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第1話 追放されたんだが?

※追記

本日10/1(日)(公開作業が間に合わなかった場合は明日)、完結いたします

「おいデリータ、お前もうパーティー出てけ」


 モンスター討伐依頼を終えてギルドに戻ると、名実ともに首が吹きとぶ衝撃を受けた。

 あくまで冷静に聞き返す。


「……唐突とうとつに何を言い出すんだよディオス」

「二度は言わねぇぞ。お前はもう俺のパーティーにはいらねぇ」


 は……? なんで俺が? と困惑こんわくの目をディオスに向ける。


 だがディオスの顔には微笑ほほえみ一つない。それでもまだ信じられない俺は軽口かるくちを叩くノリで、


「おいおい冗談キツイだろ。二ヶ月も一緒にやってきて」

「このが冗談言ってるように見えるか? ええ?」


 ……まぁ、見えないな。人殺しそうな目してるし。


 ショックだった。二か月前にディオスが俺を――それも底辺冒険者と呼ばれるGランクの俺をパーティに誘ってくれた時、あの時は心の底から嬉しかった。


 わかりやすいランク制度がある中で、ディオスは『重要なのはランクじゃねぇ。活躍かつやくできる力があるかどうかだ』と言ってくれたからだ。


 俺はディオスに期待されていると信じていた。だから俺なりに考えて行動してきた。


 なのになんで――。


「理由を知りたいって目、してんな。逆に聞くがお前の役目はなんだ?」

盾役シールダーだよ。敵の攻撃を吸収してパーティーへのダメージを軽減する」


 それが俺のスキル《ダメージ吸収》の役割。

 確認されなくたってちゃんとわかってる。


「そ、ダメージ吸収。それがこのパーティでお前に与えられた絶対の役割。……なのに最近のお前はなんだぁ?」


 ドガッ……! と背中ににぶい痛みを感じる。ディオスが胸倉むなぐらを思いきりめあげてきた。


「盾どころか吸収すらもできてねぇ。まともにまえ立ったと思ったら当たり前のように後衛こうえいに攻撃が飛んでくる。なんのつもりだお前」

「だからそれについては何回も説明しただろ! 俺はパーティの未来のことを考えて――」

「俺らは遊びでモンスターと戦ってんじゃねぇんだよ。いのちけてやってんだ。その戦場にお荷物にもつかかえていく余裕よゆうなんかねぇんだよ」


 ……ダメだ。今のディオスに何を言っても聞く耳は持ってくれないだろう。


 事実だけを見れば、確かに俺はお荷物かもしれない。実際、盾役としてすべての攻撃を受け止めることはせず、わざとピンチを作るように動いたりしたことはあったからだ。


 だがこれには理由がある。ギルド管轄の戦闘訓練用ダンジョンを攻略していた時のことだ。負傷したディオスが後方で回復魔法を浴びている時、昨晩足を運んだ娼館の話をはじめたのだ。『回復中なんだから別に話してたっていいだろうが』とか何とか言い訳をしていたが、俺は戦いをなめているんだな、としか思えなかった。実際の戦場でそんな行動をとるのか? 冒険者なら誰もがNoと口をそろえるだろう。


 だから次の似たタイミングでわざと後ろに攻撃を逸らした。本番はこういうことだってあるかもしれないんだぞ、だからいつでも気は抜かない方が良い。そういう警告の意味を込めたのだ。


 ディオスたちにもそう気づいてほしかった。だからあえてすべての攻撃を防がなかった――という背景があるのだが、ディオスは覚えていないのだろうか。背景についても何度も説明したというのに……。


「ディオス、リーダーのお前なら俺の考えを支持してくれてると思ってたんだが……そうじゃないのか?」

「盾役の仕事を放棄する選択を支持しろだって? 寝言は寝てから言え。いやもう何も喋んな」


 腹立たしさよりも悔しさが勝つ。

 ディオス、お前は俺に期待していると言ってくれただろう。

 このパーティをAランクにするために、他の冒険者連中を圧倒しながら高め合っていこうと酒を交わしただろう。


 なのに、ディオス。お前は、俺の期待には応えてくれないのか――。

 

