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第10話 嫌な予感がするんだが?

 女の子はウィズレットさんに任せておいた。


 俺とアモネは聞いた住所へ向かい、ドアを蹴破けやぶる勢いで開け放つ。

 ……なにか最悪なことが起きている。室内に入った瞬間そう理解した。


 千切ちぎられたピンク色のフード。床に散らばる大量の金貨。しくも六千万ゲルくらいはありそうだ。


「デリータくん、これ!」


 アモネが俺を呼び、視線を床へ誘導ゆうどうしてくる。

 カーペットの一部に不思議な記号が刻まれていた。ちょうどとがった石の先でえぐったような筆跡ひっせきだった。


「この記号……」


 そして俺もアモネも知っていた。それは荷物持ち(ポーター)がダンジョンで使用する暗号だということを。


 確かあの時、キャリーは……

 必死になって会話と説明を思い出す。その結果、解読した暗号は、


「『東 三キロ 〇△×□』……他は読めそうにないな」


 だが方角と距離さえわかれば、少なくとも行き先の検討はつく。

 事態は差し迫っている。すぐに向かわないと。


「俺はすぐにキャリーの所に行く。アモネはどうする?」

「もちろん行くに決まってます!」


 胸の前でぐーを作るアモネ。気合い十分なのは結構なことだが……。


「……忘れてそうだから言うけど、いま剣持ってないぞ?」


 アモネはゆー……っくりと視線をさやへ落とす。そこで数秒固まり、やがて笑顔になって、


「……はい! ここは気合いとスキルで乗り切ろうと思いますっ!」


 自信の力ってすごい。でも心強いな。


「わかった。俺も最大限守れるようにする。急ごう」



「前がほとんど見えないな……」


 ローヴェニカを出発して二〇分くらいだろうか。


 ずっと東へ進んできた俺たちの前には、無限にも思えるかすみが広がっていた。


 五メートル先も危うい環境。ただの平原へいげんが奥深い迷宮にさえ感じてくる。


 俺の服のすそを掴みながら歩くアモネがつぶやいた。


「東に三キロならこの辺りになるかと思いますけど……見事に何もありませんね」


 本当にそうだ。何もない。


 かすみで視界が不安定だから何もないように感じる、という話ではない。歩いても歩いてもほとんど景色が変わらないのだ。辛うじて変わるのは転がる小石と雑草のサイズ感くらいである。


 ……なんだか数分前の考えを疑いたくなってくるな。


 本当に『東に三キロ』で合っていたのか。キャリーがあの暗号で伝えたかったことは居場所なのか――思わず思考が巡り始めた時。


 ふいに、視界が明るくなっていくような感じがした。


「ちょっと霞がマシになってきたか?」

「そうみたいですね。この辺りだけ気象条件が変わっていたりするのでしょうか?」


 この周辺だけがピンポイントで? ありえるか?


 後ろをそれとなく見てみる。しかしそちらは相変あいかわらず不明瞭。どうやら本当にアモネの言った通りになっているみたいだな――そう返そうと思った俺は口をつぐんだ。


 …………? 何やってるんだあの人?


 三〇メートルほど前方。何もない空間をぼーっと眺める人影ひとかげが見えたのだ。

 その人影はしかし、俺たちに気がつくこともなく、更に奥の霞へと消えて行ってしまった。


 人影が立っていた付近で立ち止ってみると、


「ここ、何か変だな」


 アモネが何かってなんですか? と言いたそうな顔をしている。

 だが、何かとしかいいようがない。


 一帯いったいつつかすみが、見えない壁に区切られているような感じだ。それを示すかのように、すぐ目の前の白い気体がちょうど半々で違う色合いを見せている。


 ま、ものは試しだ。やってみよう。


「消去」

「うわぁっ⁉」


 アモネが驚愕きょうがくの声を上げた。思いのほか変な声が出てしまったことが恥ずかしいらしく、俺の背中で身を潜めている。いや隠れられてはいないのだが。


 だが重要なのは、いきなり現れた廃れた屋敷のほうだろう。

 赤い屋根と白い壁。外観こそ立派な二階建てではあるが、がれた塗料とりょうと薄暗さも相まって、怪しやかたにしか見えない俺である。


「どうやら巧妙に隠されていたみたいだな。……にしても」

「なんだかイヤな想像をしてしまいますね……」


 アモネも同じことを考えていたようだ。


「ああ。果たしてこんな場所を選んでこんなに上手に姿()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

「……、」


 言い換えれば、モンスターに居場所を隠すような《スキル》が使えるのか? という決定的な疑問だ。


 だが。


「今は考えても仕方ないな。キャリーが残した記号通りならアイツはここにいるはずだ」

「はい」


 初めてアモネに緊張が現れた。引き結ばれた唇がへの字になっている。

 なんだか妙に真剣なその顔が面白くなってしまった。


 俺は微笑びしょうしてアモネの頭に優しく手を置く。


「そう肩肘かたひじ張らなくても大丈夫だ、アモネ。何かあったら俺が前に立つから」

「……はい!」


 キャリー救出、開始だ。

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