ハッピーハロウィン! 怖いものから守ってあげる ーOGTNstory
「お菓子くれないといたずらしちゃうぞ〜」
ご飯をほうばりながら、言われてもね。オーくん。
「はい、どうぞ」
そのアメはさっきお店の人が配っていたやつですよね。ゴマくん。まあでも、恋人のノリに一応、付き合うんだね。
「なに? そのテンションが低いやりとり」
ぼくは思わず、つっこんでしまった。オーとゴマはパートナーどうし。ともに、ぼくとターの仲を知る親友である。今日は仕事終わりに4人で、馴染みの店に中華を食べにきた。そろそろハロウィンだね、という話題だったのだけど。
「ハロウィンってこんなんでしょ?」
オーは食べる手はとめず、理由になっていない理由を話す。
「ハロウィンってさ。日本でいう、お盆みたいなもんなんだろ。ジャック・オー・ランタンで祖先の霊をむかえるんだから」
ターが話すので、ぼくも相槌を打つ。
「まあ、似てるっていうよね。日本では仮装イベントになりつつあるけど」
「会社の女の子に聞いたんだけど。ハロウィンって霊たちもいたずらしてくるらしいよ? 」
ゴマが子供のようにわくわくしたようすで話し始めた。
「霊がいたずら? そんなことあるか? ゴマ、それ騙されてるんじゃない?」
オーはあくまで冷静だ。
「んー、そうなのかなあ。そもそも、ぼく、幽霊みたことないからなあ。いたずらされても気づかなそう」
「ゴマなら、幽霊と友達になっててもぼく、驚かないけど」
ぼくはそう思うよ。人見知りといいつつ、誰とでも話してしまうゴマなら幽霊でさえ攻略できそう。
「ネオー。さすがにぼくでもそれはないよ。ネオは? 幽霊みたことある?」
「ぼくもない。でもさ。つい最近、スタッフの人がみたって言ってた。仕事で泊まりの出張にいったんだけど。泊まったホテルで、誰もいないのに電気がついたり消えたりして、バスルームに人影が……」
「わーーー! もうそれ以上やめて」
ターが急に大きな声を出したので、ぼくは手に持っていたスプーンを落としてしまった。
「ターの声にびっくりしたよ。心臓とまるかと思った」
ぼくは抗議したつもりだが、ターは手で耳をふさいでこちらをにらんでいる。
「あははは。ターはお化けもジェットコースターも、とにかく怖いものが苦手だもんな」
そう話したオーをターはまた、にらんだ。
「苦手なもんは、しょうがないだろ。もうこの話は終わり」
ターが不機嫌にご飯を口にほうばるのをみて、ぼくたちも会話の続きをあきらめた。
食事が終わり、会計をすませると、オーとゴマは買い物に行くという。ぼくたちは帰るよ、と断って二人と別れた。いつものようにぼくの車の助手席に、ターが座る。運転が好きなぼくがターを送るのは日課のようなものだ。
ターのスマホからスピーカーにつないで音楽をかけるのもいつものこと。だけど、今日は妙に、ポップな曲が多い。
「ター、こんな曲好きだっけ? ぼくはどんな曲をかけてもいいけど、いつもと違いすぎない?」
「いや……なんとなく」
ちらっとターの顔を見る。こんな曲をすすめるような新しい友達でもできたのか。
「……もう夜中だし、さっき怖い話してたら、なんか出てきそうで。だから明るい曲を。まずい?」
小声で説明始めたかと思えば、最後は開き直ったような言い方で、思わず笑ってしまった。
「好きにしていいよ。でも、本当に幽霊が怖いの? 大人になってからも? 見たことないんでしょ? 」
ターが怖いものが嫌いなのは知っているけど、それゆえこの話題についてあまり話したことがない。
「見たことはない。でも怖いものは怖いんだよ!」
「見えなければ怖くないでしょ? ぼくも子供のころは怖かったけど、今はぜんぜん怖くないなー」
事実、ぼくは何か現象が起きたらそれは幽霊とは別に原因があると考える方。幽霊の存在は否定しないけど、とくに怖くはない。むしろ会ってみたいくらい。
「……ネオ、明日って仕事、朝早い?」
「え? いや、そうでもない。ターは?」
「俺も。なあ、今日、ネオの部屋、泊まってもいい? 俺のうちに来るでもいいけど。明日はハロウィンだろ? さっきの話聞いたら、本当に怖くなってきた。一人になりたくない」
「幽霊がいたずらするっていう話? まさか信じたの?」
あの話、冗談でしょ。しかしぼくの推測とは裏腹に、思い詰めた深刻そうな顔をしたターがぼくを見ている。しょうがない。
「え、えー。まあいいけど。。。じゃあ、うちにくる? それならターの家によらずにうちに帰るよ」
