第21-2話 この予想は正しいと思うんだが?
空気のあちこちでバチバチと稲妻が閃き。
紫電がこびりつくように燐光を発する。
そのビリつくような空間の中で、クレブは立っていた。
あれだけの雷を被弾しておきながら、屁でもないというように不敵に笑んでいる。
「デリータ、キミはワタシが想像していたよりも頭が悪いようだな」
クレブは得意げに語る。
「先にも伝えた通りワタシのスキルは《雷電之王》。雷や電気を自在に操り、その性質までも一部ではあるが体現することができる。そのワタシに……ワタシ自身が生みだした攻撃が通るとでも?」
「いや?」
「……? ではなぜあのような攻撃を?」
「勝利条件は確か『どちらかが降参する』か――」
ちょいちょい、と俺は地面を指差した。
クレブの視界が下方にズレる。直後、彼女の顔から血の気が引いて行った。
ま、それも仕方ないか。
だってクレブの立っている場所以外、地面が円状に消えているのだから。
さっきの雷は目眩ましで、本当の目的はクレブの身動きを封じることなのだから。
「――『どちらかか5秒間の静止状態に陥った場合』……だったか?」
焦慮に駆られたようなクレブの表情。
だから彼女は稲妻のごとき疾風になろうとする。地面を蹴ろうとする。
でも、できない。蹴らない。
「やっぱり速度は歩数稼がなきゃ出せない……って感じか?」
「!」
ほとんどカンみたいなものだったが、図星みたいだな。
エレルーナが声を張り上げた。
「そこまでです。勝者はデリータさん。先生は敗北です」
「丁寧に教えてくれんでもわかってる! ……はぁ。デリータ、キミはいつから気付いていた?」
答えようとすると両腕に柔らかい感触が!
「さすがデリータさんです! クレブさんにも勝利してしまうなんて!」
「デリータ、かっこよかった。すき」
「ふたりともありがとな」
研究所の側ではぴょんぴょん跳ねるスライムたちの姿も見える。……あぁ、勝てて良かった。
俺は消去した土を元に戻す。こちらに歩いてくるクレブに答えた。
「ほとんど勘だけどな。まず最初の一撃で土が浮きすぎだった。さすがに風圧だけでああはならないだろうから歩数踏んでるんだろうなってのが一つ。次に間合いの詰まり方。動き出して数歩目までは普通だったのに、瞬きしたら目の前に来てたってのが変。どう考えてもスピードと距離の辻褄が合わない」
勝利の余韻に浸りながらアモネとシャーロットの頬すりすり攻撃(?)に耐える。俺の腕がおっぱいともちもちすべすべ肌で大変よろしい。
「最後は《雷電之王》の説明。一部体現ってことは何かしら制約があるのかもって思った。だから……気づいたのはさっきだな」
「本当にほとんど勘じゃないか……」
だからそう言っているだろう。
エレルーナががっくりと肩を落とすクレブをよしよししていた。
「だが概ね正解だ。ワタシの動く速度は『一定距離を何歩で進むか』によって変化する。例えば1メートルを1歩で進めば10の出力、5歩で進めば70の出力……といった具合にな。だから最初の数歩は遅く見え、その後は一気に加速しているように見えるんだ。……それにしても戦闘中にもかかわらず、よく見えているのだな。デリータ、キミはすごいよ、脱帽だ」
「クレブさん当たり前です! デリータさんですよ⁉」
「ですよ」
なーんでお前らが誇らしげに俺の自慢をしてるんだ。悪い気はしないが。
するとクレブが俺たちを交互に見て、
「両手に花か……羨ましいな、ワタシは片手に助手だ」
「先生、私はいつ助手を辞めてもいいんですよ」
「ジョークに決まっているだろうエレルーナワタシはキミを愛している」
「真顔で言う台詞ではないでしょうね、絶対に」
羨ましがる必要は一切なさそうだ。若干緩んだクレブの顔を見て思う。
「仕方あるまい。約束は約束だ。経過観察が無事に終了すればスライムたちは自由にしよう。それからデリータ」
「……ああ、二人で話そう」
◇
アモネとシャーロットには研究所の中で待ってもらうようお願いした。
スライムたちもエレルーナに連れられて室内に入っていく。
「して、デリータ。キミが聞きたいこととはなんだ?」
オレンジに染まる空。斜陽が木々のシルエットを際立たせる。
俺はクレブと二人きりになったことを確認して、切り出した。
「クレブ、あんたはここの研究所の責任者なんだよな?」
「住人でもある」
「率直に聞く。廻天計画研究所の目的はなんだ?」
クレブは表情一つ変えずに返す。
「その質問になら数時間前に答えただろう。詳細は話せない」
「当ててやる。ここは、廻天計画研究所は――」
彼女は目を細める。
腕を組みなおし、無機質でいて棘々しい慧眼をこちらへ向けてきた。
俺は一呼吸置いて。
告げる。
「――モンスターを人間に戻すためにあるんだろ」




