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第26-1話 丸二日が過ぎたんだが?

丸二日まるふつかです」


 針の山のように口をとがらせたアモネが呟いた。

 ベッドに寝そべりながらうん? と返す。

 と、今度ははっきりと俺に伝えるように言ってきた。


「もう丸二日、宿やどから一歩も出てませんよデリータさん!」

「そうだな」


 ま、俺は外出そとでてるんだけどな。アモネが寝ついたあとに。

 なんて呑気のんきに構えていたのが運の尽きか。ぬくぬくしていた毛布をガバッとひっぺがされてしまった。


「そうだなじゃありませんからー! ゲンゴクさんが執行猶予しっこうゆうよくれたんですよね⁉ 五日いつかしかないんですよね⁉ なのにどーして二日も引きこもって終わっちゃうんですかーっ!」


 ガミガミと不満を並べるアモネ。おかしいな、地下ちかなのにかみなりが落ちるなんて。


 冗談はさておいて、『解決法』を知らない(というか俺が隠しているだけなんだが)彼女にしてみれば、確かにこの二日間は不毛ふもうな時間だったと思う。


「お、落ち着けよアモネ。俺だって何も考えてない訳じゃないんだ」


 だがちゃんとことは進んでいるはずだ。……というかそうでなくては困る。

 アモネは怪訝けげんな顔をしながらうーうーとうなっていたが、やがて納得するしかないと思ったのか、


「まぁ……デリータさんがそう言うならきっとそうなんでしょうけど……でもシャーロットちゃんの容体ようだいも心配ですし、今からギルドに顔出しに行きませんか?」


 不安と心配のにじむ声でアモネが提案をしてきた。


 うーむ、本音を言えば宿から出るのは気が進まない……が、とはいえシャーロットの容体が気になるのも確かだし、なんならあれから二日たったローヴェニカがどうなっているかも気になる。

 ま、『解決法』を確実なものにするためにも実地調査じっちちょうさは大切か。


 俺は布団ふとんからむくりと起きて、外出を決意した。


「それもそうだな。よし、んじゃあちょっと行ってみるか」





 ローヴェニカを照らすのは夕暮れの斜光しゃこう

 オレンジの光はこんなにもまぶしかったか? と思わず目をおおいたくなる。


 ……が、ギルドへ向かう俺たちはもっと別なことに目を覆いたく、あるいは耳をふさぎたくなっていた。


「おい見ろよ、あの二人だぞ」

「冒険者のくせにモンスターの言いなりになってるってウワサの?」

「男のほう風呂ふろの時、女の排尿おしっこ洗髪せんぱつしてるらしいぞ」


 とまぁ、あちらこちらで(静かな)罵詈雑言ばりぞうごん猛威もういを振るっているわけで。


 白い目を向けられる程度の話じゃない。耳をかたむければわかるが、あることないこと事実無根じじつむこんのエピソードをこれでもかというほどに捏造ねつぞうされているレベルだ。というか女の尿にょうで洗髪ってなんだ、ここは砂漠さばくか?


 となりを歩くアモネもいたたまれないのだろう。

 わざと聞こえないフリをするべく笑顔を作って、


「そ、そうだ! せっかくですし果物くだものでも買っていきませんか?」

「いいんじゃないか」


 俺の返事を聞くと、アモネは近くの青果店せいかてんへと駆けていく。

 ……心配がぬぐえない俺も彼女のあとを追った。


「すみません、リンゴと桃、あとバナナを一房ひとふさください」

「あいよ! ……ってその顔は……」


 歯切はぎれのよい返事だ――と思ったのもつか

 店主がアモネと俺を交互こうごに見やり、正体しょうたいを認識した次の瞬間、彼は手にした果物をよどみなくケースへ戻してしまった。そして淡白たんぱくに言い放つ。


「リンゴも桃もバナナも売り切れだ」

「え、と? 売り切れ、ですか? でもいま手に取って……」

「うるさい! ないったらないんだ! うちに非国民ひこくみんに食わせるモンなぞない!」


 しっし、と泥棒猫を威嚇いかくするように追い払われてしまった。



 ……アモネが明らかにしょんぼりしている。だが変に話題を逸らしても白々(しらじら)しいので、どこか他人事ひとごとのように呟いておこう。


「すごく嫌われちまってるな」

「やはり先日の一件が原因でしょうか……」

「仕方ない。見舞みまいの品はほかのものにしよう」


 とはいえ、店を変えたからといって、俺たちへの対応は変化しなかった。

 結局俺たちが手にした果物はリンゴとバナナだけ。相場の五倍の値段で購入してようやっとだった。




 ギルドへ向かう。国民から受ける想定以上の反感のせいか、アモネは口をつぐんでいる。


 しかし正直なところ、俺はちっともダメージを受けていなかった。

 人がモンスターへいだ敵意てきいはこれほどまでに強い――それがわかっただけで十分だ。


 道すがら、アモネがぽつりとこぼす。


「……スライムさんたちをかばっただけでこんな目にうなんて思いもしませんでした」


 傷口きずぐちを隠すような笑みだった。


「後悔してるか?」

「いいえ、それはまったくです。……ただ、ちょっと悲しいなって」


 アモネは一呼吸ひとこきゅう置いて続けた。


「モンスターは確かに人間にとって危険な相手かもしれません。油断すれば命を失う可能性だってありますし、友好的だからといって仲良くする理由にはならないことも理解できます」


 でも、と付け加えるアモネ。俺は続きを待った。


「でも、だからといって頭ごなしに敵だと決めつけて、けんを抜いて魔法をぶつけて……っていうのは……やっぱり悲しいなって思います。シャーロットちゃんのようにいい子もいるんだよって教えたいくらいです」


 ……あぁ、どうしようか。俺は彼女をきしめたいなと思ってしまっていた。

 恋愛感情でもいとおしさでもない。ただ同じ気持ちを共感できることへの安心感、とでも言うのだろうか。

 まぁこんなことをバカ正直しょうじきに伝えても空気がおかしくなるだけだろう。

 だから俺は適当に笑って明るく返した。


「アモネ、俺はアモネがアモネで良かったよ」

「えっデリータさん、それどういう意味ですか?」


 あまりに不可解ふかかいだったせいか、目を丸くしたアモネは足をめてしまう。が、俺はそのまま歩き続けた。こんな小恥こはずかしいこと説明したくもないからな。

 彼女には笑っていて欲しい。ただそれだけでいいと思う。


「まんまだよ、そのまんま。さ、早くシャーロットんとこ行こうぜ」


 そう言っているうちにギルドへ到着した――





 俺たちを待ち受けていたのはほかでもないディオスだった。


「よぉ」


 二日前、シャーロットの胸を一突ひとつきした男ははしらにもたれかかりながらニヤついていた。


 脳内にその光景がよみがえってくる。気が付けば強くこぶしにぎりしめていた。

 いっそコイツの臓器ぞうきをまるごと《消去》してやろうか――そんな気持ちをなだめるように俺は静かに口にする。


「……何の用だ」


 ディオスはふん、と鼻でわらい、普段通りの命令口調めいれいくちょうでこう言った。


「ちょっとツラせよ。テメェ一人でな」

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