表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

60/96

第30-1話 ディオス派の決起 ☆

 冒険者ギルド臨時本部りんじほんぶ

 予備施設よびしせつとはいえ、かなり安っぽさを感じる木製扉もくせいとびらをディオスは足でけた。


(ウィズレットの野郎、次会ったら絶対ェぶちのめしてやる……ぁん?)


 ぶり返していた不愉快ふゆかいに気を取られていたせいで彼は気づくのが遅くなったが、臨時ギルド内にいるディオス派の面々(めんめん)いぶかしむような視線を向けてきている。ぐるりと視線を回すと、にいる三〇人以上は皆同じような顔をしていた。


 するとそのなかの一人、小太こぶとりの冒険者が驚愕きょうがくに突き動かされたように開口かいこうした。


「お、おいディオス! 一体どういうことなんだ⁉ ギルドを爆破するなんて俺たちは聞いてなかったぞ⁉」


 ディオスはバカかお前、と口にしたくなるのを抑えた。彼にとってこの場にいる冒険者たちはごま相違そういない。デリータを徹底的てっていてきに追及できればどうなってもいい程度ていどの存在ゆえ、詳細まで話す必要性は皆無かいむなのである。


 小太りの男は沈黙ちんもくするディオスに苛立いらだったように声を荒らげた。


「俺たちが集まったのは裏切り者のデリータに処分をくだすためだ! それとギルドの破壊になんの関係がある⁉」

(うるせぇなこのデブ……)


 彼はだるそうに一番近くにあった丸椅子まるいすにどかっと腰かけ、


「必要だったからそうしただけだ。理解できねぇならくせぇ口閉じろブタが」

「なんだと⁉」

「甘っちょろいんだよ、考えが。アイツは裏切り者だぞ? モンスターの味方してんだぞ? 俺ら冒険者の目的はモンスターの殲滅せんめつ。それを邪魔じゃまするアイツを殺すために施設を一つつぶしただけ。この合理性がわっかんねーからいつまでっても低ランクなんだよ、お前は」


 もっとも、本当はスライムおんなとあわよくばデリータかアモネが爆発に巻き込まれたらもうけもの、くらいにしか彼は考えていなかったのだが。


 室内へ視線をめぐらせると、彼は爆弾設置のためにギルドに向かわせた連中れんちゅうの姿が見えないことに気がついた。


(そうか、まだ戻ってないのか。……早く帰ってこねぇかな)


 ディオスはちょっと良い気持ちになっていた。デリータはわからないが、あのスライム女――一手いっても許さず彼を打ち負かしたむべき彼女は確実に死んでいるだろう。その報告を聞けると思うと小太りの男などどうでもよくなっていた。



 その時、がたん! と木製扉がひらかれた。



「はぁ……はぁ……!」


 肩で息をする男が顔をさおにしていた。服はズタボロ、くつは左しかいておらず、ブロンドの前髪まえがみが血に染まっている。全員の意識が一挙いっきょに男へ集まった。

 ディオスはめた目で見ていたが、冒険者の一人があわてた様子で男に駆け寄り、


「お、おい! お前どうしたんだそのケガ⁉ 爆破に巻き込まれたのか⁉」

「ち、違う……突然わけのわからない奴が現れて……仲間たちが、全員……殺された」


 臨時本部に緊張が走った。ふゆ真夜中まよなかのようにしんとした空気がを支配する。


 誰も言葉を発しようとしないそのなかで――しかし、彼だけは違った。


「おい」


 不釣ふついな強勢きょうせいに、青い顔の男は目を丸めた。


「ってことはなんだ、つまりお前らはスライム女を始末しまつできてるかどうかもわからねぇってことか?」

「それは……うがぅ⁉」


 男はかべるされたように浮いた。彼のくびにはディオスのゆびんでいる。


なんのために人員じんいんいたと思ってんだ? 死体が爆散ばくさんしても早く探せるようにしてんだぞオイ? なのに肉片にくへんどころか始末の確認すら取れてねぇってのか?」


 手のなかでもがく男をにらみながらディオスは考える。確実に殺せたはずのスライム女が生きている可能性かのうせい。あの爆弾――ギルドもろとも吹き飛ばすような爆薬量ばくやくりょうで生きているとはつまり、


(デリータが救出きゅうしゅつに成功した……?)