 目が言っている。俺が邪魔だと。早く消え失せてくれと。

 これ以上食い下がっても効果は期待できない。ならばせめて、他のメンバーから賛同を得られれば。ディオスから視線を外す。


「……二人も同じ考えなのか?」


 ディオスの後ろに立つ女二人ふたりへ問いかけた。彼女たちなら俺の考えを理解してくれているはず――


「そうね。下馬評うわさ通りの活躍を期待してたけど、残念ながらあなたの動きはそれをはるかに下回るレベル。ディオスのパーティーには相応ふさわしくないわね」


 言い切ったのは魔法使いのテュア。


「え、ええ……大変(もう)し上げにくいことではありますが、わたくしの回復魔法中に攻撃が飛んでくることも再三さいさんでしたし……これではパーティーの意味がなくなります……」


 目をらしながらつぶやくのはヒーラーのアリアン。


 なにか、こう、あきらめにも似た感情が、強力な毒のように全身をじわじわと汚染していく。


「そういうことだデリータ。お前は今日限りで俺のパーティーをクビだ」

「……俺がいなくなっても大丈夫か? 困らないか?」

「お前耳ついてねーのか? 必要ないって言ってんだよ、むしろジャマだ」


 もう一度壁に叩きつけられる。


 ここでわかってもらえないなら、聞く耳を持ってもらえないなら、もう無理だろうというのは直感的にわかっていた。


 俺は一縷いちるのぞみをかけて、二か月前のディオスを、俺に期待をしてくれていたディオスを見すえるように、最後に聞いた。


盾役シールダーはどうするんだよ。ディオスだってパーティから急に欠員が出たら困るだろ?」

「なに、心配には及ばない――おい、ちょっと」


 ディオスが体の大きな男を呼び寄せた。誰だ?


「俺らCランクパーティともなれば加入希望者かにゅうきぼうしゃくらいいててるほどいんだよ。コイツはお前の代わりに入った防御特攻ぼうぎょとっこう型の人材。すずめの涙ほどもダメージ吸収できないお前の完全上位互換かんぜんじょういごかんだ。わかったら俺の前から消え失せろ」


 なにかにヒビが入った気がした。


 ――そうか。俺は勘違かんちがいをしていたんだ。


 ディオスは俺だからパーティに誘ってくれたんじゃなかったんだ。俺の持っている盾役としての《スキル》()()に期待をしていたんだ。


 だから俺の期待なんか関係がない。パーティのことを考えて動くことなど、むしろ迷惑だと思われている可能性さえある。でなければこんなにあっさりと代役を立ててくるはずがない。


 少しずつ、少しずつ。心を覆いつくしていく闇がある。


 仲間だと思っていた人間たちは、俺を必要だと思っていなかった。どれだけパーティを大事にしていても、メンバーのことを思っても、Aランクになるための戦略を実施したとしても……俺がディオスたちに大事にされることはない。

 今日までずっとそうだったんだ。そして、これからもおそらく変わらない。


 スキルが役に立たないとわかったから……こうしてお払い箱ってわけか。


 もう、言葉を返すつもりはなかった。

 最後だ。頑張って笑おう。

 

「……そうか。少しの間だけどディオスたちと一緒に冒険ぼうけんできて楽しかったよ。ありがとな」

「こっちは迷惑めいわくかけられっぱなしだったけどな。さっさとその辺で野垂のたにしちまえよ雑魚ざこ


 微笑みは崩さない。


 ディオスたちがどこかへ消えていく。残された俺はひとりエントランスに立ち尽くす。


 誰も俺に話しかけてはこない。腫れ物に触るように俺の周りだけ空間ができている。


 痛かった。視線も同情も憐みも、すべてが槍のように心に突き刺さる。


 見放されたことが恥ずかしいんじゃない。誰にも大事にされない自分が浮き彫りになっていることが痛いんだ。


 考える。同じ轍を踏まないようにするためには、この痛みをもう感じないためには、どうすればいいのだろう、と。


 ギルドの入り口を振り返る。ディオスたちの笑い声を締めだすようにドアがしまった。


 答えはすぐに浮かんできた。


 簡単なことだった。


「ああ、そうか」


 もう二度と開かないようにさえ見えるギルドの扉を眺め、俺は心に誓いを立てる。


 俺は、俺を大事にしてくれる人を大事にする。

 スキルなんて見てくれのものじゃなく、俺自身を見てくれる人を守り抜く盾になろう。


 痛々しい視線の雨も、もう気にならなかった。

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