怖い怖いという恋人を(自宅にとはいえ)置き去りにするのはさすがに心が痛む。幸い、仕事は切羽詰まってないし、一緒に過ごす時間は貴重だし、と自分にいいきかせて、OKの返事をした。明らかに、ほっとしたようすのターを見て、こちらもうれしい気持ちになる。恋人に頼られるのは、素直にうれしいし。
帰宅して。ターと話しながら廊下を歩き、リビングに入ろうと電気のスイッチを入れたら、一瞬、明るくなって、バンっ暗くなってしまった。
その瞬間、後ろで
「ひーーーー」と大声が聞こえ、どしん!とターが尻もちをついた。電気が消えたことよりも、ターの声にびっくりする。
「びっくりした……。ター、電球が切れただけだよ。大丈夫? 怪我しなかった?」
「なんで? こんなタイミングよく? なあ?」
「ター、落ち着いてよ。大丈夫だよ。替えの電球持ってくる。あ、一緒に行こう?」
そう言って、ぼくは棚からストックの電球を取り出して、切れた電球と取り替えた。パチパチとスイッチをオンオフして、問題なく点灯することを確認すると、ターがほっとしたのがわかった。
「ター、ソファに座ってて。お湯を沸かして、紅茶でも入れるよ」
少し落ち着こう。キッチンはリビングから続いているので、ターも不安にならないはず。ターの姿を目に入れつつ、茶葉の缶を手にとった。
「なあ?」
ターに言われて、振り向く。
「このぬいぐるみって位置替えたの? この前来た時は、向こうの棚の上にあったよな?」
「え? 場所変えたりは」
ーーしてないよ。
言われて気づく。確かに。動かしてないのに、動いてる! 慌てて言葉をのみこんだものの、言わんとしていたことは伝わってしまった。
「なにそれ。なんで? 動かしてないのに、一人でに歩くなんてことないだろ?」
「ター、落ち着いてってば。ぼくが寝ぼけて動かしたのかもしれないし」
本当はそんなことはない。ぼくは寝ぼけて何かするタイプじゃない。けど、そういうしかないじゃないか。長くこの家に住んでいるけど、こんなことは一度もなかったのに。
あーー。もう。
ぼくはこっそり静かに動いた。電気のスイッチをオフ! 真っ暗にする。
「なんだよ!」
とターの抗議を受けて、再び電気をつけた。
「お化けじゃなくてぼくのいたずら〜〜。大丈夫だよ。気にしすぎだよ。霊なんてここにいないって」
そう言って、ターのもとまで駆けて行って、抱きしめた。うん。すべての出来事は説明がつくもの。電気が切れたのは寿命。ぬいぐるみも遊びにきた誰かが動かしたに違いない。いたずらって人がするものだ。ぼくはターが落ち着けるようにと、ぎゅっと抱きしめたまま、背中をとんとんとたたいた。
ふと、ぼくたちの姿が映る窓が目に入った。
ーーえ?
ぼくは声にならない声をあげた。窓の外に、赤く光る玉が浮遊している。ここはマンション11階。部屋の明かりが反射しているのかと思って、振り返ったが該当するものは見当たらない。
「ええ? ああっっ……」
つい声が漏れてしまった。ここで大声を出したら、気づいたターが発狂しかねない。ええ? なにこれ? 火の玉? 外の光が反射してこんな形に……ならないだろうな。ふわふわ浮いているようにしか見えない。ガスに火がついた? いや。それはお墓での話。さすがにこんな高さでは考えにくい。ええー? と思っている間に、ふわっと強く光った。
ーーあ、消えた!
ぼくが呆然と窓の外をみているのに、ターは気づいたのだろう。
「なあ。ネオ、なに? 外に何か見えるの? 俺、怖くてそっち見れない」
ねえ、ねえと肩を揺すられたが、ぼくから言えるはずがない。え? ター。君、なにを連れてきたの? こんなこと今まで経験したことないんだけど。しかし、それらの言葉はすべて口の中に飲み込んだ。ぼくは努めて平静を装って、ターに顔を向けた。
「なにも……ないよ?」
「うそだ! ぜったいにうそ! なあ、なにがあった?」
肩をがくんがくんと揺すられながら、ぼくは乾いた笑いを浮かべるしかない。
ター、君の愛されキャラはみんなをとりこにするって知っているけど。もしかして幽霊にも好かれるの? いたずらってなに? なにされるの!?
「ター? 疲れてるから、早めに寝よう?」
ひとまず寝てしまいたい。このままバスルームに行って人影が見えたら洒落にならない。さっさと寝ることを選択したぼくは、ターの手を引いて寝室に向かう。ねえ。幽霊は怖くないけど、ハロウィンは怖くなってきたよ。
ーーハッピーハロウィン! 誰かわからないけど。お菓子お供えするから、お願い。いたずらはやめて……