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閑話1-5 いつか間違えそうで怖いんだが?

 コーヒーは手に入れた。


 ……手に入れたのだが。

 俺は首をひねった。


「……ウィズレットさん、どこ行ったんだ?」


 さっきまで話していた廊下ろうかに彼女の姿すがたがない。

 となれば多分たぶん部屋に戻った、のだろう。ま、それが普通か。


 たとえバロックが本気で愛していようが、ウィズレットさんにとってはただのストーカー。

 迷惑であることに違いはないし、それなりに恐怖もいだいていたと思う。

 俺の配慮不足はいりょぶそくだったな。明日あした会ったら謝っておかなくちゃ。


 カップホルダーをって、俺はバロックのそとへ向かう。


 と。


「――ごめんなさい。そのお花は受け取れないわ」


 馴染なじみのある声が耳に飛び込んできた。

 思わず足をめ、する必要もないのに息をひそめる。


 あぁ、ちゃんと向き合ってくれていたのか。

 思うところもあっただろう。嫌だと感じているところもあるだろう。

 それでもちゃんとバロックの気持ちを受けめる選択をしてくれたんだ。


 思わず俺はほおゆるませてしまう。


「――私、好きな人がいるのよ」


 ……続けて聞こえてきた文言もんごん

 なんだかこれ以上は聞かないほうがいい気がする。


 おそらくバロックの恋模様こいもようはここで終止符ピリオドたれるだろう。

 でもそれでいいと思う。大事なのは本音ほんねを伝えることだからだ。


 ウィズレットさんは……自分の気持ちを隠しがちだ。両親がくなった時も人のせいではなくそういうものだと絶望ぜつぼうふたをしていた。


 だが現在いまの彼女は――そのからやぶっている。


 もう、心配することは何もないだろう。


 俺はコーヒーが三つならんだカップホルダーを目立めだつところに置き、きびすを返した。


 にしても。


「ウィズレットさんが好きになるほどの男か……どんなやつなんだろ?」



 そろそろアモネとシャーロットの入浴も終わっている頃だろう。

 俺も部屋に戻るとするか……と廊下を進んでいると。


「デリータくん」


 背後はいごから呼ばれる。

 振り返るとウィズレットさんが立っていた。少しうつむいているせいで表情がよく見えない。


「ウィズレットさん。無事ぶじに話は終わったみたいで……っ⁉」


 言い終わるよりも前。

 俺はウィズレットさんにられ、あっというかべと彼女にはさまれてしまった。


「どこまで聞いてたの!」

「は?」


 上目遣うわめづか気味ぎみでウィズレットさんが声を荒らげる。

 顔の距離きょりは数センチ。ほおに染め上げている。

 なにか怒らせるようなことしたっけか、俺。


「だからどこまで聞いてたのよ! 私とあの人の会話を!」

「え、えっと……ウィズレットさんに好きな人がいるってところまで――むぐぅ⁉」


 まだ答えてる途中とちゅうだったが強制的にさえぎられた。

 ウィズレットさんが俺の胸倉むなぐらをこれでもかというほどめ上げる。普通にくるしいんですが!


