第38-1話 アモネたちと合流したいんだが?
進捗的に今週で完結しそうな勢いです、あと少しですがよろしくお願いいたします
アモネやシャーロットを探しながら街中を走り回る。
息を切らしながらチラリと背後を振り返ってみれば、
「グォオォォォオオオオ……ッ‼」
闇をさらに濃くしたような色の空へ響く咆哮。それが巨大モンスター化したディオスから発せられるものであることは考えるまでもなくわかる。
しかし問題は三〇メートルもありそうな大きさや轟く唸り声などではなく、
ゴッ‼‼ と。引き裂かれた空気が断末魔のような悲鳴を上げたのが聞こえた。
「のわっ……!」
ぐらりと大きく地響く足元。直後、背後に見える景色に砂煙が昇り立つのが見える。
あまりの破壊力に思わず俺は唾を飲んだ。
――そう。心臓の形を模した巨大モンスターはその赤黒い皮膚から生え散らかしている人の手足を一か所に集めて引き延ばし、まるで鉄槌を下すようにそれをローヴェニカへ振り下ろしているのだ。
その度に地面を揺るがす振動と轟音。空気の断末魔は集められた手足が振り下ろされることによって発生した衝撃音だった。
「くそっ……早くアイツらと合流しなくちゃ……!」
早く合流して、なんとかディオスを止めなくては。
なんでこんなことになっちまったんだ、とやり切れない思いが胸に募る。
ディオスは自らの過ちを認め、謝罪をした。それですべてが許される訳ではないが、許してもらおうという第一歩には立っていたはずだ。
己の間違いを省み、自分の存在意義を捉えなおそうとしたディオス。
罰が当たったんだと言われればそれまでだが、それでもいまのアイツは望んで破壊行為をしている訳じゃない。それは俺が良く知っている。
ようやく改心にいたったアイツをいたぶるように、なんでこのタイミングで……!
いつの間にか固く結んでいた拳。手のひらに食い込んだ五指を解き、俺は一呼吸置いた。
ふぅ。そうだ。起きてしまったことを嘆いても仕方がない。
いま優先してやるべきは、あのモンスターを止める事。
そして――俺の本来の目的を達成することだ。
頭を切り替え、再び前を向いて走る足を速めようとすると、後ろ首や肘裏にぱらぱらと何かがあたる。木片や飛礫だ。モンスターによって破壊された住宅や商店、草木や道路などのカケラが空中を舞い踊り、感動的にも二〇〇メートル以上離れている俺のもとへ飛んできているというワケだ。
これで三度目。まだ木片や砂粒だからいいものの、たとえば看板標識のポールなんかが降ってきたら、
「ひッッ⁉」
ギィンッ‼ と俺の右前方三メートルにひしゃげた看板が勢いよく落下してきた。
嫌なことを考えるもんじゃない――あまりの恐怖に干上がった喉をつばで潤しながら、おそるおそるモンスターの方を振り返ってみると、
「ぐぉぉ……グォォ‼」
「は?」
なんとバカげた光景だろう? 重力が強まったように自然と足が止まってしまった。
モンスター化したディオスは即席の剛腕で手当たり次第集めたブツを握りしめ。
勢いよく振りかぶり、
なんの躊躇いもみせず、こちらへと放ってくるではないか。
「は、は、はぁッ⁉ ばっか野郎、あんなのに当たったらいくらなんでも待て待て待て‼」
言いながら前方に噴き上がる砂煙。石ころが水面を跳ねるように連続するそれは瞬く間に俺のもとへ迫った刹那、
いきなり目の前に持ち手の外れたリヤカーが襲来する。
《消去》がそれを虚空へ誘った。
ばくばくと跳ねる心臓を片手で抑えながら、雄叫びをあげるモンスターを遠目に見て、
思う。
やりきれない気持ちに耳を貸している場合ではない、と。
考えても仕方がないことに頭を使っている余裕はない、と。
いまの攻撃だってそうだ。俺が偶然《消去》を使えたから何とかなっただけ。
これが一般住民だったら? アモネだったら? シャーロットだったら?
一番望んでいない未来が、瞼の裏にくっきりと浮かび上がる。
「……急がなきゃだな、まじで」
そう呟いて走り出そうとする俺の目の端で。
ディオスはまた、引き延ばした巨大な腕でローヴェニカを叩こうとしている。




