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鋼の月と白兎  作者: さかはる


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分隊演習 4

 朱雀は思わず呆気に取られて、正気に戻った。殴られた龍一は床に倒れて、エレンのことを睨んだ。


 それだけならまだ良かった、しかし運が悪いことに、よりにもよって、なんと生徒指導の鬼川が廊下でその光景を見ていたのだ。いや、騒ぎを聞き付けて教室の様子を見に来たのだろう。


 その意味が分からない朱雀では無い。朱雀はゆっくりと拳を下ろすと、呆然として言葉を失ってしまった。


「勘違いしないで、コイツのガキみたいな喚き声がムカついただけ」


 エレンは朱雀の方を見ずにそう言った。そしてエレンはヒビキの方をチラと見ると、鬼川の方へ歩いて行った。


◆◇◆


 当事者である龍一とエレンの他、ヒビキ、朱雀を初めとした数名が面談室に呼び出され、説明をさせられた。ヒビキは『自分の失言が元凶であり、全て自分が悪い』と言い、朱雀も『龍一に殴りかかったのは自分であり、エレンは自分を止めようとしただけなので、自分に非がある』としたが、エレンの1週間の停学は免れられなかった。


 面談室から出たエレンはヒビキの方へ向き直り、いつもの調子で口を開いた。


「ごめん、やっちゃった」


「……お前が謝ることじゃないだろ」


 ヒビキは合わせる顔がなかった。今回の件の"火種"は明らかにヒビキの失言だったからだ。おまけにヒビキは(龍一の敵意の対象だった上に、物理的に不可能だったとはいえ)龍一や朱雀を止めることも出来なかった。


 朱雀は、ヒビキとエレンに頭を下げた。


「申し訳ない、俺のせいだ。俺が頭に血を昇らせたからだ。本当に、申し訳ない……」


 エレンはそっぽを向いた。


「……何度も言わせないで、私がムカついたから私の判断で殴った。その気になれば殴らないことも、病院送りにすることもできた」


 説明のため同行していたサクラは、そんな3人を見て呆れ声を上げた。


「あんた達……ちょっとおかしいんじゃないの?」


 サクラは龍一を指さしながら叫んだ。


「どう考えたってコイツが悪いでしょ! 揚げ足取るように意味わかんないことでキレ出して、暴言を吐いて朱雀を怒らせて! 挙句の果てに、さっきからずっと被害者ヅラして!」


「黙れ!」


 龍一はそう言ってヒビキのことを睨んだ。


「……おい、何勝手に話が終わったことにしているんだ、話はまだ終わっていないぞ。気づいたらこうなっていただと? 白々しい。ふざけるなよ、僕は昨日言ったよな余計なことをするんじゃないぞと」


 そう言ってヒビキに詰めよろうとする龍一の前に、サクラが立ちはだかった。


「なんの真似だ、サクラ」


「龍一、あんた最近おかしいわよ……昔はそんなんじゃなかったでしょう」


「知ったような口を聞くな、僕はそこのナードに話があるんだ、そこをどけよ、サクラ」


 サクラは、ただ黙って悲しそうに龍一のことを睨んでいた。龍一は舌打ちをし、そのままヒビキを睨んだ。


「僕はただ、一人のパイロットとして優秀な整備士にヴァンガードを整備してもらいたいという真っ当な望みを叶えたいだけだ。そして、整備士の頭数に限りがあるなら、優秀でないものが抜けていくのは当たり前のことだ。プロチームだってそうだ。整備士に限ったことじゃないなんだってそうだ、優秀な者が入ってくれば、そうでない者が出ていく。何も揉めることなんかないのに、それを大袈裟に騒ぎ立てて……そして極めつけはお前だ、大神ヒビキ!」


 龍一はものすごい剣幕で叫んだ。


「お前が余計なことをしなければ、話はそれで終わりだったんだ! ゾフィーがうちの分隊に入る、溢れた者が出ていく、それで終わりだったんだよ! それをお前が卑怯な手で裏を掻き回し、うちの優秀な整備士であるゾフィーを横取りしたんだ!」


 さすがのヒビキも、そこまで言われて黙っている訳にはいかなかった。しかしヒビキが口を開く前に、エレンがポツリと口を開いた。


「一理あるんじゃない?」


「……宇佐美!」


 ヒビキは、唖然としてエレンのことを見つめた。エレンは欠伸混じりに話を続ける。


「椅子取りゲームで強者が弱者の椅子を取るのは、世の習わしだよ、君達だって、そうやってこの学校に入学したんだ」


 龍一の口角が上がる。


「なんだ、意外と話が分かるじゃ────」


「ただし、龍一、お前は椅子を取られる側だ」


「────は?」


 エレンは龍一に冷ややかな視線を投げかけた。


「当たり前でしょ、ゾフィーが整備を担当できるパイロットの数には限りがある。なら、レッドカードの私が優先されるのは当たり前」


 龍一は大きく目を見開き、口をパクパクとさせたが、言葉は出てこなかった。


「強者の残酷なロジックを使うには、君はあまりに弱すぎる」


 そう言うと、エレンはヒビキの袖を引っ張って、廊下の向こうへ消えて行った。

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