮想神経モデルを搭載して、武装を切り替える度に仮想神経モデルを切り替えるしカ……でもそんなことしたら仮想神経モデルの切り替えタイミングでパイロットにとてつもない負荷ガ……」


「あー、それについてなんだが……」


 顎に手を当てて画面と睨めっこしているゾフィーを見て、ヒビキは明後日の方向を向きながら口を開いた。


「エコーシルエットはな、第1世代型ヴァンガードなんだ」


「……は?」

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