第9-1話 そろそろ怒られそうな予感がするんだが?
ギルドには騒々しい空気が漂っていた。
「荷物持ちにあんな上位モンスターを倒せる訳がないだろう⁉」
強面のスキンヘッドの男がキャリーと言い争いをしている。
俺とアモネは顔を見合わせ、キャリーの元へと足を進めた。
「あ、ご主人!」
「どうしたんだ?」
「ジブンが素材の買い取りをお願いしたら拒否されてしまいまして……」
買い取り拒否なんて初耳だぞ? と俺はスキンヘッドの男へ視線をやる。
ドラゴン頭のどこかしらの部位を手にした男は、キャリーに疑惑の目を向けている。俺はさっきの男の怒鳴り声を思い出した。
『――荷物持ちがあんな上位モンスターを倒せる訳がない』
……悲しいかな、どこの世界でもそういう人間は一定数いるものだ。
俺はため息を一度つき、はっきりと宣言する。
「あぁ、そのモンスターを倒したのは俺たちだ。何か問題あるか?」
「お前が?」
いっそう疑惑の色が濃くなった気がする。
ま、Gランクだし当然か。で、あのおっさんは誰なんだろう? 新しいタイプの受付嬢とかだったらちょっと面白いけど。
すると側にいたウィズレットさんが教えてくれた。
「デリータくん、こちらローヴェニカ支部ギルドマスターのゲンゴクさん。マスター、こちら例の冒険者デリータです」
まさかのギルドマスターだった。初見だ、俺。
で、俺の名前を聞いたゲンゴクはというと、どこか含みのある笑みを浮かべて、
「ほう、そうか。お前があの……。いいだろう。デリータ、これをどこで手に入れた?」
「西の森のダンジョン、最深部。そこの守護モンスターを倒しただけだ」
「そのモンスターの特徴は?」
「ドラゴンの頭から太い脚が六本生えた変なヤツだったな。火も氷も吹くし、穴あけた地面から攻撃してくることもあったな。結構気持ち悪いやつだったぜ」
質問攻めにつまらなく答える。
するとゲンゴクはふっ、と軽く笑った。
「……どうやらお前が倒したというのは本当のようだな……認めよう。S級モンスター『ドラニエール』の延髄はうちで買い取ろう」
無駄に大きな声がギルド全体に響いた――その瞬間。
どよめきのような、唸るような喧騒がギルド内に生まれた。あちこちから「まじかよ……!」「これはスゲーぞ!」「一体いくらになるんだろうな⁉」と期待の声が聞こえてくる。
……が、残念ながらその辺の事情にはあまり詳しくない俺。冒険者たちが何に驚いているのかもサッパリだ。
「な、何をそんなに驚いてるんだ? ただのモンスターのどっかの部位だろ?」
ウィズレットさんが高揚を抑えるような声で言う。
「皆が驚くのも無理はないわ。S級のドラニエールは見た目通りドラゴンの遺伝子を持つモンスター。その部位を持って帰って来たのだから……冒険者ならその価値はわかるわよね?」
わからん。
「ドラゴンの素材は製薬に活用されているんですよ。なんでも不思議な竜の力で、あらゆる病やケガに劇的な回復をもたらすんだとか!」
アモネが捕捉説明をしてくれた。そんなに凄い素材だったのか。
やがてギルドカウンターの奥から、大きな袋を抱えたゲンゴクがどかどかと出てきて、これまた大きな声で発表をした。
「査定金額は六千万ゲルだ!」
それだけで最大のどよめき。
しかしゲンゴクは更に続けて、
「同時に此度の類稀なる功績を讃えて――冒険者アモネをGランクからEランクへ昇格させる! なんとアモネは今日冒険者になったばかりの新米だ! みんな拍手で讃えよう」
今日登録したばかりの新人の早速の活躍に、査定金額のどよめきを上回る賞賛がギルドじゅうに響き渡った。拍手、黄色い声援。アモネはあたふたと足をじたばたさせている。
「えぇっ⁉ わわわたしですかっ⁉」
「よかったじゃないか」
「で、でもわたしよりもデリータさんの方がっ……!」
「アモネがいなければダンジョンの攻略はできなかったよ。だからこれはアモネの功績だ」
アモネは照れくさそうに、方々へ頭を下げている。カーテンコールみたいだ。
ちなみに俺はGランク継続だ。こちとら万年Gランクだぞ。今更ランクを上げられてたまるか!
……と内なる刃をギラギラさせている俺を、ウィズレットさんが呆れたような目つきで見てくる。さすがにそろそろ怒られそうな……予感?