「そのさき……その先は聞いたの……っ⁉」

「い、いや、聞いてないけど……っ」

「そ。なら良いわ」


 ぶはぁ! 解放かいほうされた。


 見てみると、ツンとそっぽを向いている。つくづく難しい人だ、この人は……。


 などと思いながらみだれたシャツを直していると、ウィズレットさんは言い訳をするように小さく言った。


「……その、デリータくん。さっきの、こ、恋人役こいびとやくのこと……謝るわ。ごめんなさい」


 それを気にしてたのか。さすがギルド職員、律儀りちぎというか真面目まじめというか。


「ん? あぁ、それは全然(かま)わないですよ。バロックのほうは大丈夫でしたか?」

「バロック? あーさっきの男の人のこと? 問題ないわよ。誠意せいいを込めて丁重ていちょうにおことわりしたから」

「名前も聞いてなかったんですね……」


 それほど興味がなかったんだろうな。バロック、ドンマイだ。


 するとそっぽを向いていたウィズレットさんが急にもじもじし始める。


「それで……デリータくんには迷惑かけちゃったし……あなたさえければ一緒に飲まない?」

「え、と?」


 予想もしていなかったおさそいに俺は答えあぐねる。

 だが彼女に俺の返答を待つつもりは一切いっさいないようで、


「はい、じゃあ決まり。ちょうどお酒たくさん用意してあったのよ。ほら入って入って」


 されるがままにうでられ背中をされ、近くにあった部屋に押し込まれそうになる。


 室内が見えた。壁にかかるギルド職員の制服と使用済しようずみバスタオル、そして……ピンクのがらがついた黒の下着ブラジャーを発見する。


 え。えっ。

 俺ここで一夜いちや明かしちゃうの?


 だって酒飲むんでしょ? 俺とウィズレットさんで。


 んで、俺は男。ウィズレットさんは女。宿やど一室いっしつで飲む。


 イコール…………?


 頭のなかよこしまな想像がめぐる。


 純白じゅんぱくのベッドに横たわるウィズレットさん。一糸いっしまとわぬ肢体したいじらいつつ、おおいかぶさった俺の耳元みみもとで『いいわよ……』とかささやかれちゃうの俺⁉


 ……ま、いいよな。

 だって今日きょうたくさんはたらいたし? 報酬ほうしゅうもまぁまぁな金額もらったし?



 ――――うん、俺の理性りせいけ!



「じゃ、じゃあお言葉に甘えて――……」


 と、部屋に入ろうとした瞬間。


「あーっ‼ デリータさんやっと見つけました! 一体どこほっつきあるいて……ってウィズレットさん⁉」

「ア、アモネ! それにシャーロットまで!」


 い、一番いちばん見つかってはいけない二人に見つかってしまった……。

 そう思ったのはウィズレットさんも同じだったようで、


「デリータくん、早くなか入って!」


 ぐいっと背中を押される――が、わずかに遅かった。


 シャーロットがばした白い触手しょくしゅのようなものがドアをひらいたまま固定してしまう。ついでに俺の足もゆかにくっつけられた。一歩いっぽも動けん。

 そのすきにアモネたちは一気いっきに距離をめてくる。


 アモネはすぐに俺の腕にしがみつき、


「ちょっとウィズレットさん⁉ どうしてデリータさんをお部屋に連れ込もうとしてるんですかっ‼」

「デリータ、わたさない。ダメ!」


 加勢するシャーロット。俺のからだに二人の女の子が密着みっちゃくする。


 ウィズレットさんにで「助けてください……」とうったえる俺……だったが、彼女は何を思ったか。


「……あのー、ウィズレットさん? 一体なにをしているので?」


 なぜか真正面ましょうめんからかれていた。

 俺の胴体どうたいに腕をまわしたまま、ウィズレットさんは声をあげる。


「あ、あなたたちはいつも一緒にデリータくんといるでしょう⁉ 今夜こんやくらい我慢しなさい!」

「そんなこと言ったらウィズレットさんのほうがデリータさんと話した回数は多いんじゃないんですかっ⁉ 少なくとも今日から一緒に冒険しているわたしやシャーロットちゃんよりは多いと思います! だからウィズレットさんこそ我慢してください!」

「いいじゃないのあなたたちは明日あすからも一緒なんだから! 私は帰ってくるのを待ってることしかできないのよ⁉」


 な、なんだかすごいケンカじみたあらそいが始まってしまったんだが……。

 ま、まぁいいか。体のあちこちが弾力だんりょくつつまれて幸せですし。


 言い争う二人をよそに、足元あしもとにしがみつくシャーロットを見やった。


「……デリータ、ボクにまかせて」


 表情こそ変わらないが、どこかふくみのある彼女の声。

 その目線めせんは……俺の膨張ぼうちょうしかけている下半身かはんしんとらえていて。


 はぁ。


 ……俺、このパーティーでやっていけるかな。


 いつか『間違まちがえ』そうでこわいんだが、本当に。

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