第24-1話 パーティー復帰を打診されたんだが?
クレブとの戦闘(という名の八つ当たり)から三日が過ぎていた。
下着に白衣しか羽織らない研究者はやはりかなりの実力者だったらしい。おかげで後の二日は休養、一日は軋む肉体のリハビリが必要だったという訳で。
そして今日が四日目。
俺たちは依頼を終えてギルドに戻っているところだ。
「いやーデリータさん、さっきのモンスター大きかったですね!」
笑顔で言うことじゃないけどな、と心の中でアモネにツッコむ。
というのも敵は全長四メートルほどの大型モンスター『魔鉱武装オクトパス』。宝石や鉱石から錬成した鎧を身に着けた陸上生活型のタコだった。
もっともその鎧も《消去》できたので悪戦苦闘とまではならなかったが……。
「アモネ、さてはお前この依頼が肩慣らしだってこと忘れてるだろ。三日ぶりに動くから軽めなやつで頼むってお願いしたつもりだったんだけど」
「違うんですよデリータさん! あれはシャーロットちゃんがどうしてもやりたいって言うから仕方なく選んだんです!」
「む、アモネに売られた。デリータなぐさめて」
ぎゅっとしがみついてくる元スライム・シャーロット。
病み上がりと遜色ない状況であんなデカブツと戦闘するハメになった俺のほうが慰めて欲しいくらいだ。が、俺は拒まず艶やかな白髪を何度も撫でた。
すると今度は反対の腕がアモネの胸に吸い込まれる。
「あ、シャーロットちゃんずるいですよ。デリータさん、わたしもお願いします」
「腕は二本しかないんだぞ。せめてホールド外してから要求してくれ」
「うー……悩ましいですね。やっぱりこのままでいいです」
大きな胸にもみくちゃにされる右腕。俺もこのままでいいです。
さて、と俺はシャーロットの背中に担がれた鉱石だのなんだのを横目に見た。
魔鉱武装オクトパスの素材の数々。いかほどの値で買い取ってもらえるだろうか。
クレブからもらった報酬ももうすぐ底をつく。なるべく高値だと嬉しいのだが……それにしても、やはり冒険者は経済的な安定が見込めない職業なこと。世知辛い、世知辛い。
思いながら視線を前に戻すと同時。
俺はエンジンが切れたように足を止めてしまった。
道の先に、見慣れてはいるがなつかしさを感じる顔が二つあったからだ。
俺は浅く息を吐き、アモネたちを振りほどいた後、彼女たちの前へ歩みを進める。
「……久しぶりだな、って言っても四日ぶりくらいか」
「「……」」
俯いたまま言葉を発しない二人。
その沈黙で気が付いたのか、アモネが耳元で小さく話しかけてくる。
「デリータさん、この方たちってもしかして」
「そ。ブルームレイに頼まれたC級ダンジョンですれ違った連中で、ついでに言うなら俺が過去に所属していたパーティーのメンバーだ」
あえて二人に聞こえるように答えた。
彼女たちの肩に力が入ったように見える。わざわざ姿を見せに来るなんてどういうつもりなのだろう。ディオスの差し金か?
「で、元メンバーの俺に何の用事だ? テュア、アリアン」
「えっと、その……」
口籠るアリアン。歯切れが悪くじれったい。勝手に進めてしまおう。
「そういえばディオスの姿がないな。いつも一緒に動いているお前たちが離れて行動するなんて珍しいこともあるんだな」
思えば思うほど珍しい。なにせ奴はパーティーメンバーを毎朝宿泊先まで迎えにこさせるような男だ。事情があるにせよ、テュアやアリアンを自由に行動させているのはかなりの違和感を覚えてしま――
「デリータさん」
「うん?」
ハッキリとした口調だった。見やるとアリアンがまっすぐ俺を見つめている。
「結論から申し上げます」
覚悟が決まった顔つきだ。
俺は息を飲んで言葉を待って。
そして告げられた。
「わたくしたちのパーティーに戻ってきてはもらえないでしょうか?」




