表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
鋼の月と白兎  作者: さかはる
2/56

レッドカード 2

 地面を揺らしながらよろよろと歩く白い巨人が、壁に備え付けてあるこれまた巨大な盾を装備する。


「本当はライフルが欲しいんだが……」


 モニター越しに訓練用のモデルガンを一瞥すると、ヒビキは格納庫の外へ踏み出した。


◆◇◆


「こらーっ! 誰の許可を得てヴァンガードを動かしているーッ! 今すぐ降りろーっ!」


 音割れしたスピーカー越しの警告。生徒指導教諭の鬼川だ。ヒビキは警告を無視し管理棟へ走る。ヴァンガードの走行を想定していないアスファルトが薄氷のように砕け、白い機体を汚す。


「しかし奴ら……こんな強引な手段に訴えてくるとは!」


 奴ら……とは言ったが、ヒビキは敵の正体を知らなかった。やんごとなき諸事情があって学校のサーバーをハッキングしていたら、たまたま同業者と出くわしてしまったのだ。そこからはもう犯罪者VS犯罪者のデスマッチである。学校が保有するデータを保護すべく、データを一時的に自分のパソコンに避難(違法ダウンロードとも言う)させていたら、なんとお相手さんは学校のレーダー監視網を攻撃してきた。プランBとして用意していた『強襲作戦』に切り替えて、学校の管理棟のサーバーコンピュータごとデータを頂いてしまおうといった魂胆だろう。


「来た!」


 ヒビキが睨む南の空。5つの黒いヴァンガードが編隊を組んでこちらに飛翔してくる。


 盾を構えるヒビキ。編隊の中央、リーダー機が黒い槍を構え、ヒビキを目掛けて突進してくる。鈍い衝突音。盾の傾斜装甲に槍が逸らされる。


「っ!」


 操縦席に頭を強打しヒビキの視界が眩む。モニターにノイズが走り、機体がよろめく。盾を構える間もなく襲い来る第二撃を胸部装甲で受け止める。吹き飛ばされた機体が管理棟に直撃し、外壁を壊す。


「くっそ!」


 別の敵機がガトリング砲を構えるのを見て慌てて盾を構える。低く唸るような、猛烈なモーターの回転音。違法調達された95mmの弾丸の雨が盾に当たって砕ける。避弾経始によって弾かれた弾丸がそこら中の壁を、路面を蹂躙し、猛烈な土煙が上がる。サイレンが鳴り響き、学校の正門が閉じていく。


 激しく揺れる視界の端で、その他の敵機がヴァンガードの格納庫を襲い、停止中のヴァンガードを破壊している。


「無駄なことを! 俺以外にパイロットなんか居ない!」


 再度槍を構えて突っ込んできたリーダー機を躱し、右の拳をリーダー機の頭部に叩き込む。鈍い音と共に、リーダー機がよろめく。が、次の瞬間、今度はヒビキの訓練用機の頭部が()()()()


「”メインカメラ損傷、サブカメラに切り替えます”」


「狙撃か!」


 考える間もなくガトリング砲の第二射がヒビキを襲う。盾を構えるのが間に合わず、外部装甲がズタズタにされ、骨格が露出する。


 ヒビキが"ヘッドホン"を構え、ダメ元で敵機のハッキングを試みるも徒労に終わる。ハッカー集団の手先の機体なのだ。当然、全システムがオフラインで動くように構成されており付け入る隙が無い。


 再びの狙撃、爆発と共に盾に大穴が空き、胸部装甲の一部が溶解する。リーダー機の掲げる槍が煙を上げながら赤熱し、ヒビキに向けて構えられる。


「マズいな……」


 緊急脱出ボタンのガラスカバーをうち砕こうと、ヒビキが手を上げたその時だった。



 カシャ、カシャカシャ。



 ヒビキを含めたその場全員がその音に振り向く。見ればそこには、スマホのカメラを構える少女が立っていた。先程ヒビキの部屋を訪れていた、あのツインテール少女である。


 ヒビキの世界から音が消える。



「写真を撮っちゃダメだ!」



 ガトリング砲を構えていた機体の拳が少女のいた地面に突き刺さり、轟音と土煙を上げる。思わず目を背けるヒビキ。



 しかし、顔を上げたヒビキが目にしたのは、信じられない光景であった。



 土煙を破り、突き刺さった拳を駆け上がる小さな影。その影はあっという間に敵機の頭上まで上り詰め、そして────


「えい!」


 どこで拾ってきたのか。錆び付いたバールを空高く掲げ、敵機の頭部装甲に叩きつけた。



◆◇◆



「えい、えいえいえいえい」


 少女がバールを叩きつける度に、ガンガンという音が鳴り響く。少女を振り落とそうと必死にもがく敵機を、まったく意に介さない少女。なんという体幹、なんというバランス感覚。彼女はおそらくロデオマシーンの上で昼寝が出来るのだろう。


「なんだアイツ……!? クソ! とにかく助けないと!」


 唖然としてその様子を見つめるリーダー機をよそに、少女の取り付いている敵機にタックルをぶちかますヒビキ。轟音と共に倒れる2体のヴァンガード。押し倒した敵機の頭部を殴り潰し、同様に肩関節を破壊して無力化する。


 そんなヒビキの機体にいつの間にか飛び乗っていた少女が、サブカメラの前にひょっこり現れる。操縦席いっぱいに映し出される少女の眠そうな顔。


「こんこん」


 少女はサブカメラをノックして見せた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