第21-1話 vs.《雷電之王》なんだが?
研究所前で、俺とクレブは対峙する。
「ワタシが勝ったら助手は一人だって譲らない。逆にキミが勝てば彼らの自由を約束する。これでいいな?」
「こっちの条件をのんだことも忘れるなよ。……で、勝ち負けはどうやって決めるんだ? どっちかが死ぬまで、なんて嫌だぞ俺は」
クレブは少し考える仕草を見せ、離れて待つエレルーナへ呼びかけた。
「エレルーナ、規則の制定はキミに任せよう」
「考えるのが面倒くさいからといって私に丸投げしないでください。……仕方ないですね」
さすが助手。
上司の無茶振りにもちゃんと応えるあたり、エレルーナの真面目ぶりがよくわかる。
彼女が俺とクレブのちょうど中間あたりに立った。
「勝敗はどちらかが降参するか、5秒間の静止状態に陥った場合に決する、としましょうか。静止状態は広義に解釈します。致命傷や重傷の恐れがある攻撃は避けてください。どのみち治療するのは私になるので」
「良いな、デリータ」
「へいへい、わかりましたよ」
クレブがゆっくりと腰を落とした。
あわせて俺も構える。
「ではイロートデスとデリータの決闘――はじめ!」
開戦を示す助手の声が森に響いた。
同時、クレブが地面を蹴る。
まるで稲妻のようだ。踏みしめる衝撃で土が次々と浮き、紫電をバチバチと唸らせながらこっちへ突っ込んでくる。
一度瞬きをしただけなのに――クレブはもう俺の目の前にいた。速すぎるだろ。
「ワタシの勝ちだな」
彼女の腕から雷が発生した。それは青い火花を散らしながら縦長に伸びていき、やがて棒状へと形を変える。
クレブはそれを迷うことなく薙ぎ払った。
ほとばしる雷電。おびただしく放電するその棒が俺の首へ叩きつけられる、寸前。
左手で雷を受け止める。同時に《消去》を敢行。
ばちばちと瞬いていた雷電はその一瞬であとかたもなく消失した。
「そう来ると思っていた」
ニヤリと上がるクレブの口角。
まさかどこかに雷を仕掛けているのか? と俺は周囲を確認。
だが……クレブの移動で作られた残光が夕暮れに反射して尾を引いているだけ。
――この刹那の思考こそがクレブの狙い。
そう気づいたのは、彼女が前方宙返りを終えようとした時。
「な……!」
棒を叩きつける勢いを使い、空中で回転した彼女は。
ぱんつから伸びる右足をまっすぐに伸ばし、それを俺に向かって蹴り下ろしたのだ。
紫電が瞬き、青い火花を散らすその右足が――右足の踵が、
俺の脳天に落下してくる。
遠心力も相まった渾身のかかと落としが炸裂した。
《ダメージ吸収》。
避けられる猶予はない。受ける。頭を守る意味も込めて、俺は頭上で腕を交差させる。
ギリギリと力を込めてくるクレブ。交差させた両腕を瓦解させんと踵が迫る。
「クレブ、あんた一体何者なんだ? 俺が会ってきた人間でダントツに強いぞ」
「当たり前だ。ドラゴンを使役するワタシが弱いはずがないだろう」
ま、それはそうかもしれない。が、
ふざけてんなー。内心俺は思う。
だって《ダメージ吸収》を使ってんだぞ? 物理や魔法、スキルを問わず、攻撃の威力をすべて吸収するスキルなんだぞ?
なのにクレブの力は強まりこそしないが、一向に弱まる気配も見せない。
どういうことかと言えば、《ダメージ吸収》の吸収処理速度を完全に上回っているんだ、この女の攻撃は。やっぱふざけてる。
「さぁさぁどうしたデリータ! キミの力はこんなものか⁉」
ふざけてる……けど。
けど、楽しい!
「バカ言え、これからだっての! 《発散》!」
吸収したクレブの力を両腕に送り、勢いよく押し上げた。
稲妻の踵は当然のごとく弾き返される。クレブは宙を舞ってから着地した。
「やはり運動はいいな。一番ワタシらしくあれる」
クレブも楽しんでいるようだ。
でも笑顔で雷撃を放出するのはどうかと思う。
地面を削る青い稲妻。無数に枝分かれした雷が地を這ってこちらへ襲いかかる。
今度はこっちの番だな。カンだが勝算はある……と思う。
ダッシュする。雷撃が俺を追従してくる。
時々槍のように飛んでくる雷は消去で対応。それ以外は完全回避か《吸収》を徹底する。
「逃げてるだけじゃワタシは倒せないぞデリータ。それにワタシは《雷電之王》を持つゆえ、この雷が尽きることはない」
どうやら言葉に偽りはないらしい。
クレブは扱う雷撃の数を徐々にではあるが確実な速度で増やしているらしい。
それを証明するように、少しずつ回避が難しくなってきている。
だが何も手をこまねていて逃げている訳じゃない。
……準備は整った。
「助手は渡さんぞデリータ!」
雷の槍が音速に匹敵するスピードで襲来した。消去でさらりと消し飛ばす。
クレブが次の雷撃を用意するその一瞬の間を縫って――《発散》だ。
「ほれ、お返しだ」
《ダメージ吸収》で溜めに溜めた雷撃のエネルギー。
それを、俺はクレブを囲む360度の至るところで《発散》させた。
ゆえに。
仕掛けたこの瞬間、無数の雷撃が全方位よりクレブへ襲いかかる。
炸裂する轟音は地を粉砕する。
光の柱のような雷撃がオレンジに反射し煌めく。
《発散》による雷がクレブを直撃した。