 考えたくないが、そういう可能性もでてきているのが現状げんじょうだった。もちろん二人ともが目論見もくろみどおり死んでいることもありえるが、『デリータもスライム女も生きている可能性』の存在感はディオスの余裕よゆうをかなり圧迫あっぱくするものだった。


「ちっ、まぁいい。ちょうど良い機会きかいだ、勘違かんちがいをしているお前たちに改めて教えてやる」


 彼は男から手をはなした。足元あしもときこむ男をよそに、彼は冒険者たちへつのった。


 ――裏切り者(デリータ)への悪意をあおるように。


「いいか、デリータたちは反逆者はんぎゃくしゃだ。冒険者くせに人間を裏切って、まわしいモンスターの味方をしてるクソ野郎なんだよ」


 ――完璧な対立たいりつを生み出すように。


「ギルドのうえの連中は弱腰よわごしだ。懲罰委員会ちょうばついいんかいにかけると言っておきながら実績のある奴らを失うことを恐れている。かねだからな、どうせ適当な理由をつけて処分の決定を遅らせるに決まってる」


 ――絶対的な恐怖で感情を支配するように。


「なら誰がアイツを止められる? 俺たち以外にいるか? いるなら教えてくれよ? ……破壊が嫌だとか仕留しとそこねたとか……んなあまっちょろいことやってんじゃねぇぞ! 殺すか殺されるかだ! ――わかったな?」



 不思議ふしぎな力が作用さようしたようだった。



 あれだけディオスのおこないに不満をいだいていた者たちが、彼の言葉に心打たれていたのだ。まるでかみ宣託せんたくでも受けたように、あるいは圧倒的あっとうてきな支配者に踏み潰されるような錯覚さっかくおちいるように、彼らは精神の根っこの部分からディオスにくっしていた。


「デリータを許すな!」「アイツを殺すぞ!」「仲間も皆殺みなごろしだ!」


 口々(くちぐち)に生まれる文言もんごんに、ディオスは口端こうたんいびつにゆがめた。《支配剣しはいけん》のもう一つの力だった。


 だがなかにはき目が悪い者もいた。たとえばある男は、


「で、でもよぉディオス。いくら裏切り者だって言っても、さすがに殺すのはやりすぎじゃないか……? 俺たちがやるべきはデリータに永久国外追放えいきゅうこくがいついほうの処分がくだるよう活動することで――」


 そういう奴には容赦ようしゃをしないのがディオスだった。彼は近くの冒険者のけんうばい取り、まるでロウソクの火を吹き消すようにその男を斬りつけた。


「だから甘いって言ってんだよ、ほんとに頭が弱ぇんだな。悪魔はたましい半分でなんて済ませちゃくれねぇ。デリータは今後も勢力を拡大させてモンスターがわ加勢かせいしていくはずだ。奪うか奪われるか。俺たち人間側がどちらに立つべきなのか……言わなくてもわかんだろ?」


 臨時本部にときの声があがった。満場一致まんじょういっちでデリータを敵視てきしし、一方でディオス派の更なる発展はってん拡大かくだいいの狂騒きょうそうだった。


 愉快ゆかいで彼の心は満たされていく。皆が自分の主張に賛同する、思想に共鳴きょうめいする。


(くくく……イレギュラーなんぞどうだっていい。これだけの手駒てごまがいればアイツらを殺す機会チャンスはいくらでも作れる)


 ディオスに懲罰委員会の決定を待つつもりはない。なんならこれからすぐにでもデリータを始末しに行ってもいい――そう考えていると、ふと、周囲の様子をうかがうような仕草を見せる女冒険者たちの姿を発見する。


(……ま、どこにいっても優柔不断ゆうじゅうふだんな奴はいるからな。むしろあつかいやすいか)


 ようは自分で理解ができるよう手助てだすけをしてやればいい。みずから答えに辿たどけば、その答えはいっそう意味のある強いものへ変わると彼は予期よきして、


「まだ迷ってる奴がいるみてぇだが、よく思い出してみろ。デリータはなんて言ってた? 根本こんぽんからおかしいんだよ、『もしもモンスターが人間だったら』って。そんなことがあってたまるかって話だろ?」


 優しくさとすように、アメとムチを使いこなすように、ディオスはアシストした、






 つもりだった。


「そうとも言い切れないのが実情じつじょうではあるが、な」


 突然だった。


 支配者への忠誠ちゅうせいくようなするどい女の声がどこからともなく聞こえてきたかと思えば。

 ズガン‼ と轟音ごうおんを散らしながら、臨時本部の天井てんじょうくずれてくる。


 そらから登場したのは、白衣はくいを着た二人の女だった。一人は下着がもろに見えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