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第5話 ダンジョンに潜ることになったんだが?

 無事に床下からの生還(せいかん)を果たしたベテラン冒険者たちは、男の姿を見るなり全身に緊張きんちょうの糸を張りめぐらせたようだ。ちなみに一連の事情はすでに俺から話してある。


「ブ、ブルームレイ!」

「また新人に絡んだのか……Bランクにもなって恥ずかしくないのかい? いい加減にしてくれ、冒険者の名がすたる」

「す、すまない……ちょっと酒に酔いすぎて……」


 金髪の重装備じゅうそうび男――ブルームレイにすごまれたベテランたちは、それこそモンスターにおびえるように縮こまっていた。

 威勢のよかった彼らの影などもうどこにもない。


「次同じようなことをやってみろ。僕は――ためらいなく剣を抜くぞ」


 チン、と音高くさやがなる。ベテランたちは「はひぃぃ!」ときながらギルドから出て行ってしまった。


 一体ブルームレイって何者なんだろう?

 彼が名の知れた高ランク冒険者であることは知っているが、逆に言えばそれ以外のことは何も知らない。話す機会もないし、知らなくて当然と言えば当然なんだろうけど……。


 すると、ふぅ、と一息ついたブルームレイが、俺とアモネの元へやってきた。


「ギルドの者が迷惑をかけたようですまない。僕はブルームレイ。ローヴェニカ支部でAランク冒険者をやっている。君たちは……新人さんでいいのかな?」

「はい、デリータとアモネです。仲裁ちゅうさいしていただきありがとうございました」

「お礼を言われるようなことじゃないよ。……しかし君、本当に新人かい? ずいぶん簡単に彼らを圧倒していたようにも見えたけど」

「気のせいですよ。俺は万年Gランクの落ちこぼれですから」


 正確に言えば新人ではないが、まぁGランクだし新人みたいなものだろう。


 ……ていうかこの男、今『見えた』って言ったよな? 観察してたならもっと早く止めてくれても良かったのに。


 ブルームレイはちょっとの間、疑惑ぎわく眼差まなざしを俺に向けていたが、すぐに爽やかな青年の微笑みを見せて、


「……そうか。でも僕は君たちが気に入った。きっとアモネさんも相当な実力者なんだろう?」

「い、いえ! わたしは本当に全然まったくもう!」

「あはは、可愛らしいね。――そんな君たちを見込んで少し僕のお願いを聞いてはくれないか?」

「お願い?」


 ブルームレイが一枚の依頼書を俺に渡してくる。


「ここから西に進んだ先の森の中に、突然ダンジョンが発生したんだ。しかもこのダンジョン、少し奇妙でね。中のモンスターが外に比べて狂暴化きょうぼうかしているらしい。ギルドの推奨すいしょうランクはC以上だが……ぜひ君たちにも手伝ってほしいんだけど、どうかな?」


 推奨ランクCといえば、その依頼で戦うであろうモンスターの平均ランクがC級程度ということになる。

 だからこそ、俺はコイツがアホなのかと思ってしまった。


 経験がある俺はまだ良いとして、登録を終えたばかりのアモネは正真正銘しょうしんしょうめいGランクの新米だ。

 

 つまり無理な話。普通なら有り得ない話。何のためのランク制限だっていうハ・ナ・シ!

 

 仮にそれを差し置いて考えても、まず思うのは、


「俺たちが行くよりもブルームレイさんが行った方がいいんじゃないですか?」


 そりゃそうだろう。ちょっと見込まれたGランク二人ふたり歴戦れきせんのAランクか――考えるまでもない。


 ブルームレイもその点はよく理解しているらしい。


「あはは、もっともな意見だ。だが僕は別件の調査を頼まれていてね。君たちも聞いたことはあるんじゃないかな? 幼い少女が頻繫ひんぱん失踪しっそうしているって話」


 初耳だが、もう初耳と言うのも面倒くさい。

 だってブルームレイ、もう完全に俺たちが引き受けるものだと思ってるだろうからな。態度と話し方がもう依頼を引き継いだあとの人のソレだ。


 正直なところ、アモネはかなり不安に感じていると思う。


「……アモネは初心者向けの依頼やっててもいいぞ。いきなりじゃ怖いだろ」

「えっ、デリータさんと離れるくらいならわたしついていきますよ⁉」


 いやなんでだよ。普通行きたくないだろ、いや絶対行きたくないだろ!


 まぁでも本人が行くっていうなら連れて行くべきか……? と考えていると、


「そう心配しなくても大丈夫。他の腕利うでききの冒険者たちにも頼んでいるから、何かあれば彼らがきっと助けてくれるから」


 その言葉が後押しとなったらしい。

 結局俺はアモネと一緒にダンジョンへ潜ることになった。



「多分ここだよな」


 森をずっと西に進んでいくと、巨大なほこらのような場所にたどり着いた。


「うう……初日でこんな所に来るとは思いませんでした……」


 まったく同じ感想だよ。Gランク同士でダンジョン潜るとか世界初だぞ、多分。


「でも大丈夫です! わたし頑張ります! デリータさんと一緒なら一回くらい死んでも生き返れるような気がしますし!」

「それは無理じゃないか? ……にしても、なんでこんなに人が集まってんだろうな?」


 俺はダンジョン前の広場をぐるりと見渡した。


 そこには俺やアモネよりもいくらか年少の、あるいは背の低い少年少女がたくさんいる。しかも皆同じように体に不釣ふつりあいな大きいかばんまで背負っている。大きなカバンを持ち寄って楽しむ集会が行われるのだろうか?


 するとアモネが隣で得意げに説明をしてくれた。


「あ、わたし聞いたことありますよ。ダンジョンとか探索に行くときには荷物持ち(ポーター)と呼ばれる補助要員を同行どうこうさせることが多いようです」

「そうなのか……基本的にパーティかソロだったから知らなかったな」


 確かに荷物持ちをしてくれる同行者がいれば、探索はかなり楽になる気がする。

 でも料金体系とか知らないな。法外な値段とか請求せいきゅうされないかな……俺払えないぞ。


「わたしたちもつけますか?」


 いや、怖いからやめておこう――と言いかけた俺の言葉は喉元でせきとめられた。

 だってもう、アモネが女の子の肩に手を置いて、俺に紹介しようとしてるもん。


「ジ、ジブン荷物持ちのキャリーです! お世話になります!」


 ピンクのフードを被った茶髪の女の子はぐいっと頭をさげた。年齢は一〇歳程度(ていど)か。身長一三〇センチくらいの彼女の背中を大きなカバンがどさぁ……とすべる。下手したら背負われてるほうだな、本体キャリーが。


 アモネもニコニコだし、キャリーもついてくる気しかなさそうだし、


「……ああ、お願いしようか」

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